『ジャイアンツ(1956)』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) ジャイアンツ [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

原題:“Giant” / 原作:エドナ・ファーバー / 監督:ジョージ・スティーヴンス / 脚本:フレッド・グイオル、アイヴァン・モファット / 製作:ジョージ・スティーヴンス、ヘンリー・ギンズバーグ / 撮影監督:ウィリアム・C・メロー / プロダクション・デザイナー:ボリス・レヴェン / 編集:ウィリアム・ホーンベック、ロバート・ローレンス / 衣裳:マージョリー・ベスト / キャスティング:ホイト・バウアーズ / 音楽:ディミトリ・ティオムキン / 出演:ロック・ハドソンエリザベス・テイラージェームズ・ディーン、ジェーン・ウィザース、チル・ウィルス、マーセデス・マッケンブリッジデニス・ホッパー、キャロル・ベイカー、サル・ミネオ、ロッド・ベイカー / 初公開時配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

1956年アメリカ作品 / 上映時間:3時間21分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1956年12月22日日本公開

午前十時の映画祭9(2018/04/13~2019/03/28開催)上映作品

2018年3月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/11/27)



[粗筋]

 テキサス州に広大な土地を所有する牧場主ジョーダン・“ビック”・ベネディクトII世(ロック・ハドソン)は、“荒ぶる風”という馬を購入するため、メリーランド州を訪れる。

“荒ぶる馬”の所有者の娘であるレズリー(エリザベス・テイラー)はビックにひと目で惹かれるものを感じ、アプローチを仕掛けた。一夜漬けの知識でズケズケとものを言うレズリーに反感を抱くと同時に、ビックもつよく惹きつけられ、気づけば瞬く間に恋に落ちていた。

 晴れて夫婦となったふたりは、“荒ぶる馬”を伴い、ベネディクト家の屋敷に帰還する。ビックの姉であり、両親の死後は自らが女主人となって牧場を守っていたラズ(マーセデス・マッケンブリッジ)は、雇い人たちにも公平に接しようとするレズリーの態度をたしなめ、西武の流儀に従うよう諭す。だがレズリーは、牧場での暮らしに順応するよう努めながらも、彼女の流儀を守り続けた。

 あるとき、ビックとともに牛追いに出たレズリーは、あとからラズがやって来たのを潮に、ベネディクト家の使用人ジェット・リンク(ジェームズ・ディーン)が運転する乗用車に乗って家路に就くが、その途中、使用人たちが暮らすメキシコ人の集落に立ち寄らせた。訪ねた家の赤ん坊が高熱を出していることを知ると、懸命に看病を始めてしまう。

 レズリーがようやく帰宅すると、ホールに大勢が集まり、悲嘆に暮れていた。ビックの制止も聞かず“荒ぶる風”に騎乗したラズが落馬し、重傷を負ったのだという。すぐさまかかりつけの医師が往診し、専門医を呼び寄せる手配をしたが、到着する前にラズは帰らぬ人となってしまう。

 ラズは予め用意していた遺言の中で、使用人に対しても財産の分与を指示していた。とりわけ、貴重な男手として重宝していたジェットには土地の一部が遺されていた。土地が分割されるのをよしとしないビックは、その土地の評価額の2倍に相当する現金を渡して済ませようとしたが、ジェットはこれを固辞する。近年、付近の土地で石油が発掘され、土地の所有者が財を築く例が続いており、ジェットもその可能性に賭けようと考えたのだ。

 ラズの死後、レズリーは子供を授かり、ベネディクト家が賑やかになる一方で、ジェットは石油採掘のために借金を重ね首が回らなくなっていく。そろそろ潮時だろう、とビックたちが土地を買収しようとしたその矢先、遂にジェットの土地から石油が出たのだった――

[感想]

 牧畜から産油へと、その主要産業が切り替わりつつあった頃のアメリカ南部の変遷を、牧場を営む一家の目線から描いたドラマである。

 序盤の佇まいはどこか『風と共に去りぬ』にも似ている。ただ、あちらは終始、南部が変わらぬ価値観のまま時代の変遷を見届けているが、本篇はその価値観が変化せざるを得ない局面を題材としている。そのためにまず冒頭、北部から物語を起こし、嫁入りする形で南部に入っていく女性を中心に綴っていく。そうすることで、南部独特の文化に対する違和感が序盤から少しずつ浮き彫りにしているのだ。現代の目線からすれば、当時の北部のひとびととも決して認識や価値観は一致しないはずだが、序盤は安易に迎合せず第三者としてものごとを見届けているので、観客の理解を巧みに助けている――本篇の製作当時にそこまで意識していたとは考えにくいが、結果としてこの語り方が、60年もあとに鑑賞しているような人間にも物語を伝わりやすくしている。

