『地獄少女(2019)』

新宿バルト9、シアター4入口前に掲示されたチラシ。

原作:地獄少女プロジェクト / 原案:わたなべひろし / 監督&脚本:白石晃士 / 製作:堂山昌司、松下智人、小竹里美、宮田昌広 / 製作総指揮:依田巽 / 撮影:釘宮慎治 / 照明:田辺浩 / 美術:安宅紀史 / VFXスーパーヴァイザー:村上優悦 / 録音:石貝洋 / 音響効果:岡瀬晶彦 / 編集:張本征治 / 音楽:富貴晴美 / 主題歌:GIRLFRIEND『figure』 / 出演:玉城ティナ、橋本マナミ、楽駆、麿赤兒、森七菜、仁村紗和大場美奈(SKE48)、藤田富、波岡一喜 / 制作プロダクション:ダブル・フィールド / 配給:GAGA

2019年日本作品 / 上映時間:1時間47分 / PG12

2019年11月29日日本公開

公式サイト : https://gaga.ne.jp/jigokushoujo-movie/

新宿バルト9にて初見(2019/12/12)



[粗筋]

 1965年、結衣は自分をいじめていた同級生を、地獄へ送りこんだ。その代償として、死後に自分も地獄送りにされる、という現実に終生怯え続けた彼女は、2019年に末期の病床で、息子の工藤仁(波岡一喜)に語る。売れないフリーライターとして活動する息子に、自分と同じような悪夢に苛まれる人間がこれ以上出ないよう、記事にさせたのである。無事にその記事が雑誌に載って間もなく、結衣は息を引き取った――恐怖に歪んだ恐ろしい形相で。

 工藤の記事がきっかけで、女子高生のあいだに“地獄通信”の噂が再燃した。かつては新聞の求人欄を用いてやり取りする、と言われていた“地獄通信”はいまネット上に存在し、午前0時になった瞬間にアクセスし、恨んでいる人間の名前を書き込むと、復讐を果たしてくれる、という。

 同級生のあいだでやり取りされるそんな噂よりも、美保(森七菜)が関心を持っているのは、インディーズながら絶大を誇るアーティスト・魔鬼(藤田富)だった。彼独自の世界観に惹かれ、遂にライブまで出かけた美保だったが、そこで痴漢に遭ってしまう。しかし、勇敢な少女がその痴漢を会場から連れ出し、成敗してくれた。

 遥(仁村紗和)というその少女は、美保以上に魔鬼とその世界観を信奉しており、ふたりは瞬く間に意気投合する。ふたり、喫茶店で談笑していると、そこへ偶然、魔鬼が通りかかった。臆せず話しかけた遥に、魔鬼は近々オープンする彼の専用劇場のこけら落とし公演で起用するコーラスのオーディションに参加を促す。遥は、美保も一緒に受けていいなら、と条件を付けて承諾した。

 既にコーラスの一員として、地下アイドルの御厨早苗(大場美奈)が内定していると聞き、美保は遥と共に早苗の所属するグループのライブを訪れる。だがそこで、思わぬ悲劇が起きた。包丁を持った男がステージに上がり、早苗の顔に切りつけたのだ。

 生命こそ脅かされなかったが、早苗の顔には惨たらしい傷が残ってしまった。そしてこのとき、早苗を襲った男を取り押さえたのが、取材の一環として現場に居合わせていた工藤だったが故に、“地獄通信”と、依頼を遂行する地獄少女こと閻魔あい(玉城ティナ)の存在が、関係者の周囲をちらつき始めるのだった――



[感想]

地獄少女』はもともと2005年、わたなべひろしの原案に基づいて制作されたテレビアニメシリーズだった。儚くも妖しげで濃厚なヴィジュアルと、誰しもが抱く“怨み”というダークだがキャッチーな題材が支持され、アニメは4期にわたって継続、更にはコミカライズ、ドラマ化、舞台化と、15年のあいだにその世界を広げている。実写化としては2006年のドラマ版があるが、本篇はキャスト、スタッフを一新しての映画化となる。

 およそ“実写化”、それも漫画やアニメからの移植は、従来のファンから反感を買いやすい。しかし本篇については、原典であるアニメのファンが鑑賞しても確実に満足がいく出来だ、と自信を持って太鼓判を捺すことが出来る。

