『バースデー・ワンダーランド』

丸の内ピカデリーが入っている有楽町マリオン外壁の看板。

原作:柏葉幸子『地下室からのふしぎな旅』(講談社青い鳥文庫・刊) / 監督:原恵一 / 脚本:丸尾みほ / キャラクターデザイン、メカデザイン、プロップデザイン、イメージボード、美術設定&作画監修:イリヤ・クブシノブ / 演出:長友孝和 / 美術監督:中村隆 / 色彩設計:楠本麻耶 / 特殊効果:入佐芽詠美 / 撮影監督:田中宏侍 / 編集:西山茂 / 音楽:富貴晴美 / 主題歌、イメージソング&挿入歌:milet / 出演:松岡茉優、杏、麻生久美子東山奈央市村正親藤原啓治矢島晶子緒方賢一田村睦心茶風林、前田敏子、玄田哲章飛田展男高木渉、乃村健次、小野友樹 / アニメーション制作:SIGNAL.MD / 配給:Warner Bros.

2019年日本作品 / 上映時間:1時間55分

2019年4月26日本公開

公式サイト : http://birthday-wonderland.jp/

丸の内ピカデリーにて初見(2019/5/11)



[粗筋]

 明日、12歳の誕生日を迎えるのに、上杉アカネ(松岡茉優)の気持ちは晴れない。学校での人間関係がちょっとギクシャクしていて登校する気になれず、思わずズル休みしてしまう。母のミドリ(麻生久美子)は特に追求することもなく休ませてくれたから、余計にアカネの罪悪感は募っていた。

 その日の夕方、ミドリはアカネに、叔母のチィ(杏)から前倒しで誕生日プレゼントを受け取るために、骨董屋まで足を運ぶように言う。アカネは自由気ままなチィが苦手だったが、罪悪感もあって渋々自転車を漕いで骨董屋“ちゅうとはんぱ屋”へ向かう。

 だが、チィはアカネのプレゼントを頼まれた心当たりがない、という。困惑しつつも、店内を眺めていたアカネは、奇妙な手形があるのを見つける。何気なく自分の手を重ねてみると、ぴったり吸いついてしまい、取れなくなってしまった。

 動揺しているところへ、絨毯で塞がれた地下室の入口から、突如としてノックの音が響き渡った。現れたのは、眼鏡と口髭の紳士然とした男。当然、不審者だと思って攻撃に出たチィに、男は“向こうの世界”から来た者だ、と告げる。

 異世界の大錬金術だというその男、ヒポクラテス(市村正親)が言うには、あちらの世界で異変が起きており、それを救えるのは“緑の風の女神”と呼ばれる人物らしい。それは、店に置いてあった手形がぴったりハマる人物――即ちアカネなのだ、と言う。

 すぐに来てほしい、と懇願されるが、あまりに唐突すぎる話にアカネは拒絶した。だが、気持ちが後ろ向きになると勝手に身体が前のめりになる、という“前のめりのイカリ”を首に掛けられ、意志を無視して異世界へと導かれる。好奇心旺盛なチィも、荷物を提げて追いかけた。

 ヒポクラテスとその弟子の小人ピポ(東山奈央)に導かれて飛び込んだ異世界には、アカネが見たこともない光景が拡がっていた――



[感想]

 言ってみれば、現代日本版、原恵一流の『不思議の国のアリス』である。そういう解釈のもと鑑賞すれば、意外性はない。そして、それ故に物足りなさが禁じ得ない作品、というのが率直な印象だった。

 粗筋は導入のみに留めたが、ここから展開していく異世界は、魔法や錬金術が実在しているあたりは如何にもファンタジーらしく装っているが、集落のあり方や登場する乗り物、生活用品や生活様式などのガジェットがごく常識的で、ファンタジーらしい想像力の跳躍があまり感じられない。いわゆる“剣と魔法”に依拠しない世界観だからこそ、そこに縛られない空想性を発揮するのがファンタジーの醍醐味になるはずだが、そういう意味で本篇は想像の枠内からはみ出たところが少ない。それ故に、一瞬だけ突き抜けていくようなクライマックスに爽快感が増しているのも事実だが、“ため”と言うには抑えすぎている。

 特に問題と思えるのは、肝心のヒロイン・アカネの“緑の風の女神”=救世主としての役割が明示されないことだ。手形がぴったり一致した、という理由で訳も解らないまま異世界に連れていかれるあたりの突飛さはワクワクさせるものがあるが、それ以降は、何を望むか、は提示されるけれど具体的にどうすればいいのか、はなかなか提示されず、追求もされない。その辺りの戸惑いや逡巡がないことが、変に地に足のついた感のある世界観とうまく馴染んでいない。肝心の所だけ逸らされているようなもどかしさがある。

 ただ、キャラクターはなかなかに魅力的だ。それは序盤から登場するヒロインの叔母・チィが特に象徴的だ。呼ばれもしないのに異世界への旅に同行し、しばしば道案内の錬金術師ですら呆気に取られるような行動力を示す。アカネ以上に異世界の事物に好奇心を
剥き出しにし、観客にその世界観を伝わりやすくするとともに、意表をついた振る舞いで物語を引っ張る力が素晴らしい。

 アカネを異世界に招くヒポクラテスとピポ、そして各地を荒らし回るザン・グとドロポ、これら中心になって動くキャラクターたちもまたそれぞれに個性的で気持ちよく物語を振り回す。如何せん、肝心のヒロイン・アカネの役回りが劇中で終始明瞭にならないことが観るほうにはもどかしさに繋がっているのだが、メインキャラの立ち回りが物語の面白さをかなり補っている。

 その存在意義が解りにくいくらい、異世界で能力を発揮するところのないアカネだが、しかし他のキャラクターよりもはるかに等身大で、理解しやすいキャラクターがいることが、作品に入り込みやすくしているのも確かだ。如何にも12歳らしく、基本的には幼い言動をしているけれど時として分別ぶった言動をするあたりに無理がなく、自然な可愛らしさが滲み出ている。突如としてヒーロー然とした振る舞いに出ることなく、子供らしい言動のまま、最終的に役割を果たしてしまうあたり、作品世界を親しみやすくする上でも貢献している。

 だが、この作品最大の魅力は何と言っても、イリヤ・クブシノブによるデザインの数々だろう。キャラクターもマシンも街並も、ゴテゴテと飾りすぎることなく、清潔に整理されたタッチで、柔らかな美しさに満ちている。とりわけアカネのデザインなど、12歳の少女として不自然なところがないのに、危ういような色気すら滲ませている。日本のアニメーションの影響を窺わせながらも主流とは異なるその作風は、今後存在感を増していくのではなかろうか。

 如何にも原恵一監督らしい“ワンダーランド”像は、率直に言って、ワンダーランドならではの面白さが発揮出来ておらず消化不良の感がある。しかし、イリヤ・クブシノブのデザインによるキャラクターたちが躍動する魅力的なヴィジュアルに接してみるために鑑賞する価値はあると思う。



関連作品:

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