『ボヘミアン・ラプソディ(字幕・ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示されたポスター。

原題:“Bohemian Rhapsody” / 監督:ブライアン・シンガー、デクスター・フレッチャー / 脚本:アンソニー・マクカーテン / 原案:アンソニー・マクカーテン、ピーター・モーガン / 製作:ジム・ビーチ、グラハム・キング / 製作総指揮:デクスター・フレッチャー、ジャスティン・ヘイシー、アーメン・ミルチャン、デニス・オサリヴァン、ジェーン・ローゼンタール / 共同製作:リチャード・ヒューイット / 撮影監督:ニュートン・トーマス・サイジェル / プロダクション・デザイナー:アーロン・ヘイ / 編集:ジョン・オットマン / 衣装:ジュリアン・デイ / 音楽製作総指揮:ブライアン・メイロジャー・テイラー / 出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロ、エイダン・ギレントム・ホランダー、アレン・リーチ、マイク・マイヤーズ、アーロン・マカスカー、ダーモット・マーフィ、マシュー・ヒューストン、ミシェル・ダンカン、マックス・ベネット / GKフィルムズ製作 / 配給:20世紀フォックス

2018年アメリカ作品 / 上映時間:2時間14分 / 日本語字幕:風間綾平

2018年11月9日日本公開

公式サイト : http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/11/13)



[粗筋]

 1970年、ファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)はライブハウスでバンド“スマイル”の演奏に強く心惹かれる。楽屋裏にバンドメンバーを訪ねたファルークは、直前にヴォーカル兼ベースティム・スタッフェルが離脱したことを知ると、自分をヴォーカルに雇わないか、とアピールする。ギターのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラムのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)はファルークの歌唱力とコーラスとの相性の良さに、すぐさま彼をメンバーに加えることを決める。

 ファルークはベースが弾けないため、新たにジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)を加え、バンド名も“クイーン”に改めた。演奏技術の高さと、“フレディ・マーキュリー”に改名したファルークのステージ・パフォーマンスも相俟って、4人は各地の学園祭に招かれるまでに知名度を上げた。

 しかし、更に上を目指すべく、一同はフレディの提案でツアー用のワゴン車を売却、それを元手にアルバムの制作を開始する。スタジオに入ったフレディたちは、ミキシングに凝ったり、楽器以外の様々なアイテムを採り入れた演奏を展開、意欲的にレコード作りに取り組んだ。

 その実験的スタイルが、たまたまスタジオを訪れたエージェントの目に留まり、やがてクイーンは大手であるEMIレコードとの契約を勝ち取る。

 彼らの独創的な演奏はまず、イギリス国外で評価された。アメリカでチャート入りを果たしたクイーンはさっそく全米ツアーを敢行、充分な手応えを得る。

 やがてクイーンの面々は郊外の牧場にある一軒家を借り、そこで4枚目となるアルバムの制作を開始する。ロックにオペラの要素を取り込むなど、より多彩なアイディアを導入し、ミュージシャンとして充実した日々を送る一方で、フレディの心には、ある変化が起きつつあった――



[感想]

 実在するミュージシャン、バンドの生涯や足跡を俳優たちが演じ映画化した作品は他にも無数にある。しかし、そのなかでも本篇は、かなり成功した一例ではなかろうか。

 本篇の特筆すべき点は、クライマックスに長尺のライヴ・シーンを置いたことにこそある。ローリング・ストーンズボブ・ディラン、様々な著名アーティストを招いて実施された大規模なチャリティ・コンサートであり、確かに大舞台ではあったが、クイーンの保ち時間は当然のように限られていた。しかし、限られていたからこそ、実際とほぼ同じ尺でじっくりとライヴ・シーンを見せることが出来た。規模が大きかったぶん、様々な資料や素材もふんだんに確保出来た、ということも奏功していたと思われる。このイベントが劇中で描かれるほど、クイーンやフレディ・マーキュリーにとって重要なイベントで会ったかどうかには疑う余地があるが、映画というかたちで彼らのキャリアを総括するうえでは格好の見せ場であったと言える。これを、まるで本当に現場にカメラを持ち込んだかのような臨場感で描きだした、その点だけでも本篇は価値があり、充分すぎるほどに魅力がある。

