『ダンスウィズミー』

ユナイテッド・シネマ豊洲の入っているららぽーと豊洲入口脇に組まれた工事用足場の壁に掲示されたポスター。

原作、監督&脚本:矢口史靖 / 脚本協力:矢口純子 / プロデューサー:関口大輔、土本貴生 / エグゼクティヴプロデューサー:桝井省志 / 撮影:谷口和寛 / 照明:森紀博 / 美術:磯田典宏 / 編集:宮島竜治 / キャスティング:吉川威史 / 音響効果:岡瀬晶彦 / 整音:群弘道 / 振付:G-TARO、EBATO / 音楽:Gentle Forest Jazz Band野村卓史 / 出演:三吉彩花やしろ優、chay、三浦貴大ムロツヨシ宝田明、浜野謙太、黒川芽以 / 企画&制作プロダクション:アルタミラピクチャーズ / 配給:Warner Bros.

2019年日本作品 / 上映時間:1時間43分

2019年8月16日日本公開

公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/dancewithme/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2019/8/17)



[粗筋]

 その日は鈴木静香(三吉彩花)にとって千載一遇のチャンスだった。ひょんなことからエリート社員の村上涼介(三浦貴大)に資料の制作を頼まれ、自宅で休日返上して仕事をしていたが、実家に出戻りしていた姉に頼まれ、姪の奈々を1日預かる羽目になる。どうにか仕事を片付けた静香は、奈々の機嫌を取るために、偶然手に入れたフォーチュン・ランドの無料入場券を使った。

 無料とは名ばかりで、有料のアトラクションばかりが立ち並ぶ施設のなかで、奈々はひときわ怪しげな催眠術の看板に足を向けた。間近に控えた学芸会でミュージカルをお披露目することになった奈々は、催眠で苦手意識を取り除いてもらおうと思ったらしい。マーチン上田(宝田明)と名乗る催眠術師は静香にも安っぽい指環を売りつけ、彼女の目の前で奈々に催眠をかけた。

 あくる日、催眠の影響がないことにふて腐れる奈々を姉が連れ帰ったあとで、静香は自らの異変に気づく。イヤフォンで音楽を聴きながら通勤しようとしていたら、勝手に身体が踊り出していたのだ。何故か静香だけ、バッチリ催眠にかかっていたらしい。

 鳴り響く音にビクビクしながら出社した静香は、村上の眼前でさっそく失態を犯してしまう。村上に頼まれ、一緒に出席した会議で、ホームページに使う音楽が流れてきた途端に身体が勝手に動いてしまった。気づけばすっかり散らかってしまった職場の有様に、静香は動揺して逃げ出してしまう。

 静香を診察した精神科医は、身体的な異常は全くなく、術を施した催眠術師に解いてもらうしか解決方法はない、と言う。そこでフォーチュン・ランドを訪れた静香だったが、マーチン上田がいたブースには消費者金融の取立が集まっていた。かつてはテレビ番組が制作されるほど評判だったマーチン上田だが、いまやすっかり落魄し、借金まみれになっているらしい。取り立てから逃れるため、夜逃げ同然に行方をくらましてしまったようだった。

 途方に暮れていると、静香たちの前に催眠術を受けていた女がブースに現れ、静香の顔を見るなり逃げ出す。その女がマーチン上田の雇ったサクラであることを察知した静香は追いすがり、マーチン上田の行方を訊ねるが、そのサクラ役・千絵(やしろ優)に対してもまともに報酬を払わず、何も言わずに消えてしまったらしい。やむなく静香は千絵とともに近場の興信所に駆け込み、マーチン上田の捜索を依頼した。

 マーチン上田さえ見つければ、静香は日常を取り戻せる。だが、そんな彼女を待ち受けているのは、想像以上の茨の道だった――



[感想]

“ミュージカル”という手法に対して、「どうして嬉しかったり悲しかったりするたびにいちいち歌い出すのか解らない」といった類の疑問を抱くひとは常にいる。かく言う私も、まあまあの数の映画を観てきてだいぶその魅力は実感しているが、今でもそんな感覚に陥ることがある。

