『HELLO WORLD』

TOHOシネマズ上野、スクリーン4入口脇に掲示されたチラシ。

監督:伊藤智彦 / 脚本:野﨑まど / 企画&プロデュース:武井克弘 / 製作:市川南、大田圭二 / キャラクターデザイン&作画監督堀口悠紀子 / アートディレクター&CG監督:横川和政 / 音楽:2027Sounds / 声の出演:北村匠海浜辺美波松坂桃李福原遥子安武人寿美菜子釘宮理恵 / アニメーション制作:GRAPHINICA / 配給:東宝

2019年日本作品 / 上映時間:1時間38分

2019年9月20日日本公開

公式サイト : https://hello-world-movie.com/

TOHOシネマズ上野にて初見(2019/9/30)



[粗筋]

 2027年の京都。すべての情報がアーカイブ化され、往時の光景をその現場で目撃出来るようになった。

 しかし、技術が発展しても、堅書直実(北村匠海)の消極的な性格の助けにはならない。春を迎え、少しは積極的になろう、と努力するが、相変わらず自分から行動出来ない。図書委員の仕事も、“本好きだから”という理由でまわりから押しつけられてしまった。

 そんな折、直実は下校中、空にまるでオーロラのようなものが棚引いているのを目撃する。そこから現れたカラスらしき鳥が、直実の借りた本を銜えて飛び去ってしまった。

 カラスを追いかけていくと、辿り着いたのは伏見稲荷の千本鳥居。直実が訝っていると、その目の前に忽然とひとりの男(松坂桃李)が現れた。その男は直実の名前を呼び、お前にやって欲しいことがある、と言う。

 異様なシチュエーションに慌てて逃げ、電車に乗って振り払ったはずが、男は直実の降車した駅にいた。そのとき直実は、男の姿が自分以外には見えていないことに初めて気づく。

 男は言う。この世界は、無尽蔵の記憶容量に京都の歴史をすべて記録するデータバンク“アルタラ”に記録された世界であり、男はいまから10年後の世界からアクセスしている、未来のカタガキナオミだ、と――



[感想]

君の名は。』の大ヒットを境に、テレビシリーズの映画化や特別編、宮崎駿ら大物の作品ばかりではなく、新進作家や他のテレビ作品で注目された監督によるオリジナル作品、単独映画化が急造した印象がある。必ずしも2匹目のドジョウを狙ったわけではなく、『君の名は。』以前から計画が進行していた作品も多々存在していて、本篇もそのひとつらしい。

 そのあたりは製作者も覚悟はしていただろうが、しかし実際のところ、『君の名は。』と同じ感覚で臨むと恐らく度肝を抜かれる。あちらもSFに近い作りをしているが、本篇の世界観、展開はもっと本格的なものだ。

 鍵となるのは“アルタラ"と名づけられたアーカイヴ・システムだが、その理念自体は昨今、同様のものが浸透し始めてきたので理解はしやすい。しかし、それを敷衍して展開していく出来事は、ぼんやり観ていると理屈が解りにくくなるはずだ。雰囲気で把握しているだけだと、物語が盛り上がっていくにつれて置き去りの感覚を味わい、結末に至っては頭の中に“?”が飛び交いかねない。されくらい、練りこまれたSFなのである。

 とはいえ、物語としての間口はかなり親しみやすく作られている。冒頭に置かれた“アルタラ”についての説明が少々理屈っぽいが、物語の主人公である直実は引っ込み思案で取り立てて特技もない、特徴は乏しいけれど親しみやすい人物像で、彼の目によって出来事が綴られていくから、入り込みやすい。

 また、物語に関わる人物は多くない一方で、それぞれ個性が立っていて魅力的だ、というのも大きい。成長したカタガキナオミの、確かにこの少年が経験を積むとこうなりそうだ、と納得のいく肉付けに、当初直実が憧れるマドンナ的な同級生の勘解由小路三鈴(福原遥)や、ナオミの世界でも登場する変わり者の教授などが、作品に華やユーモアを添えている。

 しかし何と言っても、やはりヒロインである一行瑠璃が魅力的に描かれているのがいい。序盤では愛想も何もなく、直実からの印象も良くないのだが、物語が進むに従ってどんどんとその人柄、愛らしさが引き立ってくる。直実が惹かれていったのが素直に納得できるし、その後の直実の奮闘ぶりにも充分すぎる説得力を与えている。

 斯様に、ハードSFの土台を持ちながらもジュヴナイルSFらしい親しみやすさ、興奮をきちんと備えた優秀な娯楽映画――なのだが、個人的にはふたつ、どうしても引っかかる点があることを指摘しておきたい。

 まず、直実が大人のナオミから知らされる“秘密”の件である。劇中では最初戸惑いつつも、しかしわりあい早いうちに受け入れてしまっているのだが、恐らくほとんどのひとは、こんなことを言われても容易に受け入れられないし、理解したところで激しい葛藤を抱えるはずだ。そこがほぼ見過ごされてしまっているのが、私には少々釈然としない――物語としてのテンポや、作品として見せたい世界観や驚きがその向こう側にあるために、過剰に尺は割けない、という事情はおおよそ察せられたとしても。

 もうひとつ引っかかるのは、エンディングの手前のひと幕だ。“この物語は、ラスト1秒でひっくり返る”と本篇の公式サイトにも明記されている問題のくだりだが、恐らく、ぼんやりとした理解のままだと、このラスト1秒の“逆転”は理解しにくいだろう。私の観る限り、手懸かりは確かに用意されているし、あえて解釈の余地を残すことで観客に吟味したり他人と議論する余地を残そうとした、とも捉えられるが、それにしても少々唐突で、多くの観客にとっては戸惑いのほうが強い。解釈の手懸かりはもっと用意するべきだったのではなかろうか。

 たぶんSFに慣れ親しんでいるひとには“充分では?”と首を傾げられる気がするが、それでもこれを指摘しておきたいのは、それくらい本篇がジュヴナイルとして整っているからだ。最後のシーンの意味がすっと伝わる作りであれば、作品の感動はもっと素直に膨らんでいたはずだ。製作者の狙いでもあるのだろう、と承知の上で、私にはそこが惜しまれてならない。

 とはいえ間違いなく魅力的で、観る者を引っ張る力に優れた作品であることは間違いない。また、気がつきにくいが、本篇が基本的に3DCGで描かれていることも意識していただきたい。日本のアニメーションらしいキャラクターの表情、魅力を踏襲しながらここまで3DCGで表現出来る水準に達した、と証明した点でも、本篇の意義は大きい、と思う。



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