『THE GUILTY/ギルティ』

ユナイテッド・シネマ豊洲の入っているららぽーと豊洲入口脇に掲示されたポスター。

原題:“Den Skyldige” / 監督:グスタフ・モーラー / 脚本:エミール・ナイガード・アルベルトセン、グスタフ・モーラー / 製作:リナ・フリント / 撮影監督:ジャスパー・スパニング / 編集:カーラ・ルフェ / サウンドエディター:オスカー・スクライバーン / 出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、オマール・シャガウィー、ヨハン・オルセン / 配給:PHANTOM FILM

2018年デンマーク作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:佐藤恵

2019年2月22日日本公開

公式サイト : http://guilty-movie.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2019/2/23)



[粗筋]

 予定では、アスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)にとって、今夜が緊急通報指令室での最後の勤務となるはずだった。不祥事により警官としての現場を離れていたが、明日の裁判を乗り切れば、復帰できる予定になっていた、

 間もなく当直が終了するという時刻、受け取った通報に、アスガーは緊迫する。問いかけに対して、不自然な受け答えをする女の声から滲む緊張と恐怖に、アスガーは非常事態を察した。子供に向かって会話するような芝居をするように指示しながら、アスガーは問いかける。「君は誘拐されたのか?」女の返答はイエスだった。

 回線の契約情報から、声の主はイーベン(イェシカ・ディナウエ)という女性であることは特定できた。彼女の口から情報を引き出し、救出に向かわせようとするが、辛うじて聞き出せたのは白いワゴン車という事実だけ、ナンバーを聞き出すより前に通話は切れてしまう。

 アスガーは基地局の情報からイーベンの居場所をある程度絞り込み、現地の指令室に連絡して警官を手配した。居ても立ってもいられず、派遣された警官に直接回線を繋いで指示をするが、ようやく発見した白いワゴン車にも、通報した女性は乗っていなかった。

 なおも現地のパトカーが周囲を警戒するなか、アスガーは回線に登録された個人情報をもとに、イーベンの自宅に連絡した。電話に出たのは、マチルダと名乗る女の子だった。離れて暮らしているパパが、ママを連れて行ってしまった、という話から、アスガーはマチルダからパパ――ミケル(ヨハン・オルセン)についての情報を入手すると、彼の電話番号からイーベンを連れ回していると思しいワゴン車のナンバーを現地の指令室に伝達し、自分はミケルに説得を試みる。

 果たしてアスガーは、イーベンを救うことが出来るのか……?



[感想]

 コミュニケーターが通報者とのやり取りで事件を察知し解決に貢献する、というのは現実でもしばしば起きることであり、特にドラマティックなエピソードについては映画化も実現している。しかし、その趣向をここまでフィクションとして突き詰め、ストイックに語りきった作品、というのは極めて珍しい。

 しかも本篇は、電話の向こうの映像をまったく用意していないのである。事実上、画面の上では見知らぬおじさんのほぼひとり芝居が繰り広げられる、という、映画としてはあまりに色気に欠く作りだ。

 にも拘らず、最後まで強烈に惹きつけられる。終始画面に映り続けるアスガーを演じた俳優の演技力ももちろん非常に大きいが、その凄みは、見事に組み立てられたストーリーの構成と、それを支える通話音声のデザインにこそある。

 イーベンとの会話は最初からスリリングだ。最初はまるで噛み合わないが、間もなく危機的状況にあることを理解したアスガーは、イーベンの傍にいる人間に悟られぬよう配慮したやり取りを試みる。それでも通話が途切れてしまうと、そこで提示された僅かな手懸かりをもとに、周辺の指令室に連絡し、行方を追わせる。たまらず現場の警官を呼び出して、無線経由でもやり取りをするあたりには、音声しかないが故のもどかしさが加わり、更に緊迫感を増している。もしここで現地の映像が挿入されれば、解り易いが観る者の想像の余地を奪い、この緊張感は削られていたはずだ。

 そういう役割をよく理解して、本篇は回線の向こうの音声が作り込まれている。雨の音や周辺を走る車の音が小さく響き、擦過音が通信相手の動きを曖昧に伝える。説明的なやり取りが最小限なので、観客はアスガーと共に通信相手の状況を推測し、その瞬間起きていることを推理せざるを得ない。条件が限られているからこそ、本篇は並大抵のミステリ映画よりも遥かに知的なスリルを堪能させてくれる。

 回線の向こうで起きている事件は、決して入り組んだものではない。しかし、にも拘らずこの限られた情報を応用し、見事に謎解きを構成している。終盤の展開は、思わず唸ってしまうほどに巧妙だ。鑑賞しながら振り返れば、きっちりと伏線も織り込まれているのも解る。

 本篇は着想もそうだが、事件そのものも潔いばかりにシンプルだ。しかし、それを繊細に組み立て、きっちりと構成すれば、充分に優れたエンタテインメントになることを身をもって証明している。

 他方で、これは名もないクリエイターが、最小限の後ろ盾で作ったからこそ生まれた、とも言える。各国からリメイクの話が舞い込むのも確実な大ヒットを遂げたが、恐らくどれほどの名匠、名優を引っ張ってきても、これほどストイックで純粋な知的興奮に満ちた作品にはなるまい。劇中のシチュエーションと同様に、この制限の中だからこそ生まれた傑作である、と思う。



関連作品:

フォーン・ブース』/『セルラー』/『[リミット]』/『逃走車』/『search/サーチ