『アース:アメイジング・デイ(吹替)』

TOHOシネマズ上野、スクリーン6入口に掲げられたチラシ。

原題:“Earth : One Amazing Day” / 監督:リチャード・デイル、ピーター・ウェバー&ファン・リーシン / 脚本:フランク・コットレル・ボイス、ゲリン・ヤン / 製作:スティーヴン・マクドノー / 製作総指揮:ニール・ナイチンゲール / 音楽:アレックス・ヘッフェス / 出演:サーバル、ウミイグアナ、ジャイアントパンダ、サバンナシマウマ、イッカク、ヒグマ、キリン、マッコウクジラ、ピグミーミユビナマケモノ、ヒゲペンギン、ラケットハチドリ、カヤネズミ、メンブクロウ、モンカゲロウ、ハクトウラングール、ヒカリコメツキ、ヒカリキノコバエ / 日本語吹替版ナレーション:佐々木蔵之介 / BBCアース・フィルムズ製作 / 配給:KADOKAWA

2018年イギリス・中国合作 / 上映時間:1時間34分 / 吹替版翻訳:鈴木希美子 / 監修:新宅広二

2018年11月30日日本公開

公式サイト : https://earthamazingday.jp/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/11/30)



[粗筋]

 地球の生き物は、太陽の周期と無縁ではいられない。その影響を、それぞれが様々な形で受け取っている。

 変温動物のウミイグアナはたっぷりと浴びた陽射しで身体を温めて活動をはじめ、北極の溶かされ割れた氷の隙間をイッカクは悠然と泳いでいく。熱暑の中で気力を欠いたハンターたちの目を盗んでサバンナシマウマたちは遠い旅に赴く。

 日が暮れれば、ほんの数時間のうちに寿命を迎えるモンカゲロウが種を遺すため川面に乱舞し、来たる闇を怖れてハクトウラングールは物陰に逃げていく。

 そして夜の世界にその身を光らせ、躍動させる生き物たちもいる。そんな地球上の驚くべき1日の出来事を、カメラは追う――

[感想]

 大ヒットしたネイチャー・ドキュメンタリー『アース』の続篇――と銘打ってはいるが、製作としてBBCが携わっていること以外共通するスタッフはいない。

 しかし、BBCは本篇までのあいだ、『アース』に限らず、自然を相手に多くの映像を記録してきた。その都度最新の撮影機材を導入し、膨大な時間を費やして貴重な一瞬を記録する、という手法を貫いてきたBBCが抱える映像資産は数多い。そのうえで、ネイチャー・ドキュメンタリーの傑作として通った『アース』の名を掲げてリリースするのだから、収録した映像への自信が窺える。

 専門的な見地から貴重な映像、というのは一般人の目には判断しがたいが、しかし知識が浅くとも瞠目するような映像が多く、観る者を退屈させることがない。湖を意外と機敏に泳いで渡るピグミーミユビナマケモノや、凄まじい波濤と戦いながら子育てをするヒゲペンギンあたりが印象的だが、特にインパクトが強いのは、マッコウクジラの睡眠を捉えたくだりだ。ダイバーが撮影に成功し話題になったのはそれほど昔のことではないはずだが、本篇のスタッフは早くも高解像度のカメラで記録することに成功していたらしい。あの巨体が垂直に並んで眠っているさまは、大画面で観るに相応しい。

 しかし今回、この続篇において最も特筆すべきポイントは、共同監督のうち2名がドキュメンタリーだけでなく劇映画でも評価を得た人材だ、ということにあるように思う。ドキュメンタリー、とりわけこうした、複数の生物を追ったものは、映像ひとつひとつの驚きはあっても、それぞれを関連付ける趣向がうまく働かないと退屈を生む。どれほど優れた映像、貴重な瞬間の記録であろうと、全体のクオリティが揃ってしまうと却って倦んでしまうもので、誠実に、時間をかけて撮られたものほどこのジレンマに陥りやすい。同様のネイチャー・ドキュメンタリーでヒットしたものや名作の誉れ高いものでも、途中で眠くなった、という経験があるひとは少なくないのではなかろうか。

 本篇がその轍を完璧に免れている、とまでは断言しないが、かなり成功に近い仕上がりとなっているのは間違いない。1日の出来事を追う、という体裁で全体を構成、個々で異なる生態に共通する目的や理由を見つけ、緩やかに繋いでいく。個々を切り取るとやはり別々の出来事に思えるのだが、映画という形で紡ぎあげたストーリーはきちんと感じられる作りだ。

 もうひとつ特筆したいのは、こうしたネイチャー・ドキュメンタリーでしばしば陥りがちな“説教臭さ”が抑えられている点だ。どうしても避けようのない温暖化の影響には言及しているが、それぞれの生態を追う、という領分を超えようとはしない。何より、どれほど人間の観点で貴重な生き物に思えても、多くの生き物は適応するために変化し、変化しきれなければ淘汰されていく。私たちが見ているものは、偶然巡り逢うことの出来た奇蹟の一瞬にすぎないことに触れている。確かに、人間の軽率な行いが及ぼす影響は常に考え、対処していかねばならないことだが、本篇が発見した様々な生命の営み、その現象そのものがストレートに示唆するものではない。製作者がきっちりと弁えて作品に臨んだことが窺える。

 使用された映像のクオリティとその貴重さはもちろん、映画としての結構も整っている。ネイチャー・ドキュメンタリーの国際的トップランナーであるBBCの面目躍如たる仕上がりだと思う。

関連作品:

アース』/『ライフ -いのちをつなぐ物語-』/『ネイチャー

WATARIDORI』/『皇帝ペンギン』/『ミーアキャット』/『HOME 空から見た地球』/『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』/『オーシャンズ』/『日本列島 いきものたちの物語』/『シーズンズ 2万年の地球旅行

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