『来る』

TOHOシネマズ上野、スクリーン4入口に掲示されたチラシ。

原作:澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫・刊) / 監督:中島哲也 / 脚本:中島哲也岩井秀人、門間宣裕 / 製作:市川南 / エグゼクティヴ・プロデューサー:山内章弘 / 企画&プロデュース:川村元気 / 撮影:岡村良憲 / 照明:高倉進、上野敦年 / 録音:矢野正人 / 美術:桑島十和子 / 編集:小池義幸 / スタイリスト:申谷弘美 / チーフヘアメイク:山崎聡 / VFXスーパーヴァイザー:柳川瀬雅英、桑原雅志 / キャスティングディレクター:元川益暢 / 音楽プロデューサー:冨永恵介、成川沙世子 / 出演:岡田准一黒木華小松菜奈松たか子妻夫木聡柴田理恵、太賀、志田愛珠、蜷川みほ伊集院光石田えり / 製作プロダクション:東宝映画、ギークサイト / 配給:東宝

2018年日本作品 / 上映時間:2時間15分 / PG12

2018年12月7日日本公開

公式サイト : http://kuru-movie.jp/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/12/25)



[粗筋]

 幼少の頃、田原秀樹(妻夫木聡)には仲の良かった女の子がいた。しかし彼女はある日、忽然と姿を消す。秀樹に、「“あれ”に山に連れて行かれる」と告げて。

 やがて成長した秀樹は東京の製菓会社に勤め始め、香奈(黒木華)という伴侶を得る。ほどなく香奈が身籠もると、さっそく子育てのブログを始め、世間に自らのイクメンぶりを盛んにアピールする。

 生まれた娘の知紗(志田愛珠)が2歳になった日、突如として“あれ”がふたたび秀樹の前に姿を現した。派手に荒らされ、妻と娘が泣き叫ぶ部屋で、無惨に切り裂かれた御守りを多数見つけた秀樹は、高校時代からの友人であり、民俗学者をしている津田大吾(青木崇高)に相談する。

 津田が旧知のジャーナリスト、野崎和浩(岡田准一)に話を持ちかけると、野崎はふたりをキャバクラ嬢・比嘉真琴(小松菜奈)のもとに連れて行った。

 現場を見たい、と言って、真琴は野崎とともに秀樹のマンションにやって来た。しかしそれから間もなく、マンションでポルターガイスト現象が発生、真琴は鼻血を流して昏倒する。

 そのとき、突如として電話が鳴った。真琴の姉・琴子(松たか子)を名乗った相手は、真琴の迂闊な介入が相手を刺激し、事態を悪化させたことを謝罪する。現地に赴くことが出来ない自分の代わりとして、一時期テレビ番組でも活動していた霊能力者逢坂セツ子(柴田理恵)を紹介する。

 野崎とともにセツ子と面会する秀樹だったが、“あれ”の魔手は秀樹たちを逃がさなかった――



[感想]

 日本ホラー小説大賞を受賞、その怖さが刊行時に好事家から高く評価された小説『ぼぎわんが、来る』をベースにしている。だとすれば相当に怖い映画に仕上がっているのではなかろうか、とおののきつつ期待したくなるが、残念ながら、その意味では期待外れ、と言わざるを得ない。

 私は原作に接していないため、この作品がどの程度原作に添っているのかは判断出来ないが、この映画を観る限り、当事者はともかく客観的な立場から恐怖を味わえる内容ではない。観客に恐怖を感じさせるための要素、工夫に乏しく、いわゆる“登場人物が騒いでいるだけ”という印象が強くなってしまっている。

 いちばんの理由は、恐怖をもたらす現象がほとんど作り手の恣意で発生しているようにしか見えないことだ。たとえば序盤、秀樹の後輩の社員が彼の目の前で突如負傷、その後言動がおかしくなるくだりがある。いちおう現象のトリガーらしきものは描かれているが、その後の後輩の変化にどんな意味があるのか、何故こういう事態になったのか、という描写が前にも後にもないので、観る側はこの出来事に対して感情を作りにくい。あえて一見関係のない事象を置いて異様な雰囲気を作り出す、という手法もあるが、本篇の場合、そこで描かれる人間のどす黒い心理のほうがより印象づけられるせいもあって、効果を上げていない。

 物語が佳境に入っていくにつれて現象も派手になり、犠牲者も増えていくが、全般に“何故ここでそうなるのか?”というのがしっくり来ないので、驚きはあるが怖さには結びつきにくい。流血を容赦なく描いているため、そういうものが苦手なひとには充分怖いかも知れないが、多少慣れていれば怖がるほどのものではない。重要な人物が物語的には続けて死ぬくだりがあるが、どちらも死にざまは惨たらしいものの、2人目になると観る側は慣れてしまって、猟奇的表現については特に感情が動かなくなっているはずだ。率直に言って、恐怖の演出、という意味では失敗している。

 では話として出来が悪いか、ホラーとして失敗しているか、と問われると、そうではない。むしろ作品としては非常に面白いし、ホラーとしても成立している。

 恐怖の演出という意味では成功していないが、いわゆるホラーの世界観、モチーフはしっかり理解したうえで巧みに物語に活用しているのだ。

 最初に登場する霊能力者・真琴の、方法は解るけど理屈は解らない、という設定から、一時期テレビで活躍した霊能力者、そして政府にまで食い込むほどの地位を確立した霊能力者と、それぞれがいわゆるオカルトもののパターンを理解し、巧みに踏襲している。

 また劇中に登場する御守りやお札といった小道具の使い方も、ホラーや実際の宗教における扱いを踏まえている。切り裂かれた御守りの意味や、中盤で登場するお札の扱いなどは物語の展開、ひねりという観点からもうまい発想で、ホラーに慣れているものでも感心するはずだ。

 何より本篇の優秀なところは、凄まじい怪奇現象を織り込む一方で、そこに重ねる形で人間の闇を巧みに剔出していることだ。

 序盤は不穏な気配を宿しつつも、秀樹と香奈の結婚前夜から子供を授かるまでを描いているが、この時点から登場人物たちの上辺だけの言動と、随所で覗かせる悪意が観るものをざわつかせる。やがて奇妙な出来事が起きはじめるが、そこでもあちこちに人の身勝手さ、上辺だけを取り繕う軽薄さなど、暗部が覗くのである。それらが怪奇現象や様々な事件と繋がりあい、観客の前に彼らの闇を暴き出していく。

 そうして様々なホラーのモチーフが登場し、多くの人々が闇に呑まれたあとで訪れる、さながら“オカルト大戦争”の様相を呈するクライマックスが圧巻だ。極めてホラー映画らしいが、しかしここまで盛大で派手なクライマックスはよそでお目にかかった覚えがない。観る側は“怖い”とは感じにくいだろうが、“これまで観たことのないものを見せられてる”という興奮は存分に味わえる。

渇き。』を思わせる露悪的な人間描写や、結婚式やエピローグにおける『パコと魔法の絵本』に通じるポップでシュールな映像感覚など、中島哲也監督ならでは、という要素に魅力があり、牽引力には富んでいる。恐怖を味わう、というより、ホラーの要素を援用した、尖ったエンタテインメントを楽しむつもりで鑑賞するべきだろう。



関連作品:

パコと魔法の絵本』/『渇き。

コクリコ坂から』/『幕が上がる』/『沈黙-サイレンス-(2016)』/『HERO [劇場版]』/『大鹿村騒動記』/『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』/『感染列島』/『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!

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