『夜は短し歩けよ乙女』

TOHOシネマズ錦糸町、スクリーン8入口に掲示されたチラシ。

原作:森見登美彦 / 監督:湯浅政明 / 脚本:上田誠 / チーフプロデューサー:山本幸治 / プロデューサー:尾崎紀子、伊藤隼之介 / 制作プロデューサー:チェ・ウニョン / キャラクター原案:中村佑介 / キャラクターデザイン&総作画監督:伊東伸高 / 演出:湯浅政明、許平康 / 作画監督:濱田高行、霜山朋久、伊東伸高 / フラッシュアニメーション:アベル・ゴンゴラ、ホアンマヌエル・ラグナ / 色彩設計:ルシル・ブリアン / 美術監督:上原伸一、大野広司 / 撮影監督:バテイスト・ペロン / 編集:齋藤朱里 / 音響監督:木村絵理子 / 音楽:大島ミチル / 主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION『荒野を歩け』 / 声の出演:花澤香菜星野源神谷浩史秋山竜次(ロバート)、中井和哉甲斐田裕子吉野裕行新妻聖子諏訪部順一悠木碧檜山修之山路和弘麦人、ロッチ(中岡創一コカドケンタロウ) / アニメーション制作:サイエンスSARU / 配給:東宝映像事業部 / 映像ソフト発売元:東宝

2017年日本作品 / 上映時間:1時間33分

2017年4月7日日本公開

2017年10月18日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video通常盤:amazonBlu-ray Disc通常盤:amazonBlu-ray Disc豪華版:amazon]

公式サイト : http://kurokaminootome.com/

TOHOシネマズ錦糸町にて初見(2017/5/5)



[粗筋]

 先輩(星野源)は結婚式の二次会に参加した。かねてより彼が懸想する、黒髪の乙女(花澤香菜)とお近づきになる機会を得んがためである。

 しかし生来の酒豪である乙女は、更なる出会いを求め木屋町界隈を徘徊し始めた。先輩は追いすがるが、木屋町の有力者・李白の戯れでパンツを奪われ途方に暮れる。

 他方で乙女は宴を満喫していた。知己を得た樋口師匠(中井和哉)や羽貫さん(甲斐田裕子)の導きで様々な宴席にちゃっかりと潜入し、タダ酒に預かりながら夜の木屋町の多彩な人々と戯れて歩くうちに、結婚式の花嫁の父である東堂さん(山路和弘)が京都の有力者・李白(麦人)に抱えている借金を帳消しにするため、李白と偽デンキブランで飲み比べをする、などという話になっていた。しかし数多の酒飲みたちを瞠目させるうわばみの乙女、この勝負に見事勝利して、周囲の度肝を抜くのだった。

 なんとか乙女に追いすがるも醜態を晒すだけで終わった先輩は、来たるべき学園祭を管理するべく、大学の諜報機関を兼ねた図書館警察を学園祭本部として居座っている学園祭事務局長(神谷浩史)から、事務局の仕事を手伝う代償として乙女の情報を得る。乙女はこの夜の徘徊のさなかで、幼少の頃に出会った絵本『ラタ・タ・タム』を思い出し、その1冊を求めて古本市へ赴いたという。

 そこで先輩もさっそく古本市へと足を運ぶが、奇妙な子供とぶつかり、股間にソフトクリームを突き立てられたうえ、その子供にイタズラしようとした変態として、出るところに出されそうになる。そこを東堂さんに助けられるが、その代わりに李白が開催する闇の売り立て会で、自分の代わりに葛飾北斎春画を競り落とすよう頼まれるのだった……。



[感想]

 不思議な世界観である。京都を舞台にしているが、街中を自在に屋形船が移動しているし、古本市には神さまがいる。登場する一般人たちも、願掛けに同じパンツを履き続けていたり、春画に異常な情熱を燃やしていたり、と実に個性的だ。

 そういう世界観に本篇の、流行とは反対のシンプルな塗りながら自由な描線で作り出される動きの豊かなアニメーションが非常にしっくり来る。随所で人間の構造を派手に無視した動きを見せるが、それがこの奇妙奇天烈な展開もそれほど不自然に感じさせない。街中を巨大な館が動き回っていても、ひと晩のうちに複数のイベントが繰り広げられ急激に季節が移り変わっているように見えても、なんとなく受け入れてしまう。

 だが本篇の場合、そういう奇妙で脈絡のない展開を、登場人物たちが前のめりで受け入れていることこそポイントだろう。この場ではこういう行動が必要なのだ、と信じて、威勢よく、或いは覚悟を決めて、さもなくば飄々と、事態に飛び込んでいく。この奇妙な状況のなかで、筋道をつけて先を読もうとする者までいて、しかもちゃんと同じ価値観のなかに答が用意されていたりする。こうした登場人物たちの振る舞いとものごとの整合性が、この作品の世界観に強度を生んでいる。

 だが何よりも魅力的なのは、語り手の役を担う“先輩”と“黒髪の乙女”であることは間違いない。

“黒髪の乙女”は実質タイトルロールだが、それに相応しく、本篇の物語を最初から最後まで力強く牽引していく。デザインは昔の少女小説に登場するような、いかにも可憐な乙女なのだが、まったく酔いを見せない驚異のウワバミっぷりで、しかも行動力が尋常ではない。どんな人物とも瞬時に親しくなり、純真な振る舞いをしながらもしばしば含蓄豊かな台詞を口にする。どんな状況であっても飄然と突き進んでいくので、周囲はついていくことすら出来ない。

 対する先輩は劇中、これといって才能も取り柄もない、と自嘲する。しかし、強烈な恋心に突き動かされているとは言い条、この行動力、バイタリティはかなりのものだ。そして、誰しも抱きがちだが、普通は表に出さない欲望、煩悩を清々しいほどあからさまに観客に見せつけてくる。ヒドくみっともないが、それを承知で突っ走る姿はけっこう共感を覚えるし、好感も覚える。

 特殊な状況、突飛な事態、風変わりな言動が際立つ本篇だが、その実、本篇は“ロマンス”としての芯を最後までしっかり保っている。あらゆることに好奇心を燃やし、積極的に関わっていく一方で、自らの色恋にはさほど興味のなさそうな乙女と、、先輩が如何にしてお近づきになるか。仮にお近づきになったとして、どのように乙女が先輩に寄り添っていくのか。冒頭の展開からするとおよそ絵空事のようにしか思えない成り行きなのだけど、この物語の、このふたりの言動を眺めているうちに、必然のように思えてくる。

 モチーフも展開もシュールでコミカル、中盤にはミュージカルめいた場面が挿入され、最後にはほぼ幻覚と思われるが、スペクタルまで用意されている。想像力豊かに、隅々まで観る者を楽しませる要素で彩られているが、芯はロマンスなのだ。どこか似ているようで交わるところのなかったふたりが、ひとりの努力と、運命の導きによって接近していくさまを、長いようで短い一夜の出来事に凝縮した、ファンタジーでありロマンス。世界観も絵柄も登場する人たちもみんなクセが強いが、愛嬌のある彼らの導くハッピーエンドはとても心地好い。



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