『将軍家光の乱心 激突』

将軍家光の乱心 激突 [DVD]

原作&脚本:中島貞夫松田寛夫 / 監督:降旗康男 / 企画:日下部五朗 / プロデューサー:本田達夫、厨子稔雄、中島正久 / 撮影:北坂清 / 美術:井川徳道 / 照明:渡辺喜和 / 編集:玉木濬夫 / 衣裳:森護 / 整音:荒川輝彦 / 録音:堀池美夫 / アクション監督&出演:千葉真一 / 音楽:佐藤勝 / メインテーマ&ファイティングテーマ:THE ALFEE / 出演:緒形拳、加納みゆき、二宮さよ子、真矢武、織田裕二、浅利俊博、荒井紀人、成瀬正孝、丹波哲郎長門裕之、胡堅強(フー・チェン・チャン)、茂山逸平京本政樹松方弘樹 / 配給&映像ソフト発売元:東映

1989年日本作品 / 上映時間:1時間51分

1989年1月14日日本公開

2002年7月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

初見日時不明(劇場公開当時)

DVD Videoにて再鑑賞(2019/5/31)



[粗筋]

 三代目将軍徳川家光(京本政樹)の世子・竹千代(茂山逸平)が山間にある湯屋で湯治のさなか、苛烈な襲撃を受ける。警護の者はことごとく倒されたが、世話役の機転と、予め当地の藩主・堀田正盛(丹波哲郎)が手配していた、石河刑部(緒形拳)ら手練れの浪人衆が討手を一掃、竹千代は辛くも難を免れた。

 警護のためには何ものが狙っているのか知る必要がある、という刑部の主張に応え、堀田が明かした黒幕は、老中・阿部対馬守重次(松方弘樹)。長子である竹千代を亡き者とし、自らの息のかかった人物を四代目将軍に就任させ、政を自らの思うがままにすることが狙いである、という。

 そこへ他ならぬ阿部重次と、大目付・伊庭庄左衛門(千葉真一)が堀田邸を訪ねてくる。五日後に竹千代元服の儀が催されるため、それまでに江戸へと帰城すべし、と言う。既に竹千代へと殺意を向けている伊庭と、そちらを牽制する刑部をよそに、堀田は竹千代を送り届けることを約束する。旅の途中で竹千代を暗殺する、という目論見は明白であったが、罠と知りながら、受けるより他に術はなかった。

 翌朝、出立した堀田たちは、さっそく宿で伊庭の率いる軍勢に襲撃される。伊庭の刃によって堀田は倒れたが、そこに竹千代の姿はなかった。堀田は己が身を賭して、時間稼ぎを図ったのである。

 竹千代は堀田の息子・正俊(真矢武)、乳母・矢島局(加納みゆき)と共に険しい山道で江戸を目指していた。だが、阿部も途中の関所にお触れを送り、伊庭は江戸までの経路に人を放って竹千代達の行方を捜す。

 果たして竹千代は無事に江戸へと辿り着くことが出来るのだろうか……?



[感想]

 実は私、この作品は封切り当時に映画館で観ている。ちょうど熱心にTHE ALFEEを聴いていたころで、彼らの曲が映画の、それも時代劇の主題歌として採用された、という話に激しく興味をそそられ、観に行ったと記憶している。当時の私は見るからに痛い暴力表現、血腥い描写は苦手としていたはずだが、にも拘らず、本篇を“面白い映画”と記憶していた。その事実にまず驚きを禁じ得ない。

 いわゆる時代劇だが、本篇は一般的な作品よりもアクションが派手だ。敵方は槍を文字通り振り回し、味方にはカンフーの遣い手がいて、しかも随所でセットを壊し、時には発破まで用いている。矢が目に刺さったり、腕を切り落とされて断面が見えたり、と表現はかなり痛々しいが、アクション表現の派手さと勢いは戦隊もの仮面ライダーに通じるものがある。恐らくそれが、残虐な描写に抵抗のあった当時の私でも受け入れやすかったのだろう。

