『はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~』

劇場版はいからさんが通る 前編~紅緒、花の17歳~ 通常版 [Blu-ray]

原作:大和和紀(講談社・刊) / 監督&脚本:古橋一浩 / プロデューサー:松田章男、井上孝史、川添千世 / 制作プロデューサー:伊藤耕一郎 / キャラクターデザイン:西位輝実 / サブキャラクターデザイン&総作画監督小池智史 / 演出:細川ヒデキ、鈴木吉男、山口美浩 / 作画監督:仁井学、宍戸久美子、仲敷沙織、伊藤秀樹、薗部あい子、中島美子、木下由美子、飯塚葉子、小磯由佳、羽山淳一西位輝実 / 背景デザイン&美術監督:秋山健太郎 / 美術設定:藤井綾香、佐藤えみ子 / プロップデザイン:枝松聖 / 設定考証:中條元史 / 色彩設計:辻田邦夫 / 編集:丹彩子 / 音響監督:若林和弘 / 音楽:大島ミチル / 主題歌:早見沙織『夢の果てまで』 / 声の出演:早見沙織宮野真守櫻井孝宏中井和哉梶裕貴瀬戸麻沙美石塚運昇鈴木れい子麦人谷育子一城みゆ希三宅健太 / アニメーション制作:日本アニメーション / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

2017年日本作品 / 上映時間:1時間37分

2017年11月11日日本公開

2018年4月25日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Disc 特装版:amazonBlu-ray Disc 通常盤:amazon]

公式サイト : http://haikarasan.net/

TOHOシネマズ上野にて初見(2017/12/12)



[粗筋]

 時は大正七年、旧来の文化と西洋文化が混ざり合い、新たな日本を作り出しつつあった時代。

 花村紅緒(早見沙織)ははいからを自認する女学生であった。気性は男勝り、まだ女性の地位が低かったこの時代に、独歩独立を志し、嫁する相手も自分で選ぶ、と言って憚らない。

 だが、十七歳の春、彼女は父親から、婚約者の存在を知らされる。華族であり、帝国陸軍に奉職する伊集院忍少尉(宮野真守)である。かつて紅緒の祖父と忍の祖母は恋仲であったが、身分違いゆえに結ばれることはなかった。いつか平和になり、身分の差がなくなった暁には花村家と伊集院家をひとつにしよう、と誓い、二代を経てその悲願を叶えようとしたのである。

 自由恋愛を標榜する紅緒に、こんな話が受け入れられるはずもない。隣家に暮らす幼馴染みで、役者の卵である蘭丸(梶裕貴)に告白され、駆け落ちを提案されると、好機とばかりに家を飛び出してしまう。

 道中、人力車夫の牛五郎(三宅健太)と諍いになるが、身につけた武芸で叩きのめすと、“親分”と奉られてしまった。成り行きで入った居酒屋ですっかり泥酔したところを、捜索に赴いていた忍に見つかってしまう。

 自分を想う蘭丸と、釣り合うほどの想いがあるか、と問われ、反論できなかった紅緒は渋々家へ戻った。

 忍もこれで愛想が尽きただろう――と思いきや、何故か忍は紅緒を受け入れるつもりらしい。そこで紅緒は作戦を変更し、行儀見習いとして住まうことになった伊集院家でわざと失態を犯して、向こうから破談にするよう仕向けることを考えた――



[感想]

 統計を取ったわけではないので、あくまで私の印象ではあるが、世間一般の“大正浪漫”というイメージの源泉を形作っているのは、大和和紀による本篇の原作ではなかろうか。後世の人間が大正という時代に抱く憧れを丹念に抽出した作りであったのも確かだが、何よりそのくらい魅力的な作品だったのだ。

 当然のようにテレビアニメとなり、これも人気を博していたが、何故か完結まで辿り着く前に終っている。放映当時、オリンピック中継の枠を確保するために打ち切りとなった、というが、今にして思うとかなり罪作りなところで終わっていた。だから、約40年振りのアニメ版の製作、というのは、当時の視聴者や往年のファンにとって悲願だった、と言っていい。

 しかし、その体裁は劇場版である。如何せん尺に限りがある。今回、前後編の構成にはなったが、1978年のテレビアニメは42話費やしても終わらなかったのだから、同じ内容を詰めこもうとすれば否応なしにダイジェスト気味になってしまう。

 案の定、本篇はスタートからかなり内容を詰めこんでいる印象が強い。尺が短いからこそ、印象的な名場面を抽出しつつ、きちんと筋を成り立たせようとすると、駆け足にもなるし省略も激しくなる。その結果、いちどテレビアニメとして長尺でまとめたものを再編集して劇場版にしたような雰囲気になってしまった。昨今、人気を博したアニメを再編集のうえ劇場にかけることはさほど珍しくなくなったが、如何せんこの作品は展開が速く情報量も多い。それ故に、完全リメイクであるはずなのに、ダイジェストのような印象が強くなってしまった。しかもやたらと話が詰まっているせいで、尺よりも長く感じられる、という側面もある。私の場合、初見当日の体調がかなり悪かったのも一因なのだが、感想を書くために再鑑賞しても、やはり不思議と“長い”という印象が強かった。

 それでも、物語の肝、そして名場面ばかりを採り上げているので、見応えは極めて豊かだ。目紛しく状況が変わっていくので、尺に対して非常に充実度が高い。

 絵については現代的にだいぶアレンジがほどこされているが、原作のデザインの方向性はおおむね尊重しており、恐らく原作ファンでもあまり不満は抱かないだろう。何より、きちんと登場人物たちが魅力的に描かれている。明朗快活で感情豊か、それでいて芯は通っているので観る側が共感しやすい紅緒はもちろん、ドイツとのハーフ、という大正時代としてはかなり冒険的な設定ながら、ちゃんと心根までイケメンになっている伊集院忍少尉、この前編では出番は少なめだが、鬼島軍曹や青江冬星など、のちのち物語で重要な役割を果たす好男子たちも、少女漫画的な美形のラインを踏襲しつつそれぞれの個性を発揮している。

 それにしてもこの作品、巧い、と思うのは、女の子が憧れそうな要素を無数に詰めこみつつも、それが現実と対決せざるを得なくなる局面を丁寧に盛り込んでいる点だ。紅緒の快活なキャラクターやロマンティックな描写、コミカルな表現の印象が強いのであまり意識することはないが、繰り返し、けっこうな障害が立ち塞がる。しかし、そうした障害があるからこそ、紅緒の想いや決断が際立つ。それ自体はいわゆるメロドラマの典型的な手法と言えるが、本篇はそのカタルシスを巧く作り出している。

 駆け足で散漫とした印象が生まれてしまったのは残念ながら、この作品じたいが持つ魅力は間違いなく引きだしている。出来ればこの方向性、このキャストで、改めてテレビシリーズとして発表して欲しかったところだが。



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