 本篇は、その根源的な疑問自体をネタにした作品だ、と言える。

 いわゆる一般的なミュージカルは感情や物語の展開を表現するために用いており、登場人物たちにとっては歌い踊ることがごく当たり前の出来事として許容されているか、実際の行為、現象としては観測されていない状態になっている。しかし本篇は、現実の出来事として、本当に踊っている。現実の中で急に踊り出せば、奇異の眼差しを向けられるのは必定だし、演出のつもりで机の上を走ったりゴミを撒き散らしたりすれば散らかる。負荷をかけられることを想定していないものにぶら下がれば、当然壊れるに違いない。そういうことが現実に起きて、周りから白い目で見られたり怒られたりする、そういう当たり前の現実と地続きの世界観で、本篇はミュージカルを取り込んでいる。

 面白いのは、そういう約束の上で、あくまでもイメージのなかの世界、という体裁で画面上はオーソドックスなミュージカルを展開させるのを正当化していることだ。この点は特に序盤にあるふたつのミュージカル・パートに明瞭だ。ひとつめは村上に請われて参加した会議の席で、流れたBGMに誘われて踊るくだりだ。画面上はまるで申し合わせたかのように同僚たちが机の上を空けてステップを踏む余裕を作り、静香と呼吸を合わせて踊っているが、いざ静香が我に返ると、散らかったオフィス内でみんな困惑の眼差しを静香に向けている。この出来事を踏まえた上で繰り広げられる次の大きなダンスシーンが見物だ――詳述はしないが、この世界観なら確かにこうなる、という光景が展開する。ミュージカルパートを徹底的に正当化したうえで、それ自体をコメディの格として見事なまでに活かしている。ひとつのシチュエーションに着眼して研究を重ね、コメディとして純化する、という手法をずっと続けてきた矢口史靖監督ならではのミュージカルと言えよう。

 そしてそこからの物語展開も、コメディタッチながらしっかり一定のリアリティは確保し、地に足が着いている。精神科に相談しても解決せず、けっきょくは催眠術師に催眠を解いてもらおうとするが、借金まみれの当人は既に行方をくらましている。そういう成り行きでにわかにロード・ムービーに発展していくが、そこでも“音楽を聴けば自然と歌い、身体が動く”という静香の呪いじみた状況をコメディに、或いはドラマの発展に駆使している。

 矢口作品の興味深いところは、きちんと題材について丁寧に取材し、一定のリアリティを確保しつつも、過剰な要素を盛り込んだり、展開上の飛躍をあえて行っている点だ。本篇では、まるで静香の反応を見透かしたかのように、借金取りから逃れる、という体で旅立ってしまう催眠術師の行動に顕著だが、静香を動かす催眠術自体にもそうした跳躍がある。彼女が術を施されるくだりや、それに対する反応には一定のリアリティがある一方で、本来は“予備催眠”などのかたちで準備しなければ不可能な、瞬時の催眠状態への移行をあっさりやってのける場面もある。しかしそれを、シチュエーションの組み立ての緻密さとテンポの良さでごまかし、惹きこんでしまうあたりこそ、この監督の本領と言える。

 本篇はまた、矢口監督初期の作品に見られたような意外性と、しかしこれ以上ないほど嵌まった配役が効果を上げている。懊悩しながらも歌い踊る場面では見事な振り切りっぷりでまさにミュージカル女優の風格を見せたヒロイン静香役の三吉彩花は勿論だが、本篇で特に注目すべきは、静香の相棒となる千絵を演じたやしろ優だろう。物真似で人気を博したお笑い芸人で女優というイメージはないが、催眠にこそかかっていないが“盛り上げ役”として躊躇なく歌い踊るキャラクターが板についている。終盤近くではストーリーを大きく動かすきっかけともなるキャラクターだが、その個性もうまく体現している。芸人としての巧さも奏功しているのだろうが、矢口監督が一貫して示している配役のセンスがここでも遺憾なく発揮されている、と見るべきだろう。

 本篇は間違いなくミュージカル映画だが、いわゆる一般的なミュージカルとは一線を画した作りでもある。ミュージカルに愛着のあるひとはもちろん楽しめるだろうけれど、むしろ「ミュージカルが苦手」と公言しているようなひとにこそお薦めしたい。そもそも歌って踊る、という感覚そのものが理解不能、というレベルで受容できないひとでもない限り、きっと本篇は楽しめる。ミュージカル嫌いを公言していたとしても、観終わって、なんとなく足取りが弾んでしまう感覚を、本篇では味わえるかも知れない。



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