 物語も、実在した歴史上の人物を登場させながら極めて波瀾万丈だ。冒頭から壮絶な戦いで無数の死者を出し、大敵に狙われている事実が護衛達とともに観客に明かされる。野を駆け山を越える旅の途中でも繰り返し窮地に陥り、幾度も緊迫した場面が展開する。前述した発破の多さもそうだが、川を越えるのにわざわざロープを通したり、四方を囲まれた状況での脱出法が極端だったりするが、観客を驚かせ楽しませる、エンタテインメントとして徹する姿勢が潔い。

 時代劇ゆえに、プロローグとなる激闘のあと、その後の展開を示唆するやり取りはもったいぶったものだが、しかし基本的には理解しやすい。そして、その事実を背負い、アクションの合間に観客の心を動かすドラマもきっちり挿入している。刑部らに守られる竹千代の境遇はあまりに過酷だが、逃避行のあいだに心安らぐような場面を挿入し、最大の窮地には、本来金目当てで集まった男たちを突き動かすひと幕が繰り広げられる。実にツボを弁えた作りをしているのだ。

 本篇の登場人物たちは全般に、あまり多くを語ったり、気取った台詞を口走らない。刑部の配下はしばしば利益を優先し竹千代の警護を断念する提案もするが、刑部は多くを説明せずに任務の続行を指示する。そして、そんな部下たちも、いざ覚悟を決めたあとは決して無駄口を叩くことなく、従容として死地に赴く。この硬質な振る舞いもまた、作品の凛と引き立てている。因果が巡るかの如きラストシーンが残す、虚しくも沁みるような余韻も忘れがたい。

 この作品の価値をより高めているのは、当時でも珍しい派手で多彩なアクションのなかに、しっかりと芯を通すメインキャスト達の貫禄だ。実質的な主人公である刑部を寡黙に、しかしどこか暖かく演じた緒形拳に、幕僚として何かを押し殺しつつ対峙する老中・阿部重次を緩急巧みに演じた松方弘樹丹波哲郎長門裕之の存在感も忘れがたい。だが、誰よりも本篇で強烈なインパクトを残すのは、タイトルロールである徳川家光に扮した京本政樹であるのはたぶん誰しも異論のないところだろう。

 如何せん、歴史的傑作とは見られていないために、現在入手可能な映像ソフトでも画質は粗く見づらいが、しかしそれでも一見の価値のある優秀な娯楽映画である。



 余談だが、前述の通り、本篇にはTHE ALFEEの曲がエンディング、および戦闘シーンのテーマとして採用されている。当時、「時代劇にTHE ALFEE?」と首を傾げたものだが、本篇で観ると思いのほか悪くない。他のシーンの音楽と毛色が違うために若干浮いている感は否めないが、最も壮絶なアクション・シーンを彼らの重厚なサウンドが活き活きと彩り、エピローグの無常観に満ちた余韻を、優しくも哀感のあるアレンジで優しく包んでいる。

 カンフーや見映え重視、血腥い表現を盛り込みオーソドックスな時代劇とは異なる演出をした本篇には、この若干の違和感があるほうが却って相応しい。実際、本篇が鑑賞後もずっと私の記憶に残っていたのは、その違和感ゆえに一連の場面のイメージが強く刻まれたからだろう。敢えてTHE ALFEEを選んだのは英断だった、と個人的には評価したい。



関連作品:

砂の器』/『風雲 ストームライダーズ』/『椿三十郎(2007)』/『黒蜥蜴(1968)』/『転校生 さよなら あなた』/『少林寺2』/『翔んで埼玉』/『仁義なき戦い

七人の侍』/『用心棒』/『助太刀屋助六』/『座頭市』/『座頭市 THE LAST』/『必死剣鳥刺し』/『十三人の刺客』/『最後の忠臣蔵』/『一命』/『許されざる者(2013)