『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) マイライフ・アズ・ア・ドッグ Blu-ray


原題:“ Mitt Liv Som Hund” / 原作:レイダル・イェンソン / 監督:ラッセ・ハルストレム / 脚本:ラッセ・ハルストレム、レイダル・イェンソン、ブラッセ・ブレンストレム、ペール・ベルイルント / 撮影監督:イェリェン・ペルソン / 音楽:ビョルン・イシュファルト / 出演:アントン・グランセリウス、メリンダ・キナマン、マンフレド・セルネル、アンキ・リデン、レイフ・エリクソン、クリスティナ・カールヴィンド、トーマス・フォン・ブレムセン、キッキ・ルンドグレン、イング=マリー・カールソン、ヤン=フィリップ・ホルムストレーム、ヨハンナ・ウーデン / 配給:フランス映画社 / 映像ソフト発売元:IVC, ltd.

1985年スウェーデン作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1988年12月24日日本公開

午前十時の映画祭9(2018/04/13~2019/03/28開催)上映作品

2014年10月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/10/16)



[粗筋]

 お母さん(アンキ・リデン)が元気なときにもっと話をすれば良かった。お母さんの病が進むほどに、イングマル(アントン・グランセリウス)は後悔していた。

 イングマルにはそんなつもりはないのに、お母さんを気遣ったつもりの行動が、お母さんを苦しめてしまう。しまいには飼い犬と一緒に家を出て暮らそうとしたけれど、枯れ草に火を放って大変なことになってしまった。

 お父さんは赤道のあたりでバナナの出荷の仕事をしていて戻ることが出来ない。父方の叔父(レイフ・エリクソン)はせめて夏のあいだだけでもお母さんを休ませるべきだ、と言って、イングマルとお兄ちゃん(マンフレド・セルネル)をそれぞれ別のところへ寄宿させた。

 イングマルがやって来たのは、母方の叔父であるグンネル叔父さん(トーマス・フォン・ブレムセン)とウラ(キッキ・ルンドグレン)の家だった。グンネル叔父さんは自分も参加するサッカーチームにイングマルを迎え入れ、本当の家族のように接してくれた。

 緑の髪のマンネ(ヤン=フィリップ・ホルムストレーム)や、男の子に交ざってサッカーやボクシングに興じる女の子サガ(メリンダ・キナマン)といった友達も出来て、思いのほか叔父さんの家での暮らしは快適だったけれど、気懸かりは、お母さんたちと買っていた犬のシッカンのことだった。きっと、スプートニクに載せられたライカ犬よりはましだろう、と思いながら――。



[感想]

 子供にとって、世界はままならない。身体的に未熟である、ということが大きいが、子供であるが故に、選べないことは多い。わがままではなく、これからの人生を左右するような重大事でも、たいていは選ぶ権利は与えられず、親や周りの大人が決める。まがりなりにも社会人らしきものを何年もやっていると、この感覚を忘れがちだが、子供は子供で不自由を託っている。

 しかし本篇のイングマルの境遇は、日本人の一般的な感覚からすると、かなり厳しい。どうやら母子家庭で、やんちゃな兄の行為のとばっちりを受けることが多い。しかも母親が病気を患ったことで、のびのびと行動が出来ない。粗筋のあと、更に境遇は悪化していく。もちろん世の中にはこれよりも劣悪な境遇にいる子供はたくさん存在するが、イングマルの場合、母を思いやる賢さと理性があるぶん、余計に息苦しさを味わっている。

 そんな彼の胸中を表現するのに、「スプートニクに乗せられたライカ犬よりはましだ」という、モノローグとして繰り返される表現は絶妙だ。そして、このラインを絶妙に、繊細に押さえているから、本篇は決して普遍的な出来事ではなく、明白なドラマがあるわけではないのに、目を惹かれるし、共感させられてしまう。

 そんな述懐があるにも拘わらず、本篇にはあまり悲愴感はない。イングマル少年の境遇は“不幸”と言えるが、語り口は終始穏やかだ。恐らくこの物語が、社会の暗い面にカメラを向けつつ、そこに悪意があるものと捉えていないからだろう。イングマルに癇癪をぶつける母親は病気が辛いからこそ、であり、身寄りをなくしたイングマルを父方の叔父が引き取りたがらなかったことにも悪意があるようには描いていない――子供の目線では把握しづらい種類の悪意が介在していた、と解釈することは可能だが、少なくともそのことが物語に落ちる影を深くはしていない。

 この作品に登場する人物は、基本的にみな善良だ。自らを犠牲にして他人を助けるような態度は見せなくとも、自らの領分を真っ当に守って暮らしている。イングマルと同年配の子供のなかには、子供らしい意地悪さを垣間見せる場面もあるが、それも尾を引くことはない。突然闖入してきた第三者であるイングマルを、自然に受け入れている。だから、およそ子供らしい生き方がしにくい境遇とは言い条、本篇からは決して暗い印象を受けない。

 また、本篇にはどこか滑稽で、愛嬌のある人物が多く、その風変わりなおかしみが物語のタッチを柔らかくしている。何故かイングマルに婦人用下着の広告を朗読させる老人や、奇妙な発明に血道を上げるご近所さんなど、みなどこか変わっているが愛嬌があり、やもすると深刻になりかねない物語の救いとなっている。

 なかでも突出した存在感を示すのが、サガという少女だ。男の子のような格好をして
サッカーやボクシングに興じ、イングマルと特に親しくなるが、開けっ広げなその行動がしばしばイングマルをドギマギさせる。大人の眼からすればふたりの間には確かな恋心が窺えるのだが、恐らく当人には自覚がない。そのギリギリで醸しだす甘酸っぱい空気が、不思議と心地好い。

 物語は最後、奇妙な決着を見せる。決して状況は好転していないはずなのだが、それでもどこかハッピーエンドのような空気を醸し出す。あの夢の中の出来事を汲み取ったかのような描写が、イングマルがようやく安住の地を手に入れた喜びのように映るからだろう。

 ラストシーンをどう解釈するにせよ、本篇を観終わって、モヤモヤした印象は残るにしても、不愉快な余韻を味わうことはまずないはずだ。たぶんそのときに感じていることはイングマル少年と同じなのだと思う――きっとあのライカ犬よりはましだ、と。



関連作品:

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