『23年の沈黙』

新宿シネマカリテ、入口から地下に伸びる階段の脇に掲示されたポスター。 23年の沈黙 [DVD]

原題:“Das Letzte Schweigen” / 原作:ヤン・コスティン・ヴァークナー / 監督、脚本&共同製作:バラン・ボー・オダー / 製作:フランク・エヴァース、フローリアン・シュナイダー、マーレン・リットイェ、ヨルグ・シュルツェ / 撮影監督:ニコラウス・サマラー / プロダクション・デザイナー:クリスティアン・M・ゴルトベック、イェズィム・ツォーラン / 編集:ローベルト・レチェチャッチュ / 衣装:カタリーナ・オスト / 音楽:ミヒャエル・カム、クリス・シュタイニンガー / 出演:ウルリク・トムセン、ヴォータン・ヴィルケ・メーリングカトリーン・ザース、ブルクハルト・クラウスナー、ゼバスティアン・ブロンベルク、カロリーヌ・アイヒホルン、ローランド・ヴァイスネッカー、クラウディア・ミヒェルゼン、オリヴァー・ストコウスキ、ジュール・ボーヴェ / 映像ソフト発売元:Only Hearts

2011年ドイツ作品 / 上映時間:1時間54分 / 日本語字幕:?

2015年10月17日日本劇場公開

2011年5月27日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

新宿シネマカリテにて初見(2015/10/17) ※オトカリテVol.15として特別上映



[粗筋]

 ふたりの男は、乗用車に乗り込むと、街行く少女を物色した。校外で、自転車に跨がり人気のない畑に入っていく少女を見つけると、あとを追い、彼女をレイプする。抵抗を受け、逆上した男は、少女を殺害し、遺体を隠す。一部始終を見届けたもうひとりの男は、怖じ気づき、男のもとを去っていった。

 それから23年の、7月8日金曜日。

 まるであの日を再現したかのように、ジニカという少女が行方をくらまし、翌土曜日に乗っていた自転車だけが畑から発見された。

 23年前に殺害された少女・ピアの件の担当で、ちょうどこの日退職となった刑事のクリッシェン(ブルクハルト・クラウスナー)は、その共通点に着目、後輩で復職したばかりのダヴィッド(セバスティアンブロンベルク)に現在の事件との関連を調べるように進言する。だが、この23年間、同様の事件は発生しておらず、上司のマティアス(オリヴァー・ストコウスキ)は2件の繋がりには懐疑的だった。

 他方、ニュースでジニカ失踪事件の詳細を知ったティモ(ヴォータン・ヴィルケ・メーリング)は動揺する。ジニカの件は、かつて彼が間近で目撃した、当時の親友ペアー(ウルリク・トムセン)の犯行に似通っていた。突如として蘇った記憶に、抑えられなくなったティモは、かつて逃げ出した街へと車を走らせた――



[感想]

 本篇は日本では劇場にかけられず、DVDリリースが最初の公開となった。だが、2014年製作の『ピエロがお前を嘲笑う』の好評を受けて、新宿シネマカリテで不定期に催している埋もれた名作の発掘企画で採り上げられ、初めて劇場公開が実現した。

 時間が空いてしまったため、DVDで改めて鑑賞しなおしたのだが、最初は劇場公開がなかった、というのが不思議なほど優秀なサスペンスである。

 犯行の様子から描いているあたりは倒叙ものの趣だが、プロローグの直後に23年が経過すると、様相は変わってくる。あの事件に未だ囚われている人々、新たな事件に翻弄される人々、事件に携わったことで自らの傷を抉られたかのように振る舞う刑事、それぞれが各々の思惑で動き始める。物語を追う観客は、「たぶん、23年前と同じ人物の犯行だろう」と思いつつも、古傷を負う刑事と同様に、事件に振り回されていく。

 興味深いのは、23年前の事件の当事者それぞれの変化と、新たな事件への反応だ。娘を殺された母親はその後家庭を破綻させ、いまなお娘を忘れられずにひとり暮らしている。23年前の犯人が犯行に及ぶ現場に立ち会った男は、その場から逃げたあとに家庭を築いていたが、まるで自分が目撃した事件を再現したかのような報道に、居ても立ってもいられず現地へ舞い戻る。まさに事件の日、現役を退いた刑事もまた、独断専行で過去の事件に光明を見出そうとする。そして、それぞれの行動が、微妙に錯綜し、或いは思わぬ合流をして、新たな人間模様を描き出す。

 23年前の犠牲者の母親と事件を担当した元刑事の意表を突いた作戦を契機に事態は更に動き、物語はより緊迫感を帯びていく。それまでの描写を巧みに活かしたサスペンスの緩急も絶妙だが、各々の記憶や感情を背景とするドラマの奥行きも秀逸だ。その一挙手一投足に、観る者も想いを巡らさずにいられない。

 この静かな緊張感に彩られた物語が最後に炙り出すのは、人々の逃れようもない孤独だ。たとえ同じ世界に生き、同じ出来事に関わっていても、本質的に人間とは別々の生き物で、意思も感情も共有できない。ラストシーンである人物が見せる表情に、言い得ぬ感情を抱く人は、たぶん僅かでも同じ感覚を物語にもたらされているのだろう。

 ミステリとしての緊迫感が漲りながら、描写も結末も深い奥行きを備えた秀作である。改めて、劇場公開なしだったのが不思議に思え――るわけでもなかったりする。たぶん、メインキャストがほとんど中年で華やかさに欠けるうえ、これが2作目だった監督の知名度も、劇場公開に踏み切れなかった理由なのだろう。再度機会が与えられたのは、続く長篇『ピエロがお前を嘲笑う』で監督がサスペンス映画の作り手としての力量を改めて証明することが出来たからこそだ。『ピエロ~』で初めて監督の作品に接した人は、本篇でその手腕が偶然でなかったことを確かめられるはずである。



関連作品:

センチュリオン』/『es [エス]』/『ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~』/『トンネル

砂の器』/『プレッジ』/『タブロイド』/『題名のない子守唄』/『ゴーン・ベイビー・ゴーン』/『チェンジリング』/『ラブリーボーン』/『瞳の奥の秘密』/『プリズナーズ』/『ゴーン・ガール』/『search/サーチ