『さらば愛しきアウトロー』

TOHOシネマズシャンテの入っているビル外壁にあしらわれたキーヴィジュアル。

原題:“The Old Man & The Gun” / 原作:デヴィッド・グラン / 監督&脚本:デヴィッド・ロウリー / 製作:トビー・ハルブルックス、ビル・ホルダーマン、ジェームズ・M・ジョンストン、アンソニー・マストロマウロ、ドーン・オストロフ、ロバート・レッドフォード、ジェレミー・ステックラー、ジェームズ・D・スターン / 製作総指揮:ジュリー・ゴールドスタイン、パトリック・ニューオール、マーク・シュミットハイニー、ルーカス・スミス、カール・シュペリ / 撮影監督:ジョー・アンダーソン / プロダクション・デザイナー:スコット・クジオ / 編集:リサ・ゼノ・チャージン / 衣装:アネル・ブロデュール / 音楽:ダニエル・ハート / 出演:ロバート・レッドフォードケイシー・アフレックシシー・スペイセクダニー・グローヴァートム・ウェイツ、チカ・サンプター、アリ・エリザベス・ジョンソン、ティーガン・ジョンソン、ジーン・ジョーンズ、ジョン・デヴィッド・ワシントン / 配給:LONGRIDE

2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:齋藤敦子

2019年7月12日日本公開

公式サイト : https://longride.jp/saraba/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2019/7/13)



[粗筋]

 1981年、テキサス州アメリカン銀行に、銀髪の紳士然とした人物(ロバート・レッドフォード)が現れた。窓口に立った男は用件を問われると、懐に隠した銃を示し、鞄に金を積めるように促す。鞄を受け取ると、挨拶を残して男は銀行を出て行き、白いセダンで悠然と走り去っていった――。

 男は途中で車を乗り換えたあと、高速道路で逃走中、道端でエンストを起こして難渋している女性を見つけて停車する。逃走中にも拘わらず、男はジュエル(シシー・スペイセク)と名乗ったその女性を途中まで送り届けるのだった。

 数日後、男はふたりの仲間と共に、別の銀行を襲撃した。折しもその銀行に子供たちを伴って来ていた刑事のジョン・ハント(ケイシー・アフレック)は、突如として支店長が入口を封鎖し、銀行強盗が現れた、と告げたことに衝撃を受ける。男はこの前と同様、手際よく犯行に及んでいた。犯人の特徴を問われた支店長は、「非常に紳士的だった」と、むしろ賞賛するような表情で語るのだった。

 ほどなく、ふたたび銀行が老紳士によって襲撃された、という通報があり、先の因縁もあってハントが担当を命じられる。伝手から、「似たような犯行を聴いた覚えがある」と教えられたハントが直感に導かれて周辺地域の強盗事件を調べると、この犯人は同様の犯罪を多くの土地で行っていたことが判明する。

 その頃、仲間たちと共に新たな計画の準備を進めていた男は、警察が一連の犯行が同一グループの仕業である、と嗅ぎつけたことをニュースで知る。そのニュースの中でインタビューに答えたハント刑事は、男たちの一味を“黄昏ギャング”と名付けていた。

 やがてハントたちも知るところとなる男の本名はフォレスト・タッカー。彼の生き様はまさに、犯罪こそが天職と言わんばかりのものだった――



[感想]

 2018年、ロバート・レッドフォードは俳優として引退する意思を表明した。映画業界から完全に身を引く、という訳ではないようで、現在も製作側として新作を準備しているが、もし決意が翻らなければ、これが最後の主演作となるはずだ。北米では制作の都合により、本篇のあとに公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも出演しているが、あちらは成り行き上のオマケみたいなものに過ぎない。

 レッドフォード自ら製作に名を連ね選んだこの作品で演じたフォレスト・タッカーという役は、まさに俳優ロバート・レッドフォードの集大成、と言ってもいい人物像になっている。それ故に、彼の出演作にある程度触れているひとなら、観ているあいだじゅうずっと痺れるような喜びを味わえるはずだ。

 登場した瞬間から既に、挙措が格好いい。スーツで固めた紳士然とした立ち居振る舞いを崩すことなく、窓口の人物を脅す――というより説得するような調子で金銭を要求、ほとんど騒動を起こすこともなく現場を立ち去っていく。一瞬の隙に逃走車輌を乗り換え、それを嗅ぎつけられている状況で高速に車を停め、エンジントラブルで立ち往生したジュエルを手助けする、人を食った躱し方をする。