 そうした視点から描いているので、序盤の南部の描写は全体に批判的だ。既に奴隷解放宣言は行われたあとの話だが、依然として労働者であるメキシコ人や彼らの集落に対して冷淡だ。牧場を取り仕切っているラズは、外部からやって来たレズリーが牛追いに加わることにも不快感を覗かせるが、そこには北部の“お嬢さん”への侮りと同時に、女性からの女性蔑視もちらつく。同じ流れで、当時南部で興りつつあった石油産業で稼ぐ者に対する否定的な言動も窺える。

 観ている者の心にささくれを残すようなそうした描写が、しかしジェットの成功あたりから反転していく。まさに転換期を思わせる牧畜から石油産業への急激な変化の波に乗り一気に財を築いていくジェットに対し、ベネディクト家は戸惑いながら大きな変化を受け入れていく。序盤において、南部での生活や風習に何の疑問も抱いていなかったビックはもちろん、急逝したラズのあとを担う格好で馴染んでいったレズリーでさえも、その変化にある種の後ろめたさや、劣等感を滲ませている。この過程の中で、レズリーが南部の暮らしに溶け込んでいることも表現しているあたりが巧い。

 だが、物語は終盤に向けて、また別の顔を見せていく。それを象徴するのは、伝説の俳優と呼ばれるジェームズ・ディーン演じるジェットだ。

 序盤は素朴で、たとえ雇い主であってもへりくだることをせず、見下されても石油採掘に情熱を注ぐ様は、観客の目線からは清々しく映る。急成長でビックら南部の富裕層を圧倒していく姿はいっそ痛快ですらある。

 しかし、物語が終盤に入っていくにつれて、違和感を抱くはずだ。序盤は控えめで、謙虚ですらあったジェットが、気づけば尊大に振る舞うようになる。ジェットに対して当初は好意的であったはずのレズリーでさえ違和感を覚えはじめるその変化は、富に取り憑かれた人間のおぞましさ、醜さを象徴しているかの如くだ。本質的には変わっていない、だからこそ救いがない側面もあるだけに、終盤に彼が見せる醜態に、観ている方が苦々しい想いを抱くくらいだ。

 虚無的なクライマックスのあと、物語は思いのほか穏やかな、風変わりともいえる雰囲気で収束していく。しかし、彼らがこういう境地に至るまでには多くのドラマがあり、観ているこちらも終幕のあとで、不思議とその記憶を噛みしめてしまう。

 本篇の中心人物であるレズリー、ビック、ジェットはいずれも当時の若手スターが最後まで演じている。生まれた子供が成人に近くなるほどの時間が経過するので、終盤はいささか無理のある老けメイクで演じているのだが、しかし所作にはきちんと歳を重ねた貫禄が滲むのが見事だ。とりわけジェームズ・ディーンは最初の快いアウトローが気づけば憎たらしい成金に変貌しつつも、そこに孤独を滲ませた奥行きのある演技を示し、本篇だけ観ても彼がただのアイドルでなかったことが窺える――そして、この作品を最後に早くもこの世を去ったことが心から惜しまれる。

 価値観の大きく切り替わる時代の南部を切り取った作品、なのだが、観終わって何より印象に残るのは、それぞれの出自を色濃く投影した3人のメインキャストだ。大きな変化の訪れた時代を描きながらも、やはり本質的には、その流れに翻弄されながらも生きていくひとびとのドラマなのだろう。たとえ状況は違えど、どこかに共感するものがあるから、60年を経たいま鑑賞しても沁みるものがある。映像は古びてしまったし、役者の老けメイクなどもいまと比べればはるかに稚拙だが、その語り口がまだ瑞々しく感じられるのも、そういう理由なのかも知れない。

関連作品:

シェーン』/『ブラック・サンデー

エデンの東』/『ザッツ・エンタテインメント』/『地獄の黙示録 劇場公開版<デジタルリマスター>』/『大いなる西部

風と共に去りぬ』/『アラビアのロレンス』/『恐怖の報酬(1953)』/『恐怖の報酬【オリジナル完全版】(1977)』/『アビエイター』/『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』/『ゲティ家の身代金

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