『カイジ ファイナルゲーム』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン7入口脇に掲示されたチラシ。

原作:福本伸行(講談社・刊) / 監督:佐藤東弥 / 脚本:福本伸行、徳永友一 / 企画&プロデュース:藤村直人 / エグゼクティヴプロデューサー:伊藤響 / 撮影監督:小原崇資 / 美術:樫山智恵子 / 装飾:高橋光 / 照明:木村明生 / 編集:佐藤崇 / 録音:菊地啓太 / 音楽:菅野祐悟 / 出演:藤原竜也福士蒼汰関水渚新田真剣佑吉田鋼太郎松尾スズキ生瀬勝久天海祐希、山崎育三郎、前田公輝、瀬戸利樹金田明夫伊武雅刀篠田麻里子 / 配給:東宝

2019年日本作品 / 上映時間:2時間8分

2020年1月10日日本公開

公式サイト : http://kaiji-final-game.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2020/01/21)



[粗筋]

 2020年、国を挙げての一大イベントが終わると、日本の景気は急速に悪化した。物価は高騰、失業率はうなぎ登り、多くの国民が生活さえままならない日々に喘いでいた。

 大物相手のギャンブルに勝ち、借金を清算した過去を持つ伊藤カイジ(藤原竜也)も、良善興業という会社で派遣社員として勤めているが、7割に達するピンハネで収入は僅か3千円。社長の黒崎義裕(吉田鋼太郎)に噛みつくが、「厭なら辞めろ」と吐き捨てられ反論も出来ない。

 誘惑に負けて千円の缶ビールで憂さを晴らしていたカイジに、懐かしい人物が声をかけてきた。かつて帝愛の強制労働施設でカイジと共に働いていたその男、大槻(松尾スズキ)はカイジに、ある計画への協力を持ちかけてくる。

 それは不定期に開催されるゲーム“バベルの塔”の攻略だった。不定期で発表される場所に建てられた塔の先端には、入力した金額が手に入れられる電卓と、更なるビッグ・チャンスを秘めたカードがセットになって設置されており、いちばん最初に辿り着いた者はそのどちらかを手に入れることが出来る。大槻はあるルートで塔が建てられる場所の情報を獲得しており、実際に塔に登る役をカイジに託したのだ。

 決して容易ではなかったが、策略もあってカイジは見事にこの“バベルの塔”の勝者となる。むろん大槻が期待したのは電卓の獲得だった――が、カイジはビッグ・チャンスのカードを選択した。大金を獲得したことが世間に知れ渡り、自らを危険に晒す電卓よりも、更なる好機に賭けたのである。

 カードに記されたマークに導かれ辿り着いたのは、豪壮だが妙に寂れた邸宅。そこでカイジを迎え入れたのは、不動産王の東郷滋(伊武雅刀)とその秘書、廣瀬湊(新田真剣佑)。カイジともうひとり、カードを選択した“バベルの塔”の勝者である桐野加奈子(関水渚)に東郷が持ちかけたのは、東郷の全財産、500億円を賭したギャンブルであった。

 日本政府は現在、1500兆円に及ぶ国の借金を清算する、という名目で、全国民の預金封鎖と新通貨の発行、という禁じ手を打とうとしていた。だがその実、一部の富裕層には情報が予め提供され、新通貨も供給される計画になっている。東郷はそれを阻止するべく、全財産を費やす覚悟を決めたが、賄賂のために1000億円は必要となる。自身の財産で足りないぶんを、目前の金銭よりも勝負の機会に賭けたカイジたちに託そうとしたのだ。

 はじめは見返りの乏しいこのギャンブルを拒否しようとしたカイジだったが、相手が黒崎であり、その背後に帝愛グループが存在することを示唆され、前言を翻す。

 日本の命運を賭したこのギャンブルに、果たしてカイジは勝利できるのか……?