 何よりもこの作品、このクライマックスのライヴを見応えのあるものにするため、驚くくらい堅実に、着実に物語を積み上げている。

 本編は、こうした作品には珍しく、他のアーティストがほとんど登場しない。ブライアン・メイロジャー・テイラーとが最初に組んでいたベース兼ヴォーカリストや、フレディがソロ活動をしている際にちらほらと他のミュージシャンが登場したりするが、たとえば彼らのライヴァルとなるものは登場しない。本篇のタイトルにもなっている代表曲“Bohemien Rhapsody”を含むアルバム『オペラ座の夜』リリース時、実際に対立して袂を分かつことになったレーヘルの社長や、バンドに不協和音をもたらすきっかけを生んだような人物もいるにはいるが、いずれもクイーン自身の音楽活動に絡むものだ。けっきょく全篇を通して、驚くくらいに“クイーン”というバンドとその周辺だけで話が完成されている。

 メンバーのなかでもフレディ・マーキュリーに焦点を合わせた作りだが、これは至極当然のことと言えよう。クイーンの音楽を聴けば解ることだし、本篇でもその点は明確にされているが、クイーンというバンドの個性を決定づけ、実質的に牽引していたのはフレディであったし、45歳という若さで終わったその人生そのものが興味深い。

 作中では、フレディがバイセクシャルからゲイへと移行し、最終的にエイズに蝕まれて亡くなったことを、決して興味本位ではなく、きちんと筋道のある物語として昇華して描いている。メアリー(ルーシー・ボイントン)という、婚約までした女性がありながら、性的関心の対象が同性へと移った戸惑いや、それ故の奇妙な関係性が、本篇を通して観ると理解しやすい。のちに晩年を親しく過ごした男性との出会いの表現も、まるでシンプルな恋愛映画にも似たロマンティックさがあり、同性愛というものに免疫がないひとでも、本篇は受け止めやすいのではなかろうか。

 そして、そんなフレディの立場や心境の変化に振り回されながらも、クイーンというバンドが辿り着いた境地を、あのクライマックスのライブで見事に結晶させている。ここまできっちり布石を置いたうえでの終盤なのだから、観ていて熱くならないはずがない。クイーンに思い入れがあれば勿論のこと、彼らについてまったく知識がなかったとしても、よほどその音楽性が肌に合わない、と言うのでもない限り感動と興奮を共有させられてしまうはずである。

 そして。もし少しでもその音楽性に惹かれてしまったら最後、たぶん自分でレコードを買わずにはいられない――現に、かくいう私が、ちょうどリリースされたばかりのクイーン・LPレコード・コレクション創刊号を、映画館からの帰りに買ってしまったくらいなんだから。

 アーティストを主題とする映画として、本篇は理想的な内容であり、出来映えと言っていい。天にいるフレディも、本篇の仕上がりと、それに歓喜する観客たちの姿にきっと満足しているのではなかろうか。



 あまりに出来がいいので、あえて触れる必要もないような気がしてきたが、最後にちょっとだけ本篇の成り立ちについて書いておきたい。

 とにかくこの作品、紆余曲折が激しかった。最初の頃はサシャ・バロン・コーエン主演でフレディの人生を映画化する、という情報だったが、のちに『X-MEN』シリーズで知られるブライアン・シンガー監督で撮影が始まる、という報が出されるまでにもかなり多くの監督や俳優が候補に上げられては消えていったらしい。

 しかもあろうことか、ブライアン・シンガー監督は撮影を1/3残した段階で現場をボイコットし、製作サイドの判断で監督を外された。最終的に、シンガー監督以前に監督候補に上がっていた俳優のデクスター・フレッチャーが監督を代行し、完成に漕ぎつけたという。

 アメリカでは映画の役職ごとに組合が存在し、それぞれに規約がある。監督協会の規約では、基本的に1本の作品にはひとりの監督しかクレジットに記載されないため、途中降板はしたものの、多くの部分を手懸けたブライアン・シンガーの名前が監督として残り、デクスター・フレッチャーは“製作総指揮”のひとりに名を連ねた――この感想では監督に連名で記載したが、公式とは異なることをお断りしておく。

 こうした経緯を考えると、本編の完成度は奇蹟のようにも思える。恐らく、そうまでしてでも決して妥協せず、完成に向けて心血を注いだひとびとの情熱があったからこそ、なのだろう。諦めずに挑み続けた製作陣を賞賛されて然るべきだと思う。



関連作品:

X-MEN:フューチャー&パスト』/『ビロウ

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