『アントマン(字幕・3D)』

TOHOシネマズ日劇スクリーン3入口前に掲示されたポスター。 アントマン MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]

原題:“Ant-Man” / 監督:ペイトン・リード / 原案:エドガー・ライトジョー・コーニッシュ / 脚本:エドガー・ライトジョー・コーニッシュ、アダム・マッケイ、ポール・ラッド / 製作:ケヴィン・ファイギ / 製作総指揮:ルイス・デスポジート、アラン・ファイン、ヴィクトリア・アロンソ、マイケル・グリロ、スタン・リー、エドガー・ライト / 撮影監督:ラッセル・カーペンター / プロダクション・デザイナー:シェパード・フランケル / 編集:ダン・レーベンタール、コルビー・パーカー・Jr. / 衣装:サミー・シェルドン / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:ポール・ラッドマイケル・ダグラスエヴァンジェリン・リリー、コーリー・ストール、ボビー・カナヴェイルアンソニー・マッキージュディ・グリア、アビー・ライダー・フォートソン、マイケル・ペーニャ、デヴィッド・ダストマルチャン、T.I. / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Walt Disney Studios Japan

2015年アメリカ作品 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:森本務 / 字幕監修:テリー伊藤

2015年9月19日日本公開

2018年4月4日映像ソフト日本最新盤発売 [MOVIE NEX:amazon]

公式サイト : http://marvel-japan.jp/antman/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2015/10/20)



[粗筋]

 スコット・ラング(ポール・ラッド)はサンクエンティン刑務所からようやく仮釈放となった。刑務所時代に親しくなったルイス(マイケル・ペーニャ)のもとに身を寄せ、自立の道を探るが、世間は前科持ちに厳しかった。経歴を隠して得たアルバイトもすぐに素性がバレて馘になってしまう。

 収監されているあいだに妻のマギー(ジュディ・グリア)には愛想を尽かされたスコットにとって唯一の生きがいは娘のキャシー(アビー・ライダー・フォートソン)だけだが、職を失い養育費の支払いもままならない状況では、面会すら認められそうにない。

 苦境に立たれたスコットは、ルイスに勧められた“儲け話”に乗ってしまう。それはルイスが伝手から聞いた話で、もともとある大企業に勤めていたが、訳あって引退した人物の暮らす豪邸の地下室に、謎の金庫が存在するという。しかも家主は1週間、留守にする予定となっている。スコットの技術さえあれば、金庫の向こうにある“お宝”を奪えるはず、というのだ。

 ルイス含む同居人達と結託して下準備を進め、ターゲットの豪邸に侵入したスコットは、想定外に堅牢な金庫に驚きながらも、かつて技師として培った知識で見事に金庫を破壊する。

 だが、案に相違して、金庫に仕舞ってあったのは無数の薬品と、ライダースーツに似た服と揃いのヘルメットだけ。衝動的にスーツだけを持ち去ったスコットは、ルイスたちと同居するアパートの風呂場で、試しにスーツを着てみた。謎の回路を接続し、起動させた次の瞬間、スコットの身体はアリ同然のサイズにまで縮んでいた――



[感想]

 本篇は製作中、流れてくる情報からの期待度が非常に高い作品だった。というのも、当初の予定では『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライト監督がメガフォンを取る、と言われており、その手による脚本のクオリティの高さがしばしば噂になっていたからだ。

 どんな事情があったのかは解らないが、エドガー・ライトは監督を降りてしまった。しかし、クレジットにもあるとおり、原案・脚本に名前を残し、製作総指揮にもいちおう連なっているように、ある程度は合意のうえでの離脱だったと思われる――実際、本篇は監督の交代による不安を解消してくれるくらいの快作に仕上がっていた。

 まず面白いのは、本篇序盤の展開はおよそヒーローからはほど遠い、という点だ。泥棒で前科あり、妻には見放され子供の気持ちもやもすると離れそう、という主人公スコット・ラングの境遇は映画ならサスペンスか犯罪ものに見える。実際、粗筋に記したくだりまでなら、ほぼ犯罪ドラマである。

 だがここに、プロローグ部分からときどき覗かせていた、ハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)のエピソードが関わることで、次第にヒーロー映画の趣を強めていく。如何せん、アリの大きさに縮小可能なヒーローなので、最初はどうしてもやることが“犯罪者”じみてしまうが、“悪役”の存在と、冒頭から示されていたスコットの“原動力”が相乗効果を上げ、急速にヒーローらしさを強めていく。

 いくふん風変わりに見えてその実、本篇は能力の使い方、意味を理解し、そして意識をも次第に切り替えていく、という、ヒーローらしからぬ男ががヒーローとして立ち上がるプロセスを的確に踏まえている。意外だが、“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”はこういう作品が珍しいのだ。唯一の例外はアイアンマンくらいのものだが、もともと超がつくほど裕福で、捕虜となっていた状況において自らスーツを開発して脱出するほど科学知識も豊富、そして『アベンジャーズ』立ち上げのために率先して行動するようになったこの時期の彼の姿はもはや、生まれながらのヒーローに近い。スコットも、幾つかの才能が彼の転身に寄与していることは確かだが、その立ち位置、考え方はMCUのヒーローで最も一般人に近い。

 だからこそ、彼が本当にヒーローになっていく過程に興奮する。とりわけ本篇は、スコットがそうありたい、と思うようになった動機のひとつが愛娘であり、それ故に彼女の存在と反応が、スコットの変化を解りやすく、カタルシスを生むものとなっているのだ。MCUの他のヒーローよりももともと一般人に近いからこそ、こうした醍醐味が楽しめる。

 また本篇にはもうひとつ、原典であるマーヴェル・コミックの長い歴史には存在するが、ここまでのMCUには登場しなかった重要なシチュエーションがさらっと盛り込まれていることも特徴と言えよう。それが主人公スコットの境遇とも相俟って、まったく違和感なくドラマに組み込まれているのがまた巧みだ。

 そうしたドラマの強度の高さに加え、アクションのアイディアも豊富で見せ場に事欠かない。初めて縮小したときの、日常の出来事がスペクタクルになる場面から、機敏な操作を習得しようと試行錯誤するくだり、そして一連の趣向が交錯して状況が目紛しく変転するクライマックス。独自の設定、世界観を存分に活かし、ある瞬間はスリリングに演出しながらも、不意打ちにユーモアも繰り出して緩急をつける。エンタテインメントとしてそつがない。

 きっかけと想いさえあれば、誰でもヒーローになれる――マーヴェルの作品群が持つこのテーマを、本篇はMCUのどの作品よりも解りやすく実践している。なまじスコット・ラングが冒頭は明白すぎるほどのダメ男だから、決意を固めたあとの変化が明瞭だ。この“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”においては異端のように映る本作だが、もしかしたら他のどの作品よりもマーヴェルの王道と言うべきなのかも知れない。それが、監督の交代劇を挟みながらも実現したことで、製作体制の盤石ぶりを示した点でも意義のある作品と言えよう。



関連作品:

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