『任侠学園』

TOHOシネマズ西新井の入っているアリオ西新井、駐輪場脇の壁面に掲示されたポスター。

原作:今野敏(中公文庫・刊) / 監督:木村ひさし / 脚本:酒井雅秋 / 製作:勝股英夫、川城和実、加太孝明、清水武善、大西繁、松田陽三、布部順一、木村徳永 / 撮影:葛西誉仁 / 照明:岩切弘治 / 録音:仲山一也 / 美術:高橋龍也 / 装飾:佐藤孝之 / 編集:冨永孝 / 衣装:加藤優香利 / 音響効果:松井謙典 / 音楽:末廣健一郎 / 主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ『ツギハギカラフル』 / 挿入歌:西田敏行また逢う日まで』 / 出演:西島秀俊西田敏行伊藤淳史葵わかな葉山奨之池田鉄洋佐野和真前田航基戸田昌宏猪野学加治将樹川島潤哉高木ブー佐藤蛾次郎桜井日奈子、白竜、光石研中尾彬生瀬勝久 / 企画&制作プロダクション:ROBOT / 製作幹事&配給:avex pictures

2019年日本作品 / 上映時間:1時間58分

2019年9月27日日本公開

公式サイト : http://ninkyo-gakuen.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2019/10/1)



[粗筋]

 阿岐本組は弱小ヤクザだが、堅気には決して迷惑をかけず、問題の解決に尽力するので地元の信頼は厚い。だが、そんな組員を従える組長・阿岐本雄蔵(西田敏行)の人の好さにつけこんで、兄貴分にあたる永神健太郎(中尾彬)が焦げついた不良債権をしょっちゅう持ちこんでくるのが、若頭の日村誠司(西島秀俊)にとっては頭痛の種だった。

 ある日、日村の隙をついて永神が組長に押しつけてきたのは、よりによって学校だった。仁徳京和学園高校はこれといった問題もないが目立った特徴もなく、このままだと来年以降の新入生は期待出来ない。

 学校に厭な記憶しかないが、組長の命令ゆえに仕方なく学園の理事となり、舎弟の二之宮稔(伊藤淳史)らとともに学園へと赴く。外観は小綺麗で生徒もごく平凡な雰囲気だが、花壇はすっかり枯れ、校舎の周囲にはガラスの小さな破片が残り、トラブルの気配らしきものが窺えた。

 とはいえ高校を中退している日村にはこれといった対策も思いつかない。訪問中に、パンを奪い合って争っていた沢田ちひろ(葵わかな)と小日向美咲(桜井日奈子)を仲裁しても、喧嘩のやり方を指南して、周囲を困惑させてしまう。

 だが、組長はそれでも日村に対策を委ねた。二之宮たち舎弟をしっかりと育てた日村なのだから、生徒たちのことも舎弟と考えればいい、と組長は助言する。

 かくして、善人ばかりの極道たちによる、学園改革が始まるのだった――



[感想]

 不勉強にも原作の存在自体を知らなかったのだが、どこかで予告篇を1回観ただけで、強く心惹かれてしまった。だいぶ期待して鑑賞したのだが、いい意味で裏切りのない、痛快な喜劇だった。

 堅気には決して手出ししない極道など、恐らく現実にはほぼ存在しない。ただ、往年のフィクションには当たり前のように描かれていた善良な極道が、現実にいるならどのように世渡りしているのか? という命題はそれ自体興味深い。本篇はそれに真っ向から取り組み、コメディに昇華させている。

 のっけから若頭・日村の苦労が偲ばれる描写がいちいち楽しい。ほかの組と警察とのトラブルに割り込んで収拾を図る一方、兄貴分の永神が親分に厄介な案件を持ち込まないよう目を光らせる。油断した隙に接触された、と知ったときの表情がたまらなく可笑しい。

 日村に限らず、阿岐本組の面々はみな本当に善良なのだ。同業者や悪党には強面に振る舞っても、堅気に対しては可能な限り丁重に接しようとする。組の方針であり親分の命令ではあるが、委ねられた学園でのトラブルに全力で向き合う姿が頼もしくも笑えてしまう。

 面白いのは、根の善人っぷりを強く覗かせながら、トラブルの解決にあたっては、裏社会を渡り歩く者ならではの強硬手段を意識的に用いることだ。普通なら犯罪だから、と避ける手段も時として用い、卑怯な手を使う相手なら暴力も厭わない。とりわけクライマックスの正念場でのやりとりは、まさに任侠映画ならではだ。

 しばしばコンプライアンスに雁字搦めにされてしまいフィクションの中でも冒険がしにくい昨今にあって、本篇は設定を逆手に取り、あえて荒々しい手段を選択したり、違法な駆け引きも厭わない。そうすることで、往年の娯楽活劇のテイストを巧妙に蘇らせている。抑えるべきところでこらえたうえで、いざというときには法の鎖をはね除け全力で蹴散らしてくれる阿岐本組の面々の活躍が終始、痛快なのだ。

 阿岐本組の面々がみな愛すべきキャラクターであるのも、その痛快さに拍車をかけている。そもそも善人にしか見えない日村の良き右腕・二之宮に、料理にも精通する武闘派の三橋健一(池田鉄洋)、外見はチャラ男風だが日村の策のために鉄拳を浴びることも厭わない志村真吉(佐野和真)、古いタイプばかりのヤクザの中で異質だがIT担当として信頼されている市村徹(前田航基)、いずれもみな観ていて憎めない。

 用いる手段は違法だが、彼らはみなそれを弁えている。学園を建て直すうえでも、自身は乱暴なやり方を選択しても、生徒や教師には一線を越えさせない(クライマックスで自ら鉄拳を繰り出すのがいるが、あれは許容範囲としてあげたい――殴られたほうが懲りるだろうし)。およそ世直しとしても学園ドラマとしても破天荒だが、そんな彼らだからこそ生徒や教師から信頼されるようになるのも理解できるし、エピローグがグッと来るのだろう。

 製作者やキャストも本篇の出来映えに手応えを感じ、続篇を祈願する言葉を口にし、劇中でもあえて“引き”のような描写を残している。観た者としても、もし叶うなら是非とも続篇にお目にかかりたい、と思わずにいられない。原作小説は複数ストックがあるようだが、どうせ実現するなら、最後に日村の顔を曇らせたそのお題でお願いしたいところだ。タイトルは『任侠温泉』で。



関連作品:

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