[感想]

 藤原竜也を堪能するための映画である、と全力で言い切りたい。

 若くして蜷川幸雄の舞台でデビューした藤原竜也は、演技についてはキャリア初期から折り紙つきと言える。しかし映画においては、その演技の評価に見合うハマり役にはなかなか巡り会えなかった、という印象が強い。そんな彼の、あまりに濃厚すぎる役者としての色香に初めて見合った役柄が、本篇のタイトルロールである伊藤カイジだった。

 常軌を逸したシチュエーションでのギャンブルに挑むカイジの台詞回しは独特で、極めて癖が強い。アニメーションならまだしも、実写で表現するのは容易ではなかったと思われるが、これに藤原竜也の役者としての“濃さ”がハマった。どうしても実写では厳しすぎる描写もあり、原作からの脚色、変更も多かった映画版だったが、その反発を跳ね返すくらいに、藤原竜也カイジは受け入れられた。近年になって藤原竜也の物真似をするタレントが増えてきたが、そのほとんどはこの『カイジ』シリーズでの演技を下敷きにしているのがいい証明だろう。

 第2作の公開から9年ぶりだが、本篇でも藤原竜也のハマりっぷりは神がかっている。ギャンブルの才はあるのだから、いい暮らしをしているのかと思いきや、相変わらずの底辺の生活を送り、それでも血気盛んで上司にも食ってかかる。自らの状況に対する自虐をも含んだ名調子も健在だ。あの情けなくも、危うい魅力を発散する“伊藤カイジ”を観たかった観客には文句のない意気軒昂ぶりである。

 ただ、このシリーズのもうひとつの魅力である、オリジナルのギャンブルと、そのルールならではの駆け引きの面白さは、だいぶ見劣りする、と言わざるを得ない。

 本篇に登場する新たなゲームは“バベルの塔”に“最後の審判”、“ドリームジャンプ”に“ゴールドじゃんけん”の4つだが、率直に言って、駆け引きの面白さが味わえるのは最後の“ゴールドじゃんけん”くらいのものだ。“バベルの塔”は事前に塔の建てられる場所の情報を確保した段階で駆け引きはほとんど終わっているし、本篇の半分近い尺を用いて描かれる“最後の審判”はギャンブルとしての見せ方がそもそも不自然なショーめいていて緊迫感に乏しく、そこでカイジらが用いる策も仕掛け方がいささか雑でカタルシスに乏しい。このくだりに多少なりとも爽快感が味わえるとするなら、それは間違いなく藤原竜也の名調子が作り出したものだ。

“ドリームジャンプ”は時間的にも肉体的にも切羽詰まったなかでの駆け引きであるため幾許か緊迫感は増しているが、ゲームの面白さ、駆け引きの妙味を味わえるのは、クライマックスでの“ゴールドじゃんけん”ぐらいだろう。なにが面白いか、を具体的に説明してしまうと展開が読めてしまうので詳述はしないが、ここだけはゲームひとつひとつが神懸かっていたシリーズ第1作に近い興奮が味わえる――とはいえ、やはりこれ1本しか評価しにくいのは残念だし、その尺が短いのもまた物足りない印象を与えてしまう。

 故に、本篇は藤原竜也のハマり役をたっぷりと堪能するための映画だ、と捉えるのがいちばん素直に受け止められるはずだ。近年活躍の目覚ましい吉田鋼太郎が敵役で気を吐き、原作にはまったく登場しないキャラクターたちに扮した福士蒼汰関水渚新田真剣佑らも健闘しているが、いずれも結果を見れば藤原=カイジを引き立てているに過ぎない。

 原作者が前作に続いて脚本に加わっているだけに、原作のイメージを申し分なく再現したパーフェクトな新作を望んでいたひとには恐らく残念な仕上がりだろう。しかしある意味運命を受け入れ、これまで以上にキャラクターに入り込んだ藤原竜也の弾けっぷりは、十二分に堪能できる。

 いちおう“ファイナル”と銘打ってはいるし、結末も考えようによっては“カイジ”らしい、と言えるが、物語として完全に遺恨を断ったものではない。藤原竜也の年齢的に、こんな無鉄砲で血気盛んなキャラクターをいつまでも演じ続けるのは厳しい、という背景もありそうだが、或いは“藤原カイジよいまいちど”というリクエストに応えてくれる可能性は残っているように思う――もしそれが叶うなら、出来れば駆け引きの面白さも初期のクオリティに迫るものになってくれると嬉しい。



関連作品:

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