『プラトーン』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) プラトーン [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

原題:“Platoon” / 監督&脚本:オリヴァー・ストーン / 製作:アーノルド・コペルソン / 製作総指揮:ジョン・デイリー、デレク・ギブソン / 撮影監督:ロバート・リチャードソン / 美術:ローデル・クルツ、ドリス・シェアマン・ウィリアムス / 編集:クレア・シンプソン / キャスティング:パット・ゴールデン、ウォーレン・マクレーン、ボブ・モロネス / 音楽:ジョルジュ・ドルリュー / 出演:チャーリー・シーントム・ベレンジャーウィレム・デフォー、ケヴィン・ディロン、フォレスト・ウィテカー、ジョン・C・マッギンリー、フランチェスコ・クイン、デイル・ダイ、ジョニー・デップ、キース・デイヴィッド、コーリー・グローヴァー、マーク・モーゼス、トニー・トッド、レジー・ジョンソン、ボブ・オーウィグ、デヴィッド・ニードルフ / 配給:Warner Bros. / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

1986年アメリカ作品 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:岡枝愼二

1987年4月29日日本公開

午前十時の映画祭9(2018/04/13~2019/03/28開催)上映作品

2018年3月16日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/9/4)



[粗筋]

 1967年、クリス・テイラー(チャーリー・シーン)は一兵卒として、カンボジアベトナム国境付近に赴任した。名門大学に通う裕福な青年だったが、少数民族貧困層ばかりが戦場に送りこまれる現実に憤り、志願したのである。

 だが、クリスは早々に自らの決断を後悔する羽目になった。到着するなり前線に送られ、暗闇のなかを延々と行軍した挙句に、穴掘りに酷使される。

 クリスが配属された第25歩兵師団の小隊は、実際の指揮官よりも、ベテランのボブ・バーンズ二等軍曹(トム・ベレンジャー)のほうが幅を利かせている状態だった。バーンズに意見できるのはエリアス・グロージョン三等軍曹(ウィレム・デフォー)ぐらいだが、両者の対立は戦況の悪化に合わせるように激しくなっていった。

 敵と遭遇しても立ちすくむしか出来なかったクリスも、次第に逞しくなり、部隊に順応していった。しかし、敵が潜んでいるという村を襲撃した際、クリスは戦場の更なる地獄を目の当たりにするのだった……。

[感想]

 ベトナム戦争という背景に、チャーリー・シーンの姿があると、一瞬『地獄の黙示録』か、と思ってしまう――あちらは父親のマーティン・シーンだが、ちょうど顔立ちがもっとも似通っている時期なので、私のように短期間のあいだに続けて観ると錯覚してしまうのもたぶん致し方ない。

 自らの体験も反映した、というオリヴァー・ストーン監督がどの程度、先行する傑作を意識していたのかは解らないが、本篇の主題や展開は『地獄の黙示録』に似通っている。本篇もまた、戦場というものが人間に齎す変化、狂気に焦点を当てている。

 違うのは視点人物が、『地獄の黙示録』では戦場に親しみすぎた男であったのに対し、本篇は純真さから戦場に初めて身を投じる新兵になっていることと、最終的に対峙するものの位置づけだ。

 新兵であるがゆえに、ベトナムに限らず戦場の経験は一切なく、目にするものも実際の任務もすべて初めて体験するものだ。だからこそ、ひとつひとつの出来事に意味や理由を求める意識が当初は存在している。延々と穴掘りをさせられることが理解できず、正論と思える意見が退けられる様に不満を抱く。だが、時が経つにつれ、新兵らしい初々しさは消えていき、精悍な振る舞いをするようになる一方で、常軌を逸した実態にも次第に慣れていく。決して納得はしていないが、どうにか順応し、戦場で生き延びる術を学んでいくのだ。

 ある段階までは動じていないようにも映る『地獄の黙示録』と異なり、テイラーのこうした変化は劇的であり、象徴的だ。『地獄の黙示録』の主人公は特殊な任務を帯びて最前線に向かっており、戦争の“現実”を大前提として理解している。そのために、経験が通用しないほど過酷な様相を呈しているその現場に焦点が当てられるが、本篇のテイラーにとってはこれが初めての体験であり、唯一知る“戦争”だ。ある程度現実を知ったうえで戦場に臨む男が目撃する『地獄の黙示録』が寓話的、神話的であるのに対し、本篇は反戦のメッセージがより純化している、と言えそうだ。

 もうひとつ、最後に対峙するものについては、クライマックスの内容に繋がるものなので詳述は避けたい。ただ、本質的に『地獄の黙示録』と似通いつつも、それが立ち現れる瞬間や、最後の選択の意味合いが異なっている、くらいは触れていいだろう。

 この点において特筆すべきはウィレム・デフォー演じるエリアス三等軍曹の存在だ。長いこと戦場で生き延びてきたが、良心の面で染まりきっていないこの男の存在こそ、本篇をもっともシンプルに特徴付けている。戦友に対する思いやりさえ備えたこの人物が舞台において特異な地位を築き、そうしてクライマックス手前のああした状況に追い込まれることが、戦争というものの現実をもっとも明確に象徴する。そして、この人物がいたからこそ、本篇はテイラーのあの行動でしか幕が引けなかったのだ。

 テーマをより純化させ、象徴を整理したがゆえに、物語の構成が解り易くなったことで、本篇は高いメッセージ性と共に娯楽性をも獲得している。『地獄の黙示録』よりも近しく、そして生々しさを帯びているのは、監督の実体験を反映していることも大きいのだろうが、作品としての再構築が理想的に成し遂げられたがゆえだろう。

 現場を知っているだけに妥協がなく、その場に身を置いているかのような緊迫感に満ちた戦闘シーンも併せ、今後も戦争映画を代表する傑作として『地獄の黙示録』とともに語り継がれる作品であることは疑いない。

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