『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』

新宿シネマカリテの階段脇のスペースに展示されたシーツの幽霊。

原題:“A Ghost Story” / 監督、脚本&編集:デヴィッド・ロウリー / 製作:トビー・ハルブルックス、ジェームズ・M・ジョンストン、アダム・ドナギー、リズ・フランケ / 製作総指揮:デヴィッド・マドックス / 撮影監督:アンドリュー・D・パレルモ / 美術監督:デヴィッド・ピンク / プロダクション・デザイナー:ジェイド・ヒーリー、トム・ウォーカー / 衣装:アンネル・ブローダー / 音楽:ダニエル・ハート / 出演:ケイシー・アフレックルーニー・マーラ / 配給:PARCO

2017年アメリカ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:安本煕生

2018年11月17日日本公開

公式サイト : http://www.ags-movie.jp/

新宿シネマカリテにて初見(2018/12/15)



[粗筋]

 若い夫婦は、郊外にある一軒家に引っ越した。夫で作曲家のC(ケイシー・アフレック)は不思議とお気に入りのようだったが、妻のM(ルーニー・マーラ)は奇妙な居心地の悪さを感じていた。生活は穏やかだったが、ふたりは住居を巡ってときおり衝突し、溝が生じつつあった。

 しかし、そんな日々は唐突に終わりを告げる。家のすぐ前でCは事故を起こし、呆気なく命を落とした。

 Cは幽霊になり、妻の暮らす家へと帰る。声をかけることも出来ない幽霊は、Mが喪失感に打ちひしがれる様を、ただ傍観し、恐る恐る触れることしか出来ない。Mは、間近にいる夫の存在を、まったく感じ取ることはなかった。

 Mは少しずつ、夫を喪った暮らしと折り合いをつけていく。そしてある日、遂に家を出る決心をした。けれど幽霊は、出て行くことが出来なかった。新たな家族が越してきても、なお彼は、そこに留まり続けた――

[感想]

 幽霊はどのようにして現れ、どのように消えていくか、を幽霊の目線で描く、一種の思考実験みたいな作品である。

 いわゆる“幽霊屋敷もの”の定石を知っていると、感心する作りになっている。なるほど、こういう風に生まれるから、こういう現象が起きるのか、と納得できる。むろんこれが真実だ、などと制作者サイドは考えてはいないだろうが、様々なホラー映画や怪談で描かれる出来事の背景がこんな風に出来ている、という発想が面白い。

 そういう方向性で突き詰めていけば、ユーモアやパロディ性が先行する作品になっただろうが、本篇はあくまで幽霊が持つ度を超えた執着心を徹底的に掘り下げている。会話は少なく、ほとんどの出来事を人物とカメラの動きで表現しているので、映像詩の趣がある。ひとつひとつの場面を吟味し、考えながら観ることの出来ない人は、だいぶ早い段階で退屈するはずだ。

 本篇のそういう性質が最も如実に露わになるのは、夫の死後間もなくの場面だ。心配して訪ねてきた友人が置いていったチョコレートパイを無理矢理頬張る妻を、シーツを被った幽霊となった夫が見守っているのだが、この場面に驚くほど長い尺を割いている。妻が愛する夫の死に受けた衝撃と、それを目の当たりにしながら手出しすることの出来ないもどかしさを、解り易い説明台詞ではなく、構図と芝居で突きつける。ただチョコレートパイを食べているだけのシーンが不思議と忘れがたいのは、そこに籠められた哀しみ、寂寥感がいやと言うほど伝わるからだ。

 ひたすらに映像で解釈させ伝える作りだが、恐らく多くの観客は、ある場面から放り出されたような感覚を味わうのではなかろうか。本篇は話が深まるにつれ、思いがけない展開を見せていく。それらも、“幽霊”というモチーフを突き詰めていくと辿り着く世界観ではあるのだが、たぶん誰しもが共有している考え方ではない。困惑したり、否定的な評価になるのも恐らくこの終盤の展開ゆえだろう。

 しかし、繰り返すが、こういう解釈も“幽霊”というものには存在する。本篇はそれも漏らさず深化させているのだ。この時点で既に妻はとうの昔に家を離れ、いつしか家すら失っている。恐らくはその対象の詳細さえ記憶から消えてしまってもなお残る愛情や執念は、ある意味では恐ろしく、しかしひたすらに切ない。

 ホラーというより、ホラーの文法を応用した幻想譚であり、愛や執着というものを巡る、ささやかでありながら壮大な詩、と呼ぶべきか。ピンと来ないひとも多いだろうが、奇妙に魅せられてしまうひともたぶんたくさんいる、不思議な魅力をたたえた作品である。

関連作品:

ゴーン・ベイビー・ゴーン』/『容疑者、ホアキン・フェニックス』/『インターステラー』/『ソーシャル・ネットワーク』/『ドラゴン・タトゥーの女』/『キャロル

日本橋』/『異人たちとの夏』/『ゴースト/ニューヨークの幻』/『デビルズ・バックボーン』/『タロットカード殺人事件』/『ステキな金縛り』/『パラノーマン ブライス・ホローの謎』/『クリムゾン・ピーク

レディ・バード』/『ヘレディタリー/継承

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