『ナイト・オブ・シャドー 魔法拳(字幕)』

TOHOシネマズ日比谷のロビーにて撮影した、入場者特典の中国版キーヴィジュアルをあしらったチラシ。

原題:“神探蒲松齢” / 英題:“The Knight of Shadow : Between Yin and Yang” / 監督:ヴァッシュ・ヤン / 脚本:ボーハム・リュー、ジアン・ウェン / 製作:アガン / 撮影監督:チェ・ヨンファン / プロダクション・デザイナー:ローソン・ルー / 編集:ウォン・ホイ / 衣装:グオ・ペイ / アクション監督:ホー・ジュン / VFXスーパヴァイザー:ザック・チャン / 音楽:チャオ・チャオ / 出演:ジャッキー・チェン、リン・ボーホン、イーサン・ルアン、エレイン・チョン、リン・ポン、チャオ・シャン、パン・チャンジャン、キングダム・ユン、ランス・リュー、マーク・リュー、チャールズ・リュー、ジェリー・ジャン / 配給:HARK

2019年日本作品 / 上映時間:1時49間分 / 日本語字幕:岡田壯平

2020年1月17日日本公開

公式サイト : http://hark3.com/knight/

TOHOシネマズ日比谷にて初見(2020/01/23)



[粗筋]

 時は昔、清代の中国。

 金華県で、貴金属が相次いで盗まれる事件が発生した。衛門府の新人護衛兵であるヤンフェイ(リン・ボーホン)は大仕事に張り切るが、チェン隊長(シャオ・チャン)はそんな彼を煙たがり、ちょうど持ち込まれた揉め事にヤンフェイを向かわせる。

 駆け込んできた母親たちは、子供が町外れの作家に怖い話を聞かされ怯えている、と訴えた。しかし、母親たちと共にその作家プウ・スンリン(ジャッキー・チェン)のもとに駆けつけると、ヤンフェイが目を離している隙に母親たちは訴えを忘れ、プウから本を買っていた。困惑するヤンフェイに、プウは泥棒に心当たりがある、と嘯くと、どこからともなく現れた妖怪たちと共に街へと赴いた。

 果たせるかな、盗人は小さな豚の姿をした妖怪だった。プウは“陰陽の筆”の力を用いて、妖怪を小瓶のなかに封印する。

 このプウという男、実は悪事を働く妖怪たちを捕える“妖怪ハンター”だった。罪の軽い妖怪は使役し、悪に汚れた妖怪は経典から繋がる地獄の門へと送り込み、その業火で塵に返すのである。

 折しも金華県では、うら若い乙女が相次いで失踪する事件が起きていた。自らの娘(ジェリー・ジャン)が攫われた、と知ったチュウ知事(パン・チャンジャン)は、衛門府を叱咤し、早急に娘を取り戻すように命じる。

 相変わらず隊長から邪険にされるヤンフェイは、妖怪にも後れを取ることのないプウに鍛えてほしい、と弟子入りを懇願するのだった――



[感想]

 正直に言って、原作のないファンタジー大作は、かなりの率で厳しい出来になっている、という気がする。世界観の構築が不充分であるとか、脚本でその説明がうまく行っていないとか、そもそも脚本のまとまりが悪いとか、色々と理由は思い浮かぶのだが、個人的にはファンタジーはごく少数のスタッフで世界観を練り込み、芯を作った上でストーリーを構築するかたちでなければ難しいジャンルなのではないか、と思っている。だから、ファンタジーの映画で成功しているのは小説や漫画などで、予め個人あるいは少人数のクリエイターによって完成された世界観を土台としたものが多い。ハリー・ポッターしかり『ロード・オブ・ザ・リング』しかり、テレビではあるが『ゲーム・オブ・スローンズ』しかり。それでもなおオリジナルでファンタジー映画を生み出そうとする創意そのものには敬意を表したいが、意欲だけではどうにもならない、という現実を、本篇は改めて証明してしまったように思う。

 この作品でジャッキー・チェンが演じるプウ・スンリンは漢字で書けば“蒲松齢”、幻想文学怪奇小説の分野をかじったひとなら名前ぐらいは知るはずの『聊斎志異』を著した人物である。数多くの怪奇や妖魔を物語に紡いできた作者が実は“妖怪ハンター”で、妖怪たちを使役しつつ悪辣な所業に及ぶ妖魔を調伏していた、という設定は面白い。

 ただ、その背景や、周辺の妖怪たちの出自などがほとんど伝わらないのは引っかかる。

 私は『聊斎志異』の本文については知識がないので、或いは妖怪たちについては明確な出典が存在するのかも知れないが、単品の映画として見せるならば、せめてそのキャラクターの成り立ち、プウ・スンリンとの繋がりを窺わせる描写は欲しい。豚の姿をした妖怪だけは、劇中で捕らえられ、罰として従えられている、というのは解るが、他にも重要な役割を果たす妖怪がいるのに、彼らはそうした過去が示されず、ほぼ道具扱いされているのはいただけない。

 そして何より、プウ・スンリン本人の過去のみならず、行動原理がほとんど伝わらないのはかなり問題だ。地獄の門に送られた妖怪はふたたび蘇ることがない、だからこそ情けをかける妖怪とそうでない妖怪がいるのは解るとしても、その基準が彼の言動からは知る由がない。そのせいで、一番肝心なクライマックスにおける彼の言動から芯が感じられなくなってしまった。終盤は事態が二転三転するのだが、その原因がプウ・スンリン自身にもあるように見え、しかもそのことについて当人の説明も弁解もない終幕は、一見明るく装った結末に如何ともし難い濁りを残している。

 粗筋においてはプウ・スンリンを主人公のように記したが、しかし本篇の主軸はイェン・チュイシャ(イーサン・ルアン)とシャオチン(エレイン・チョン)のドラマだ。ある事情から交わることを許されないが、それぞれに深い想いがあるゆえのすれ違いと、感情を揺さぶる事件が展開していく。

 このふたりのストーリーに、くすぐりと緩和をプウやヤンフェイの側が加える、という趣向はバランスがいい――はずなのだが、如何せん世界観や設定にしっかりと芯が通っていないので、どこまでがユーモアでどこからがストーリーに関わるのかが伝わりにくく、ぎこちない印象が強い。また、ルールが観客の側に把握しにくいので、終盤の派手な趣向もそこでの展開も、充分な興奮をもたらせないままに進んでしまう。ある意味、落ち着くべきところに落ち着いた、と言える結末を選んでいるはずなのだが、どうもしっくり来ないように思えてしまうのがもったいない・

 こうなると期待したくなるのは、ジャッキー・チェンが参加しているからこそ、の激しいアクションだが、この点でも正直、満足は得られない。ファンタジーなので、CGや特殊効果を多用した非現実的なアクションが主体なのだ。さすがにこのジャンルでは優秀なスタッフが育っている中国なので、ある程度の見応えは生んでいるが、せっかくジャッキーを招いているのだから、CGに頼りすぎないアクションも欲しくなる。そして、そういう場面も用意はしているのだが、私の勘定では1箇所しかない。そのぶん、ジャッキーのコメディ俳優としての側面は活かしているが、その点に言及しようとすると、やはり世界観、設定の不安定さがネックになってしまう。

 やりたいことは解るが、ほとんどが不完全燃焼に終わってしまった感が強い作品である――だから、オリジナルのファンタジー大作は難しい、という冒頭の感慨に繋がるのである。



関連作品:

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