『未来のミライ』

TOHOシネマズ上野、スクリーン入口脇に掲示されたタペストリー。

原作、監督&脚本:細田守 / 作画監督:青木浩行、秦綾子 / 美術監督:大森崇、郄松洋平 / 画面設計:山下高明 / 色彩設計:三笠修 / CGディレクター:堀部亮 / プロダクションデザイン:上條安里、谷尻誠、tupera tupera、亀田芳高、小野令夫 / 編集:西山茂 / 衣装:伊賀大介 / 音楽:高木正勝 / オープニング&エンディングテーマ:山下達郎 / 声の出演:上白石萌歌黒木華星野源麻生久美子、吉原光夫、宮崎美子役所広司福山雅治、神田松之丞、本渡楓畠中祐真田アサミ、雑賀サクラ / 企画&制作:スタジオ地図 / 配給:東宝

2018年日本作品 / 上映時間:1時間38分

2018年7月20日日本公開

公式サイト : http://mirai-no-mirai.jp/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/07/20)



[粗筋]

 くんちゃん(上白石萌歌)の家に、新しい家族がやって来た。

 でも、くんちゃんは面白くない。おかあさん(麻生久美子)はすっかり、未来と名付けられた赤ちゃんにかまってばかりだし、おとうさんは慣れない家事にてんやわんやで、くんちゃんに気遣う余裕もない。

 おかあさんたちの関心を奪った未来がきらいで、オモチャでぶったのを叱られたくんちゃんは、ふてくされて中庭に飛び出した。そのとき突如、中庭は見知らぬ空間に変わってしまった。

 そこへ忽然と現れたのは、王子(吉原光夫)と名乗る不思議な男。くんちゃんは嫉妬しているのだ、と諭し、かつてはおとうさんとおかあさんの愛をくんちゃんが自分から奪ったように、やがてくんちゃんも未来に愛情を取られるんだ、と言い放つ。どうやらこの王子、くんちゃんの家で飼っている犬のユッコらしい。

 不思議なことはふたたび起きた。ひな祭りを過ぎたある日のこと、復職したおかあさんが取材で出かけると、家事を済ませたおとうさんはすっかり仕事に夢中になってくんちゃんのことも、おかあさんにひな人形の片付けを頼まれたことも忘れてしまっている。

 腹いせに、未来の顔のまわりにおかしをちりばめて遊んだあと、中庭に出たくんちゃんは、またしても気づけば不思議な空間にいた。目の前には、おかしを顔に乗せてむくれている少女。

「おにいちぉん、私の顔にイタズラしないで」

 その子は、成長した未来(黒木華)だった――



[感想]

 評価を高め、自身の作風が固まるにつれ、細田守監督の作品は積極的に“家族”を描くようになっていった。本篇も同様だが、しかし少しだけ趣が違う。

 これまでは何処か風変わりな構成の“家族”に焦点を当てていたが、本篇は現代的な、それほど突飛なところのない核家族を採り上げている。そして、観終わってみれば、そこで起きていることは決して特別なことではない、と気づくはずである。

 特徴付けているのは、くんちゃんが中庭で遭遇する奇妙な世界だが、それらはいずれも現実世界とリンクしている。あり得ない出来事のように見えて、決して現実を冒していないし、周囲の大人達から見える世界と矛盾もしない。現実の出来事と連携して繰り広げられる。

 しかし、その結果としてくんちゃんがすぐさま成長していくわけではない。現実の意味合いを少しだけ学ぶだけに過ぎない。突如人間の姿になったユッコに諭されて自分の感情を知り、成長した未成と遭遇することで、イタズラされる赤ちゃんの気持ちを知る。

 ひとつひとつのことで大きく変化したりはしないが、くんちゃんは次第に自分の周りの出来事を理解し、乗り越える術を学んだり考えたりして、段階的に受け入れていく。

 周りに子供がいたり、実際に子供を持ったひとなら恐らく心当たりがあるはずだろう。実際の子供を観察すると、こんな風に唐突に成長する場面がときおり訪れる。こんなことを教えただろうか、というやり方をしたり、急に訳知り顔になったりするものだ。本篇は、そういう子供の変化や成長の謎を、子供の奔放な空想の世界で解き明かしているのである。だから、突拍子もなく空想的なようでいて、大人の目線で見ても不思議と頷かされる。

 不思議な世界のイメージは多彩に展開し、その都度異なるワクワク感で彩られている。飼い犬と会話出来るかと思えば、その犬と未来の妹と一緒に現実世界で冒険をする羽目になったり、かと思えば、くんちゃんと縁のある人たちの昔と遭遇するくだりもある。子供目線で素直にワクワクもすれば、大人の目線で感心させられる場面もある。

 アニメーションを用いていればこその奔放なイマジネーションと、地に足の着いた構成で描き出すのは、子供が自らのアイデンティティを悟り、“家族”を受け入れるまでのプロセスだ。そういう、誰にも起きる瞬間を、本篇は実に細田監督らしい趣向で表現した作品と言える。

 子供心を完全に何処かに置き忘れてしまっていたり、子供と接する大人がしばしば経験する驚きを知らなかったりすると、ピンと来ないかも知れないけれど、そうでなければきっと、現実がファンタジーになる心地好い昂揚感に浸ることが出来るはず。着実に功績を重ね、日本を代表するアニメーション作家のひとりとなった細田監督だからこそ出来る、作家性の昇華された快作だと思う。



関連作品:

時をかける少女』/『サマーウォーズ』/『おおかみこどもの雨と雪

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