『恐怖の報酬(1953)』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン2入口前に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督『恐怖の報酬』Blu-ray

原題:“ Le Salaire de la peur” / 原作:ジョルジュ・アルノー / 監督、脚色&台詞:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー / 撮影監督:アルマン・ティラール / セット:ルネ・ルヌー / 編集:マドレーヌ・ギュ、ヘンリ・ルスト / 音楽:ジョルジュ・オーリック / 出演:イヴ・モンタンシャルル・ヴァネル、ヴェラ・クルーゾー、フォルコ・ルリ、ペーター・ヴァン・アイク、ウィリアム・タップス、ダリオ・モレノ、ヨー・テスト / 配給:東和 / 映像ソフト発売元:IVC,Ltd.

1953年フランス作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:?

1954年7月25日日本公開

第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05~2015/03/20開催)上映作品

2017年7月28日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon|クルーゾー監督傑作選 Blu-ray BOX:amazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2015/2/4)



[粗筋]

 中米、ヴェネズエラのラス・ピエドラスは、劣悪な環境ゆえに産業が育たず、職にあぶれた者が溢れかえっている。フランスからやって来たマリオ(イヴ・モンタン)も、職を持たず、ツケで飲み明かすような日々を送っていた。

 同じくフランスから、ジョー(シャルル・ヴァネル)という男がやって来た。様々な武遊伝を語るジョーにマリオは惚れ込み、前々から付き合いのあったルイジ(フォルコ・ルリ)や恋人のリンダ(ヴェラ・クルーゾー)をないがしろにして、年中行動を共にするようになる。だが、相変わらず職にはあぶれ、日銭にも困るようになっていった。

 そんなある日、この地でアメリカ人が営む石油会社の油田で、大規模火災が発生する。周辺で爆発を起こし爆風で鎮火する計画が立てられるが、そのためには約1トンのニトログリセリンを現場に運ぶ必要があった。安全性を担保する特殊トラックの用意はなく、通常のトラックで運搬するしかない。そこで石油会社は、家族や身寄りのない者のなかから運転手を募ることにした。成功報酬はひとりあたり、破格の2000ドル。

 金に困っていたマリオとジョーも当然のように応募者の列に連なった。石油会社の現場責任者であるオブライエン(ウィリアム・タッブス)と旧知の関係であることから、ジョーは採用を疑っていなかったが、年齢による衰えのために拒否されてしまう。

 選ばれたのはマリオとルイジ、それに血気盛んなビンバ(ペーター・ヴァン・アイク)、それにスメルロフという男の4人。しかし出発の朝、何故かスメルロフは事務所に姿を現さず、代わりにジョーがやって来た。

 万一のためにトラックは2台、それぞれ2人ずつが乗り込み、交代で運転する。油田までは500km、道中には峻険な岩山が聳えている。果たして男たちは、無事にニトロを目的地まで届けることが出来るのだろうか……?



[感想]

 僅かな振動や熱でも爆発してしまう液体を、何ら特別な装備をしていないトラックの荷台に載せ、500km先まで運ぶ――この、シンプルだが猛烈な緊張と恐怖を誘う設定自体、非常に優れた着眼だ。

 道中に悪路があれば、その都度に緊迫が訪れる。経路を巡るトラブルはひととおりではないから、そのたびに異なる緊張を演出することが出来る。そのうえで、恐怖に直面した男たちが剥き出しにする感情や姿を巧みに汲み取ることが出来れば、ドラマ的な膨らみさえ生まれる。

 本篇は秀逸極まるワン・アイディアに甘んじることなく、この着想を徹底して活かしきった感がある。だからこそ、公開から60年以上経過した今でも充分、サスペンスを味わえるのだろう。

 率直に言えば、序盤の印象はあまり良くない。熱暑のなかで、汲々としながら漫然と暮らす男たちの姿を淡々と描いているのだが、なかなか肝心の事件に繋がっていかないので、どうも漫然とした印象がある。テレビ放映などだと、このくだりだけで退屈してチャンネルを変えてしまうパターンもありそうだ。

 しかし中盤以降、ニトロ運搬が始まると、俄然見応えが増してくる。運転手選考から出発のくだりまでに既にドラマがあるが、トラックが出発すると、主要登場人物たちの本質が見えてくる。その結果生じる軋轢や危機が畳みかける。昨今の映画と比べるとひとつひとつのイベントが長く、息つく暇もない、とまではいかないが、それでも全篇に漲る緊張感はただ事ではない。

 この緊張感は恐らく、音楽、音響を最小限に絞っていることも大きく奏功している。効果音でさえもあえて使用していない場面が多いのだが、そのことがシチュエーションそのものが持つインパクトをより強調し、観る者に印象づける。時代を思えば、そもそも選択の余地もなかったのだろうが、映像がモノトーンで統一されていることも、物語が持つストイックな緊張感を強めているようだ。

 物語は容赦なく展開する。虚飾を剥ぎ取り、上っ面の関係性を破壊していく。どれほど貧しい状況でも人は体面を繕う生き物であり、本篇は恐怖をもってその本性を暴き立てる。他方でそれが時として、いがみ合っていた者たちに束の間の絆を生み出す場面もあるが、それすらも現実が儚く吹き飛ばしてしまうのだ。

 舞台となる中米の熱暑が登場人物たちに流させる汗が、ロマンという名の安易な虚飾も流してしまったかのような語り口。そこには教訓めいたものさえ存在しない。剥き出しの恐怖がもたらす緊張感、そしてその果てにある空虚さを容赦なく描きだした、とても純粋なサスペンスである。



関連作品:

さよならをもう一度

地獄の黙示録 劇場公開版<デジタルリマスター>』/『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

禁じられた遊び