『愛と青春の旅だち』

TOHOシネマズ日本橋、3階から5階への上りエスカレーターの折り返し通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭10-FINAL』当時) 愛と青春の旅だち [Blu-ray]

原題:“An officer and a gentleman” / 監督:テイラー・ハックフォード / 脚本:ダグラス・デイ・スチュアート / 製作:マーティン・エルファンド / 撮影監督:ドナルド・ソーリン / プロダクション・デザイナー:フィリップ・F・ジェフリーズ / 編集:ピーター・ツィンナー / キャスティング:ナンシー・クルーパー / 音楽:ジャック・ニッチェ / 出演:リチャード・ギアデブラ・ウィンガー、デヴィッド・キース、ロバート・ロッジア、リサ・ブロント、ルイス・ゴセット・ジュニア、トラー・プラナ、ハロルド・シルヴェスター、デヴィッド・カルーソ / 初公開時配給:CIC / 映像ソフト発売元:Paramount Japan

1982年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1982年12月18日日本公開

午前十時の映画祭10-FINAL(2019/04/05~2020/03/26開催)上映作品

2019年4月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2019/7/30)



[粗筋]

 ザック・メイヨ(リチャード・ギア)は幼少のころ、母を突然失った。その母を捨てていった海兵隊員の父に引き取られ、当時滞在していたフィリピンに始まって世界各地を転々とする生活を送ったあと、どうにか大学を卒業する。その後の進路にザックが選んだのは、士官候補生の道だった。

 シアトルにあるレーニエ士官学校に入学したその日、ザックらの担当教官として現れたエミール・フォーリー軍曹(ルイス・ゴゼット・ジュニア)は候補生たちを口汚く罵り彼らを煽る一方、近づいてくる女に警戒するよう忠告する。田舎から抜け出したい彼女たちは、避妊具に穴を開けて候補生たちを罠に掛ける、とうそぶくのだった。

 初日から過酷な訓練が行われるなか、懇親パーティに先駆けて挨拶に訪れた女性にザックと、同室のシド・ウォーリー(デヴィッド・キース)は惹かれる。懇親パーティで彼女たちを見つけ出すと、2人して接触を試みた。

 ザックたちに目をつけられたポーラ・ポクリフキ(デブラ・ウィンガー)とリネット・ポメロイ(リサ・ブロント)もまた、士官候補生に接近する機会を窺っていた。ダンスのあとでふた組はパーティ会場を抜け出すと、ザックはポーラと、シドはリネットと、それぞれが結ばれる。

 士官候補生としての訓練は日を追うごとに厳しさを増し、脱落者も出始めるが、ザックは一定の成績を収め、希望していたジェットの操縦士への道に着実に近づいていく。しかし、思わぬ形で試練がザックを待ち受けていた――



[感想]

 この作品は邦題がいささかクセ者だ、と思う。このタイトルゆえに、ベタベタの青春ロマンスのような印象を生み、そういうものを苦手とする観客を遠離けているはずだ――他でもない、私自身がそういう理由でこれまでまったく関心を持っていなかったのだから。

 とはいえ、実際に観てみても、青春映画という捉え方もロマンスという捉え方も間違っていない。ただ、想像していたよりもはるかにシビアで誠実だ。作りに浮ついた印象はない。

 序盤で教官が脅しとも冗談とも取れる口振りで「地元の女たちに気をつけろ」と諭し、その言葉通りザックたちがポーラに巡り逢い、蜜月を謳歌するくだりは安易にも映るが、ザックたち士官候補生たちにも、ポーラたち地元の女たちにも、そういう道を選択してしまう事情があることが描かれている。

 士官候補生たちは休日以外に遊ぶ時間はなく、地元の娘達から向けられる羨望の眼差しを意識すれば手出しせずにいられない。対する地元の娘達にとって、有望な士官候補生を捕まえることは即ち、この土地から離れられることを意味する。裕福とは到底言えないポーラやリネットの暮らしぶりを思えば、最高の好機なのだ。彼女たちが教官の言った通りに、「避妊具に小細工する?」という話をしているのも、傍目には滑稽ではあるが、彼女たちにとっては真剣な悩みなのだろう。

 女性達と比べると悩みがないように見える士官候補生にしても葛藤はある。本篇ではあまり強く掘り下げて描いている印象はないが、それぞれに強い動機やプライドがあって士官への道に臨んでいる。成績を巡って互いに敵愾心を露わにする一方で、問題を起こしたり、成績不振を理由にして道半ばで退いていった仲間に複雑な眼差しを向ける。士官候補生それぞれの葛藤と、それ故に彼ら自身のあいだに育まれる仲間意識も、本篇は巧みに抽出している。決して派手な見せ方はしていないし、この特殊な環境ならでは、の様相だが、確かに青春ドラマとしか言いようのないものを、絶妙な節度で以て描いている。

 こうした友人関係と恋愛関係が、クライマックスで大きなドラマを形作る――とは言い条、フィクションに慣れた者には決して意外な成り行きではない。あまりにもあからさまな心理的伏線を設けているため、察しを付けるのは容易い。しかし、ここで問題にすべきは意外性ではなく、こういう道筋を必然的に選ばされてしまう哀しさだろう。ある人物の非情な選択がもたらす結末だが、序盤からの描写を見ていれば、その利己的な判断を一概に責めることは出来ない。そして、最終的な決断を下した者に対して、他の選択肢があったはず、と言うことは簡単だが、そう割り切れないことが伝わるからこそ胸に迫る。

 本篇の終幕は文字通り、まさに絵に描いたようなロマンティックなものだが、しかし本篇を通して観たものには、その向こう側に他の人々の姿を透き見るはずだ。そこに見えるのはただの浮ついた幸運の物語ではなく、劇中の苦悩や悲劇を背負った者の決意ある後ろ姿なのだ。

 本篇の青春ドラマとしての優秀さはこうした、簡潔ながらも的確な表現に窺えるが、その味わいにもうひとり貢献しているのが、士官候補生たちの上に君臨するフォーリー教官だ。初めて学校を訪れ浮かれている新たな候補生たちを荒々しく罵倒し冷や水を浴びせると、妥協のない姿勢で彼らに訓練を施す。どこかに私情を交えているようにも思える彼の指導にザックは反発するが、不思議なことに決定的な対立にまでは発展しない。紆余曲折を経て訪れた別れの日の教官と、晴れて士官となった教え子たちとのやり取りは、ラストシーンと共に忘れがたい印象を残す。これもまた、士官学校という特異な条件下ならではの見せ場と言えよう。

 解り易いロマンス、という包装をし、結末もそれに寄せながら、その実、他の世界にはない青春ドラマを、共感しやすく描きだしている。単純に映画ならではの美しい絵空事と受け止めるのもいいが、それでは収まらない奥行きを備えた秀作である。正直、侮ってました。



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