 まず言えるのは、閻魔あいと彼女の手足となる“三藁”と呼ばれる面々のヴィジュアルが、原作のイメージを損ねていないことだ。玉城ティナはどちらかといえば西洋人形のような冷たく整った容貌だが、和服に身を包んだ佇まいは可憐かつミステリアスで、アニメから築き上げられたこのキャラクターの雰囲気に見事に重なる。“三藁”もヴィジュアルを尊重してキャスティングしたことが窺えるが、とりわけ輪入道麿赤兒を起用した点にはただ脱帽するほかない。

 そして肝心の物語も、アニメ版にて構築された様式に則りつつ、見事に長篇映画としての体裁を整えている。構造的にこの作品は、恨みを招くような状況や事件のあと、幾許かの葛藤が描かれ、それから閻魔あいによる復讐へとコマを進める、という流れが決まっている。敢えて流れを壊すことで、違った角度から表現する、新たな可能性を掘り下げる、というやり方もあるが、オリジナルと異なる媒体で試みると失敗する、反発を招くことも多い。その点、本篇は既に完成されたこの流れを劇中に複数設け、互いが絡み影響し合いながら大きな全体の物語を構築することを選んだ。そうすることで、アニメ版の築き上げたムードを踏襲しながら、2時間近い長篇としての体裁を整えることにも成功している。原作アニメの世界観や特徴を殺すことなく見事に実写化した点、優れた仕事ぶりと言える。

 オリジナルを知る者の目から見て惜しまれるのは、実際に閻魔あいが呪いを実行に移すくだりで与える“罰”が、呪われた側の行動とあまり関連付けられていないことと、アニメ版で印象深かった音楽が用いられていない点だ。特に前者は、この枠組で閻魔あいと“三藁”と呼ばれる従者たちの個性が発揮される数少ない見せ場なので、もう少し趣向を凝らして欲しかった。

 また、観終わってもその“三藁”がいったいどんな意図が行動していたのか理解できない、という問題もある――が、ただこれについては、そもそも原作アニメの段階から孕んでいた欠点だ。ゆえに、あえて役割を明確化せず、関係者の周囲に見え隠れさせる趣向は、演出としても、原作を尊重する意味でも間違っていない。

 そもそもこの作品はオリジナルのアニメ版からして、キャラクターや設定を有効に活用していたわけではなく、正直なところ物語としてのクオリティは高くない。それでも原作の世界観、構成を維持して実写化すれば、前述したような不自然さが残るのは道理であり、解っていながら崩さなかった監督がオリジナルのファンをないがしろにしなかったということで、むしろ賞賛すべき点だろう。

 しかもそのうえで、物語としての質を高めながら、かつ監督自身の好む趣向や特徴をしっかりと盛り込んでいるのが見事だ。

 メガフォンを取った白石晃士監督は、そもそもダークな題材を積極的に扱っているひとだ。『貞子vs伽椰子』のような一般層にも親しみやすい素材で、自身の作風に寄り添った突き抜けた趣向を押し通す胆力があることも既に証明している。本篇においても、白石監督が好んで用いるオカルト的趣向や暴力性がレーティングを上げすぎない節度で細やかに鏤められており、『地獄少女』でありながられっきとした白石ワールドを築き上げた。また白石監督は高田渡ドキュメンタリー映画を手懸けたり、ブレイク直前のももいろクローバーとともに一風変わったフェイク・ドキュメンタリーを撮ったりしているのだが、本篇では架空のアーティストやアイドルを多数登場させており、一連の音楽的素養がそういったかたちで繁栄された、と捉えると、原作付きでありながら白石監督の世界観を総括した作品にもなっているのだ。役者も設定も異なるが、監督の人気シリーズ『コワすぎ!』の中心キャラクターである工藤仁を登場させているのも、そうした意識の表れとすら考えられる。

 原作に最大限の敬意を表しつつも自らの作家性をしっかりと封じ込めた、白石晃士監督の力量を窺うことが出来る好篇である。原作アニメのファンにも、白石監督作品の愛好家にもお薦め出来る――が、それゆえに、どちらにも興味のないひとにとってはだいぶクセが強く感じられるかも知れない。



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