『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(IMAX)』

TOHOシネマズ日比谷の入っている東京ミッドタウン日比谷を背景に撮影したパンフレットの一部。

原題:“Once Upon a Time in...Hollywood” / 監督&脚本:クエンティン・タランティーノ / 製作:デヴィッド・ハイマン、シャノン・マッキントッシュクエンティン・タランティーノ / 製作総指揮:ジョージア・カカンデス、ユ・ドン、ジェフリー・チャン / 撮影監督:ロバート・リチャードソン / プロダクション・デザイナー:バーバラ・リング / 編集:フレッド・ラスキン / 衣装:アリアンヌ・フィリップス / 視覚効果デザイン:ジョン・ダイクストラ / キャスティング:ヴィクトリア・トーマス / 出演:レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットマーゴット・ロビーエミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、ジュリア・バターズ、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニングブルース・ダーン、マイク・モー、ルーク・ペリーダミアン・ルイスアル・パチーノ / ハイデイ・フィルムズ製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2019年アメリカ作品 / 上映時間:2時間41分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

2019年8月30日日本公開

公式サイト : http://www.onceinhollywood.jp/

TOHOシネマズ日比谷にて初見(2019/9/19)



[粗筋]

 1969年2月、俳優のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は親友であり長年専属のスタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)を連れて赴いたバーで、プロデューサーのマーヴィン・シュワーズ(アル・パチーノ)と面会した。シュワーズはローマで撮影される西部劇の主役を捜しており、リックを候補に考えている、という話だった。

 シュワーズと別れた直後、リックは落涙する。シュワーズはリックを評価していたが、彼の物言いはリックの凋落した現実をも的確に指摘していた。8年前、リックはテレビ映画『賞金稼ぎの掟』で一躍スターダムにのし上がったが、映画への転身を試みて失敗、出世作は打ち切りとなり、近年はシリーズ物の悪役ゲストやパイロット版止まりの作品でどうにか食いつないでいる有様だった。

 軽視されているマカロニ・ウエスタンだろうが話がもちこまれるだけましだ、と慰めるクリフもまた、最近は冷や飯を食わされている。かつてはリックの出演作はすべて彼がスタントを行っていたが、リックの露出が減ればクリフの活躍の場も少なくなる。以前、『グリーン・ホーネット』の現場に関わった際、トラブルを起こしてしまい、そのせいでリックが出演する西部劇のゲスト出演にも呼ばれず、リックの送り迎えと折れたアンテナの修理をするしかない。

 リックの邸宅には最近、新しい隣人が出来た。ちょうど『ローズマリーの赤ちゃん』が世界的な大ヒットを遂げ、シャロン・テート(マーゴット・ロビー)という若く美しい女優と結婚したばかりのロマン・ポランスキーである。夜ごとパーティに繰り出し、セレブリティの日常を謳歌する彼らの姿は、ドライブイン・シアターの片隅のキャンピングカーで生活するクリフはもちろん、ローンの支払いに汲々とするリックにも眩しく映っていた。

 リックが今回演じるのは、かつてのヒーロー像の面影すら残らない、西部劇の悪役。以前よりも台詞覚えが悪くなっているリックは、自主的にリハーサルを重ねても思うような演技が出来ず、苛立ちを隠せない。だが、そんな彼を、小さな共演者トルーディ(ジュリア・バターズ)の存在が救うのだった――



[感想]

 つくづくクエンティン・タランティーノというひとは映画が好きしい。そのことは劇中にちらちらと姿を見せる実在作のフィルムや宣伝素材のマニアックぶりからも察しがつくが、何よりも作品全体のモチーフに採り上げた“事実”からも窺える。

 しかも今回、恐らくは意図して、そのモチーフについての知識があるかないかで、観客の受け止め方が変わるように作っている。

 そのモチーフについて知っているひとにとって、本篇はほぼ序盤からクライマックスまで終始不穏さがつきまとい、強い緊張感のもとで鑑賞するはずである。事実、随所に織り込まれる意味深な沈黙、視線のやり取りが孕む危うさに、最後まで振り回されてしまう。

 だが、もしそのモチーフについて予備知識の乏しいひとにとっては、恐らくずっと悲哀を帯びたコメディに映るはずだ。暮らす家は大きく、人前での言動にはスターとしての矜持が窺えるが、その実情はかなり寒い。ところどころ挟まれる、本篇のために創作されたと思しいリックの出演作や、予備知識がなくても一目瞭然の大スターがひょっこり顔を覗かせるあたりにニヤリとしつつも、全体ではあからさまに落ちぶれながら、そこから脱しようともがくリックや、どう対処すればいいか解らず、リックから与えられる雑事を淡々とこなすクリフの姿に哀れを感じてしまう。タランティーノらしい会話のセンスやユーモアを留めつつ、人情噺めいた印象も受けるのではなかろうか。

 公開時、“ラスト20分で映画史が変わる”という大きく出た惹句を用いていたが、その意味を理解するには間違いなく予備知識が要る。だが個人的に、もし本当にこの作品が何をモチーフにしているのか、現段階で理解していない、というなら、そのまま鑑賞してみるのも一興だと思う。その場合、『デス・プルーフ』にも通じる退屈を味わう危険もあるのだが、それでもふだんのタランティーノらしい洒脱さにしばしば紛れ込む人情味と、何故か解らないけどやたらと派手でカタルシスに満ちたクライマックスに痺れるはずだ。

 そしてそのうえで、詳細な解説を施したパンフレットなり、ウェブで検索するなり、捜せばたくさん出てくる書籍で、モチーフについて理解していただきたい。そして、作品の細部について記憶が薄れたあたりでもういちど鑑賞していただければ、私の書いた意味が解るはずだ。

 狙っていた、とすればその企みの深さに恐れ入るしかない。だが仮に天然だとしても、それをやってのけてしまうことがタランティーノというひとの才能だろう。いずれにせよ、映画をこよなく愛し、やもすると鬱陶しいくらいにディテールに拘って、作品や映画人に対して敬意を払っていた監督だからこそ為せる技には違いない。その作風を貫いてきたクエンティン・タランティーノゆえの傑作なのである。



 ……ただ、劇中に登場するブルース・リーの描写については、身内や熱烈なファンからクレームがついているようだ。私も、文句をつけられても致し方ないかな、と感じるような描き方だったが、あれもまた、同時代を生きた証人たちの口から語られる人物像の一部を敷衍していることは確かなので、出来れば大目に見てあげて欲しい――構成的に見れば、彼がああいう役回りであることにもちゃんと意味があるのだし。



関連作品:

パルプ・フィクション』/『レザボア・ドッグス』/『キル・ビル Vol.1』/『キル・ビル Vol.2』/『グラインドハウス』/『デス・プルーフ in グラインドハウス』/『イングロリアス・バスターズ』/『ジャンゴ 繋がれざる者』/『フロム・ダスク・ティル・ドーン

ウルフ・オブ・ウォールストリート』/『マリアンヌ』/『スーサイド・スクワッド』/『ローン・サバイバー』/『クレイジーズ』/『オーシャンズ8』/『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』/『ドリームキャッチャー』/『オーシャンズ13

ジャイアンツ(1956)』/『荒野の用心棒』/『続・夕陽のガンマン』/『007/ゴールドフィンガー』/『大脱走』/『卒業』/『いちご白書』/『燃えよドラゴン』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』/『戦場のピアニスト