『PERFECT BLUE』

パーフェクトブルー【通常版】 [Blu-ray]

原作:竹内義和 / 監督:今敏 / 脚本:村井さだゆき / 企画:岡本晃一、竹内義和 / 企画協力:大友克洋 / プロデューサー:中垣ひとみ、石原恵久、東郷豊、丸山正雄井上博明 / キャラクター原案:江口寿史 / キャラクターデザイン:濱洲英喜、今敏 / 作画監督:濱洲英喜 / 撮影監督:白井久男 / 美術監督:池信孝 / 編集:尾形治敏 / 音楽:幾見雅博(OFFICE 93) / 声の出演:岩男潤子松本梨香辻親八大倉正章秋元羊介塩屋翼堀秀行篠原恵美江原正士梁田清之古澤徹新山志保古川恵実子原亜弥三木眞一郎、山野井仁、田野恵、長嶝高士、陶山章央細井治遠近孝一本井えみ保志総一郎谷山紀章、ショッカーO野&ロフトプラスワンブラザーズ、北野誠南かおり / 制作:マッドハウス、ONIRO / 製作&配給:レックスエンタテインメント / 映像ソフト発売元:NBC Universal

1998年日本作品 / 上映時間:1時間21分 / R-15

1998年2月28日日本公開

2008年2月29日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.nbcuni.co.jp/rondorobe/perfect-blue/ ※DVD・ブルーレイ発売当時のティーザーサイト

秋葉原UDXシアターにて初見(2018/8/12) ※ドリパス



[粗筋]

 歌手を志して上京、アイドルグループ“CHAM”の1員として活動していた霧越未麻(岩男潤子)は、事務所の意向によりグループを離れ、女優として独り立ちすることになった。未だ歌手として花開く夢を諦めきれない未麻は“CHAM”に未練は禁じ得ないものの、意を決して新しい道に踏み出した。

 しかし、満を持して参加した連続ドラマ『ダブルバインド』初回、未麻の出番は僅か3カット。長年、未麻たち“CHAM”をサポートしてきたマネージャーのルミ(松本梨香)もこの扱いに異議を唱えるが、事務所社長の田所(辻新八)はアイドルで収益を上げる難しさを理由に、女優路線を貫くよう指示する。

 ドラマのなかでの出番は少しずつ増えるが、一方で未麻が抜けた“CHAM”は、2名となって初めてリリースしたシングルが予想外のヒットを遂げ、にわかに活動が軌道に乗り始めた。勢いづくかつての仲間たちの姿に、未麻は自分の選んだ道に迷いを抱くようになる。

 同じ頃、未麻の周囲には不穏な影がちらつきつつあった。卒業を宣言した直後に、脅迫的な文句を記した手紙や、“裏切り者”と書き連ねたファックスが届き、そしてドラマ撮影の最中に、未麻に届いたファンレターを開封した田所が爆発物で負傷する。大事に至らなかったから、という理由で社長は通報しなかったが、未麻は先行きにいっそう不安を感じるようになる。

 更にドラマ『ダブルバインド』では、未麻演じる女性がレイプされ性格が一変する、という場面の撮影が行われた。このセンセーショナルなシーンが話題となり番組の視聴率は上昇、未麻への注目も高まったが、そのせいで更に過酷な仕事が未麻に回ってくるのだった――



[感想]

 本篇が公開されてから20年以上過ぎているが、ここまでヘヴィな題材、描写を貫いたアニメーション作品は未だに例が思いつかない。

 描かれているのは、アイドルを巡る生々しい現実だ。いまよりも盛りの短かったアイドルは、売ることの出来る時間にも限りがある。歌では事務所の収益が上がりづらいが、女優なら違う、といった具合に、具体的な事柄も挙げられる。そのために、本来は歌手志望であったヒロイン・未麻は方向転換を余儀なくされ、そのことがやがて心理的動揺を生み出していく。

 また、これらはヒロイン自身が直接触れることはないが、アイドルファンの言動もかなりシビアだ。冒頭から、イベントに出没しては嫌がらせを働く悪質な客が描かれ、そうした連中に嫌悪の眼差しを送る別のファン達も、裏ではグループを離れた未麻に辛辣な意見を口にする。いずれも、現実のアイドルたちが活動していくうえで、避けがたく生じる歪みのようなものだが、ファンの熱意や誠実さが大前提となっている多くのアイドルを題材としたアニメーションと比較すると、ハッとするようなインパクトがある。

 他方で、過剰に入れ込みすぎた者が、未麻の周囲に事件を引き起こしていく。このあたりはサスペンス、サイコ・ホラーの定石通りではあるが、ジリジリと狂気が迫りくる緊張感を見事に演出している。

 だが注目すべきは、未麻に迫る脅威を緊迫した筆致で描きながら、それ以上の質量で、自らの境遇の変化に追いつめられ、心を病んでいく未麻を描く容赦のない手捌きだ。ドラマではレイプされるシーンを撮影し、アイドル時代には考えられなかった写真を撮られ、自らが夢みていたものからかけ離れた芸能生活に不安を募らせていく。そんな彼女を、“アイドル・未麻”の幻影が嘲笑い、追い打ちをかける。ストーカー側の狂気の描写も見事だが、この未麻の焦燥を誘う描写もまた、本篇のサスペンスを巧みに増幅している。

 それらが入り乱れた果てのクライマックスなど、どこまでが現実なのか解らないほどだ。展開がいささか不自然に感じられる可能性もあるが、しかしそれまでの未麻の描写を踏まえれば決しておかしくはないし、こういう描き方のほうが作品の本質は相応しい。

 個人的に、ラストのひと言は外すか、もう少し演技の質を変えて欲しかったように思うが、決して大きな問題ではない。およそアニメでは特異な題材を大胆に採り上げ、それをアニメという表現手法に相応しい表現で描きだした意欲的な傑作である。まだ当分は特異な作品として記録されるだろうし、彼に追随する作品が現れたとしても、この質の高さと価値はそうそう減ずるものではない。



関連作品:

千年女優』/『パプリカ』/『スチームボーイ

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』/『サンクタム』/『WALL・E/ウォーリー』/『TAMALA 2010
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