『マスカレード・ホテル』

TOHOシネマズ上野、スクリーン3入口に掲示されたチラシ。

原作:東野圭吾(集英社文庫・刊) / 監督:鈴木雅之 / 脚本:岡田道尚 / 製作:石原隆、木下暢起、藤島ジュリーK.、市川南 / 撮影:江原祥二 / 照明:吉角荘介 / 美術:棈木陽次 / 録音:武進 / 編集:田口拓也 / 衣装デザイン:黒澤和子 / 装飾:野本隆之 / 音響効果:壁谷貴弘 / 音楽:佐藤直紀 / 出演:木村拓哉長澤まさみ小日向文世梶原善泉澤祐希、東根作寿英、石川恋、濱田岳前田敦子笹野高史高嶋政宏菜々緒生瀬勝久、橋本マナミ、田口浩正勝地涼松たか子明石家さんま鶴見辰吾篠井英介石橋凌渡部篤郎 / 制作プロダクション:シネバザール / 配給:東宝

2019年日本作品 / 上映時間:2時間13分

2019年1月18日日本公開

公式サイト : http://masquerade-hotel.jp/

TOHOシネマズ上野にて初見(2019/1/28)



[粗筋]

 都内3箇所で発生した殺人事件。犯行手段が異なり、被害者にまったく繋がりがなく、当初は別個の事件として捜査が進められていたが、警視庁捜査一課の刑事・新田浩介(木村拓哉)が現場に残されていた暗号を解き明かしたことで、連続した事件であることが判明する。

 暗号は次の犯行場所を予告していた。3件目の事件で仄めかされた第4の犯行現場は、都内の一流ホテル・コルテシア東京。捜査本部は事件を未然に防ぎ犯人を押さえるべく、ホテルへの潜入捜査を決行する。

 フロントクラークの山岸尚美(長澤まさみ)はじめホテルのスタッフは、警察官が従業員と共に接客をすることに難色を示したが、上層部は決定を覆さなかった。複数の捜査官があちこちの部署に配属されるなか、山岸が担当することになったのが、新田だった。

 姿勢や歩き方に文句をつけられ、ヒゲを剃り髪を切ることを要求され、不平たらたらの新田だが、対する山岸も、ホテルマンとしての作法を心得ない新田に、客の前で笑顔を繕いつつも苛立ちを募らせる。

 ホテルには日々、多くの客が訪れる。山岸はホテルマンの信念として、客の要求は絶対、という姿勢を貫くが、新田は積極的に観察の眼を光らせるのだった――



[感想]

 小説、それもベストセラー作品が映画化されると、読者やファンはどうしても「どこまで原作どおりなのか?」というところに関心を持って観てしまう。以前は、映画と原作は別、と断言して大幅に改竄することは珍しくなく、それで良くなっていればまだしも、目も当てられない出来になることもしばしばだった。だが、そういう悲劇が繰り返された結果なのか、近年はだいぶ原作を尊重する傾向が強くなっており、原作ファンからの怨嗟の声が響き渡るケースも少なくなってきたように思う。

 そんな中でも本篇は、理想的と言っていいレベルで原作を映像化している。原作はやや尺が長めなので、細かにエピソードを間引いているし、圧縮している箇所も見受けられるが、大筋はほぼ原作どおりだ。その意味で不満を覚える人はほぼいないだろう。

 実は、個人的には木村拓哉が刑事・新田浩介を演じるのには一抹の不安があったのだが、まるでこちらを一笑に付すような快演ぶりを見せている。初登場のときはふてぶてしい、刑事そのものの立ち居振る舞いだが、潜入捜査を経て、気づけばホテルマンらしさが滲み出ている。客に嫌がらせじみたクレームを受けながらも怒りを押し殺して振る舞う姿や、終盤で客を見送る折り目正しい仕草に、成長を見て感心させられるほどだ。原作者・東野圭吾木村拓哉をイメージして書いていた、と本人に向けて話した、というのはリップサーヴィスの可能性もあるだろうが、案外本当のことなのかも知れない、と思わせる好演ぶりである。

 一方、こちらは配役を聞いた時点で納得していた長澤まさみも、木村演じる新田とは対照的な理念で動く、プロフェッショナルたらんとするホテルマンを見事に体現している。初めて画面に現れたとき、電話越しの受け答えで早くも風格を滲ませ、その後陸続と現れる風変わりな客への対処にも演技じみた揺れがない。

 だが本篇でいちばん感心させられるのは、ホテルそのものの存在感だ。セットだけでなく実在するホテルでもロケを実施して作りあげられた“コルテシア東京”のリアリティはただごとではない。ロビーは豪奢に飾られ、廊下や客室は整然としている一方、バックヤードは雑然とし、多くの従業員が休みなく行き交っている。客の快適な時間を支えるための努力がしっかりと描き出されているのである。そんな中に、強面の警察官たちが紛れているのだから、それだけで非常事態が起きている、という緊張感が滲む。ヴィジュアルが完璧に再現されている点は、原作の読者にとっては嬉しいところだが、それが映画としての説得力にも繋がっている。

 ただ、あまりにも原作どおりであるが故に、過去に発生した殺人事件や、関係者についての情報など、劇中で映像として描かれていない部分が解りづらいのがネックだ。原作のように、現在の出来事も過去の事件も一律で文字情報として現れるなら整理はしやすいが、映画で初めて接する人は、過去の事件について完全に把握するのは難しいかも知れない。

 もうひとつ残念なのは――あまり具体的には書けないが、映画であるがゆえに、真相が見抜きやすくなっている面があることだ。ただこれについては、他に如何ともし難かった点であり、批判の材料にするのはいささか厳しすぎるようにも思う。

 そもそも原作がサスペンスとして完成度が高い。事件と関係があるのか解らない、奇妙な客達が相次いで現れて捜査陣や観客を翻弄し、予告された日時まで緊張が続く。エピソードの配置も絶妙で、恐らく虚心に鑑賞していれば、最後まで謎解きのスリルが味わえるはずだ。この映画版は、そうした原作の美点をほぼ余すところなく汲み取って、映像に昇華している。

 何よりも高く評価したいのは、山岸についてのある描写を加えたことだ。彼女のホテルマンとしての律儀さを窺わせる一面として加えられただけにも見えるが、これがクライマックスで意味を持ってくるのである。しかも劇中ではそのことを説明していない――勘のいい人ならまず気づくだろうが、解らずに見過ごしてしまうひとも多いと推測され、それが惜しまれてならないくらいの工夫だ。

 しかしそれこそ、本篇が原作を映画としてきちんと昇華させよう、と誠意を持って取り組んだ証であるように思う。原作やその読者に誠実でありながら、きちんと“映画”へと発展させた本篇は、お手本にしたいレベルで理想的な映画化作品、と言っていいと思う。



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