 このフォレスト・タッカーという男の面白いところは、一連の行動に深い狙いや意図があるのか、いまいち判然としないことだ。冒頭のあまりにも鮮やかな手際、繰り返して描かれる銀行強盗の手口は経験によって裏打ちされているイメージだが、そこで見せる被害者への気遣いは、計画の外にいるときのジュエルに対する接し方と大きな隔たりはない。まるで日常的な行為の延長に、“銀行強盗”という“生業”があるかのようで、軽妙洒脱なのに気取りが乏しい。ジュエルに対して、当初は身許を偽っているのだが、それも2人のやり取りを見ていると、大人だからこその腹の探り合い、一種のゲームのように映る。

 そうして常に韜晦しているように見えて、しかし強盗に入った銀行の窓口の女性が泣き出すと真摯に励ます姿や、ジュエルの反応に垣間見せる一喜一憂ぶりには嘘を感じさせない。世俗に対して超然としているかのようでいて、その所作には人間味をたたえている。

 このフォレスト・タッカーという人物像の味わいは、ロバート・レッドフォードという俳優のイメージと重なって映る。プライヴェートをほとんど見せず、悪党であれ正義漢であれ芯の通った魅力的なスターであり続けた。それでいて決して仲間をないがしろにせず、垣間見える素顔に親しみすら感じさせる。謎めいているのに、人間味に嘘くささがない。実在の人物と事件をベースにしているが、本篇のフォレスト・タッカーは明らかに、レッドフォードという不世出の俳優のイメージを総括するものとして描いている。

 表現においても、その傾向は強く窺える。複数で計画に臨むとき、仲間たちと意思を疎通する仕草や目配せ、過去の逃亡を回想するくだりで草原に車を走らせ、トランクから現金をぶちまける描写など、それこそ往年のロバート・レッドフォード出演作で観た、と思うような場面、表現が巧みにちりばめられている。物語は80年代前半の出来事となっているが、シチュエーションといい映像の手触りといい、ロバート・レッドフォードがそのスター性を開花させた1970年代をイメージさせるのも、狙ってのことだろう。

 本篇には教訓じみたものはいっさい存在しない。たとえ振る舞いが紳士的であろうが、タッカーの行為は罪だが、本人は決してそれを正当化しない。だがそれでも、“これこそが自分の天職”とばかりに振る舞い、周りの者にもそれを疑わせない。透徹した潔さがあればこそ、心に触れたジュエルや、彼の存在を発見し本気で追った刑事ジョン・ハントにも影響を及ぼすのだろう。

 本邦の大杉漣のように、最期の直前まで俳優であり続け、惜しまれながら去るのもまた俳優としての理想だが、自らすべてをコントロールし、俳優としてのパブリック・イメージを保ったまま去っていく、というのもまた美しく、この上なく凜々しい。もう2度と俳優としての新たな一面を観ることは出来ない、というのはやはり寂しく思えるけれど、彼自身が決めたこの引き際に納得しないファンはいないだろう。稀代のスターにして映画人らしい、素晴らしい“最後の挨拶”である。こんな風に終りを飾れるのも、俳優としてはこの上なく幸いではなかろうか。

 この作品で特に粋なのは、普通なら観たいと思う場面をところどころ、あえて省いているところだ。惨めな姿はあえて見せない、という趣向でもあるのだろうが、意識的に観客の想像に委ねることで、フォレスト・タッカーという人物の魅力、ひいてはそれを可能にしたロバート・レッドフォードという俳優の存在をより鮮明に刻みつけている。それが最も効果を示すのは、エピローグである。洒落ているが素っ気ない、とも取れる締めくくりのあと、エンドロールを眺めているあいだ、多くの観客の脳裏には、レッドフォードの悪戯っぽい笑顔が浮かんでいるはずだ。

 技巧と趣向に満ちた、コンパクトながらも極めて味わい深い秀作だが、なにより、ロバート・レッドフォードという俳優に少しでも惹きつけられた記憶のあるひとは決して観逃してはいけない1本である。極上のカーテンコールがもたらす幸福な余韻に、出来れば映画館で浸っていただきたい。



 ちなみに本篇の原題は“The Old Man & The Gun”、アーネスト・ヘミングウェイの“The Old Man & The Sea(老人と海)”にあやかっていると思われる。だとすれば、邦題は『老人と銃』が適当だったように思う。

 ……が、こんな邦題になったのも、個人的には納得できる。いくら事実とは言い条、ロバート・レッドフォードを“老人”呼ばわりはあまりしたくない。きっと似たような考えを持ったひとが配給会社にいて、少々気取った、こんな邦題に落ち着いたのだろう。私は嫌いじゃない。



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