『パリの恋人』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) パリの恋人 [Blu-ray]

原題:“Funny Face” / 監督:スタンリー・ドーネン / 脚本:レナード・ガーシェ / 製作:ロジャー・イーデンス / 撮影監督:レイ・ジューン / 美術監督:ジョージ・W・デイヴィス、ハル・ペレイラ / 装飾:サム・カマー、レイ・モイヤー / 衣裳:イーディス・ヘッド / 編集:フランク・ブラクト / 音楽:ジョージ・ガーシュイン、アドルフ・ドゥイッチ / 出演:オードリー・ヘプバーンフレッド・アステア、ケイ・トンプスン、ミシェル・オークレール、ロバート・フレミング / 初公開時配給:パラマウント映画 / 映像ソフト発売元:Paramount Japan

1957年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫

1957年9月28日日本公開

午前十時の映画祭9(2018/04/13~2019/03/28開催)上映作品

2013年7月19日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2019/1/3)



[粗筋]

 アメリカのファッション雑誌・クオリティ誌は常に最先端の流行を追い求め、女性達のファッションをリードする存在たらんとしていた。編集長のマギー(ケイ・トンプスン)は誌面に知性を採り入れるべく、カメラマンのディック(フレッド・アステア)に指示をしていたが、思慮の浅いモデルをスタジオで撮っているだけでは限界があった。そこで編集部一同、こぞって街へと繰り出し、1軒の辛気くさい古書店に目をつける。

 古書店の従業員で、店主の留守を任されていたジョー(オードリー・ヘプバーン)は、突然の華やかな闖入者を制止したが、マキーたちは聞く耳を持たなかった。ジョーも背景代わりにしたかと思えば、しまいにはジョーを店から閉め出して、好き放題荒らしまくる。

 マギーたちが去ったあと、ひとりディックだけが荒らした店の片付けに残された。共感主義の思想に傾倒し、ファッションには微塵も関心を示さないジョーに、ディックは興味を惹かれ、衝動的に唇を奪ってしまう。ジョーは怒りつつも、ときめきを禁じ得なかった。

 折しもクオリティ誌では新たな誌面の顔として、モデルの中から“女王”を選出することを目論む。人材選びに悩むマギーたちに、ディックが提案したのはジョーの抜擢だった。配達の名目でジョーを呼び出し、本そっちのけでジョーの品定めをしたマギーは、個性的な顔だがスタイルも整ったジョーを気に入り、パリ在住のデザイナー、ポール・デュヴァル(ロバート・フレミング)の新作モデルに抜擢することをさっさと決めてしまう。

 ファッションに反感すら抱いていたジョーは当然固辞し逃げ出すが、駆け込んだ暗室で遭遇したディックに、パリへ行く方便にすればいい、と諭される。パリにはジョーが尊敬する共感主義の哲学者フロストル教授(ミシェル・オークレール)が在住し、現地では大学のみならずカフェなどでも頻繁に講演を行っていた。彼のもとを訪ねる口実に、モデルの仕事を使えばいい、というのだ。

 かくして、ファッションとは無縁だったジョーは、誌面を飾る“女王”となるべく、マギー、ディックとともにパリへと渡った――



[感想]

 粗筋として書こうとすると、けっこう細かな情報が入ってきて煩雑になるが、簡単に解体してしまえば、オードリーの変身とファッションショー、それにミュージカルを採り入れて描くラヴ・ストーリー、という程度でまとめられる、至ってシンプルな内容だ。意外性や、個性的な筋書きを期待して観ると、恐らく本篇はまったく響かない。

 しかしそのぶん、オードリーの魅力やミュージカルの醍醐味は存分に堪能出来る作りとなっている。とりわけ、オードリーという稀有な女優の魅力、多くの観客が求めていた彼女の姿はあらかた詰めこんでいる、と言っていい。

 オードリーのミュージカルといえば『マイ・フェア・レディ』があるが、あの作品におけるオードリーの歌声は大半が別人による差し替えだった。それに引きかえ本篇は確かに彼女の肉声で歌声を披露している。ゆえに『マイ・フェア・レディ』ほど隙のない歌唱というわけではないが、しかしナチュラルで馴染みやすい。

 そして本篇での彼女は歌のみならず、随所でダンスも積極的に披露している。突然のキスに舞いあがって歌い踊る姿は可憐だが、パリに渡り、カフェで見知らぬ男性達と披露するステップは大胆で躍動的だ。終盤に至ると、更にひと皮剥けて、大人びた魅力さえ醸しだす。明快な衣裳や展開の巧さ、振付の演出も優れているのだろうが、こういう“変化”を表現するのに優れた女優であることを窺わせる。

 本篇ではそんな彼女に“モデル”という役割を振ることで、撮影の名目で目紛しく衣裳を替え、様々なシチュエーションでの表情を切り取っている。普通の映画ならあり得ないような設定での表情を見られるばかりか、『昼下りの情事』を彷彿とさせるような場面もあったり、遊び心もあって、このくだりは観ているだけで楽しい。

 どうしてもオードリーに目が行きがちだが、彼女が参加しないミュージカルパートもおしなべて質は高く見応えがある。計算された舞台上で演じられ、曲の展開によって最終的に色彩まで変わってしまう最初のシーンや、パリの路地裏にあるホテルで、オードリー演じるヒロインに向けて華麗に踊るフレッド・アステアのくだりは圧巻だ。個人的に、アステアほどステップの美しいミュージカル俳優はいない、と思っているが、その本領がしっかりと発揮されている。

 そしてそんなアステアとオードリーが手を携えて踊るクライマックスがまた素晴らしい。恐らくはセットを組んでの演技だと思われるが、それを感じさせないほどの広がりと、ロマンティックな雰囲気を盛り上げる演出に富んでいる。行きすぎていささか作り物っぽさも強いのだが、だからこそオードリーの無二の魅力と、アステアの熟達したステップの美しさが堪能出来るひと幕となっている。

 ある意味では、「オードリーの変身を描きたい」「多彩な衣裳をまとうオードリーを撮したい」「アステアのステップをとことん見せつけたい」という作り手の欲望にとことん正直な作りだ、と言える。だが、半世紀を経たいまなお並ぶもののないそれらの魅力をたっぷり詰めこんだ、それだけで本篇には充分すぎる価値がある。



関連作品:

恋愛準決勝戦』/『雨に唄えば』/『シャレード

マイ・フェア・レディ』/『ローマの休日』/『昼下りの情事』/『麗しのサブリナ』/『バンド・ワゴン』/『タワーリング・インフェルノ』/『ザッツ・エンタテインメント』/『ジャッカルの日

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