『日本のいちばん長い日<4Kデジタルリマスター版>(1967)』

TOHOシネマズ錦糸町 オリナス、入口前に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭10-FINAL』当時) 日本のいちばん長い日 Blu-ray

原作:大宅壮一[篇]、半藤一利 / 監督:岡本喜八 / 脚本:橋本忍 / 製作:藤本真澄田中友幸 / 撮影:村井博 / 照明:西川鶴三 / 美術:阿久根厳 / 編集:黒岩義民 / 録音:渡会伸 / 整音:下永尚 / 音楽:佐藤勝 / 出演:三船敏郎笠智衆山村聡黒沢年男佐藤允中丸忠雄加東大介小林桂樹加山雄三宮口精二、小林義男、志村喬、香川良介、加藤武、江原達治、竜岡晋神山繁、浜村純、土屋嘉男、天本英世、井川比佐志、堺左千夫児玉清新珠三千代、八代目松本幸四郎 / ナレーター:仲代達矢 / 配給&映像ソフト発売元:東宝

1967年日本作品 / 上映時間:2時間37分

1967年8月3日日本公開

午前十時の映画祭10-FINAL(2019/04/05~2020/03/26開催)上映作品

2017年11月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ錦糸町 オリナスにて初見(2019/6/27)



[粗筋]

 1945年8月2日、アメリカ、イギリス、中華民国は日本に対して無条件降伏を促すポツダム宣言に調印した。傍受したアメリカ国内での放送によりこの事実を知った日本政府は早速、対応の協議に入る。

 既に日本の国力は著しく衰退しており、鈴木貫太郎内閣総理大臣(笠智衆)ら閣僚は天皇制の維持など数項目の妥協を求めて受諾を提案する。だが、阿南惟幾陸軍大臣(三船敏郎)以下陸軍は本土決戦の準備を進めていたさなかであり、著しく士記は高まり、児玉基地からはこの時点でも特攻隊が飛び立ち、接近するアメリカ軍の空母を目指していた。

 しかしそうして紛糾しているあいだにも、アメリカ軍は6日に広島、9日に長崎へ原爆を投下、二つの都市を一瞬のうちに焼け野原に変えた。政府は御前会議で天皇陛下(八代目松本幸四郎)の意向を諮ることにした。

 陛下は、これ以上、国民に犠牲が出ることを望まなかった。早期に戦争を終息させることを望んだのである。

 かくて14日、日本政府はポツダム宣言を受諾する。そして、日本にとってあまりに長く、危険な一日が始まるのだった――



[感想]

 日本人なら誰しも知る終戦の日と、多くの人の価値観を一変させた“玉音放送”。この歴史的な日の出来事を、ドキュメンタリー的な表現で描いた作品である。

 進駐軍がやって来たことで、憲法の大幅な改正を筆頭に様々な変化を余儀なくされた日本だが、考えてみれば、その変化は敗戦を目前に控えたこの数日に既に表出しつつあった、と言える。

 鈴木首相をはじめとする閣僚、そして劇中で見る限りは天皇陛下でさえも、物資も人材も逼迫した当時の状況で、戦争が継続できるなどと思っていなかった。それはポツダム宣言の出てすぐ、まず如何に国内の反発を抑えるか、という点に議論が発展したことからも窺える。けっきょく当初は“黙殺”という選択をするが、それが相手国の誤解を招き、さらなる悲劇に繋がった。ために、稟議では当初から“徹底抗戦”を訴えていた陸軍・海軍両大臣でさえも変節を強いられる。

 だが、そうした上層部の葛藤など知るよしもない――虚偽によって着々と勝利を収めているかのような印象を与え続けていたのだから当然だが――軍人たち、労働力として徴発された一般人にとっては事情が異なる。“本土決戦”“陛下の御為に最後の一人まで戦う”と叩き込まれた人々にとってみれば、決死の覚悟で準備を整えていた矢先に敗北を受け入れる、という選択肢があり得ない。陛下が弱腰な官僚たちによって無理矢理撤退を承諾させられた、という思い込みに囚われ、暴走を始める軍人たちの姿は、鬼気迫るものがある一方、哀れでもある。

 対照的に、敗戦を受け入れた閣僚たちは非常に淡々と理性的に振る舞っているが、そこにはどこか諦念や疲れのようなものが滲んでいる。果たして彼らが開戦にあたって、成果を上げると信じていたのかは本篇で判断しかねるが、この時点では敗戦以外の選択肢はない、と多くの人間が悟っていたことが窺える。

 そして、これ以上の犠牲を払わぬよう、ようやく受け入れた敗戦が正式なものとするために感情を殺して動いている。興奮し激情に駆られる軍人たちに、直接対立するのではなく、雲の上での交渉や腹芸で交わそうとしているのが日本人らしいとも言える――が、それは同時に、如何に軍部の発言権が強かったか、ということの表出でもあるのだろう。

 敗戦を阻止すべく、あとさきを顧みない奸計を弄する将校がいる一方で、志願兵たちを煽動し、わざわざ横浜から首相宅を目指し襲撃を企てる者もいる。その猪突猛進ぶりは、観ていて慄然とするほどだ。特に後者は、煽動する佐々木大尉に扮した天本英世の尋常でない気迫もあって、本物の暴動を捉えているかのようなリアリティに充ち満ちている。

 後年、本篇のリメイクを手懸けた原田眞人監督は、本篇における鈴木首相や阿南陸相心理的葛藤の描写が物足りない、と判断し、そこに重点を置いて作り直したという。原田版は未見なので、その判断の是非やリメイク版の出来映えについてここで触れることは出来ない。ただ、原田監督の不満も理解できる一方で、本篇の場合、阿南陸相らの葛藤に重きを置かなかったのも間違いではなかった、と個人的には思う。

 この作品は決して閣僚、官僚の葛藤、懊悩を深く掘り下げる文芸的な意図では撮られていない。むしろ、冷静な諦念と狂騒的な執着の相克を、個人の内面ではなく集団のなかでの現象として捉え、それをサスペンスう映画に近い解釈でエンタテインメントに仕立てることに狙いがあったように読める。だからこそ、特定の人物に焦点を絞って描くことなく、個々の行動や細かな思慮が事態を変化させるさまを描いた。

 つまり本篇の主役はまさにこのとき、この一日の“日本”という共同体そのものなのだ。実に的を射た題名であり、真実を丁寧に織り込みつつもエンタテインメントに昇華したスタッフの手際に、今更ながら賞賛を送りたい。



関連作品:

大誘拐 RAINBOW KIDS』/『助太刀屋助六』/『浮雲(1955)』/『羅生門』/『生きる』/『七人の侍』/『私は貝になりたい(2008)

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終戦のエンペラー』/『この世界の片隅に