『シェイプ・オブ・ウォーター』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口に掲示されたチラシ。

原題:“The Shape of Water” / 監督&原案:ギレルモ・デル・トロ / 脚本:ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー / 製作:ギレルモ・デル・トロ、J・マイルズ・デイル / 撮影監督:ダン・ローストセン / プロダクション・デザイナー:ポール・オースタベリー / 編集:シドニー・ウォリンスキー / 衣装:ルイス・セケイラ / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:サリー・ホーキンスマイケル・シャノンリチャード・ジェンキンスオクタヴィア・スペンサーマイケル・スタールバーグダグ・ジョーンズデヴィッド・ヒューレット、ニック・シアーシー、ステュワート・アーノット、ナイジェル・ベネットローレン・リー・スミス / ダブル・デア・ユー製作 / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

2018年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里 / R15+

第90回アカデミー賞作品、監督、美術、音楽部門受賞(オリジナル脚本、主演女優、助演男優、助演女優、撮影、編集、衣裳、音響編集、音響効果部門候補)作品

2018年3月1日日本公開

2018年6月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD&Blu-rayamazon|4K ULTRA HD + Blu-rayamazon]

公式サイト : http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/03/01)



[粗筋]

 1962年のアメリカ。ソ連との冷戦のなか、競うように宇宙開発を進めるアメリカは、極秘研究を行うための“航空宇宙研究センター”を運営している。しかしそこでは日夜、得体の知れない実験が繰り返されていた。

 幼少期のトラウマから声が出せないイライザ(サリー・ホーキンス)は、映画館の2階で暮らしながら、この“航空宇宙研究センター”で清掃員として働いている。勤務先でどんな研究が行われているか、彼女にはあまり関心はなかった――そのときまでは。

 軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)が伴って搬送されてきたのは、巨大な水槽。すぐに厳重に封鎖された研究室に運び込まれたため、ただの清掃員に過ぎないイライザがその中身を覗き見る機会はないはずだったが、間もなく彼女は同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に呼び出され、血に汚れた研究室の清掃を命じられた。その際、水槽を覗きこんだイライザは、そのなかに不思議な姿をした生き物(ダグ・ジョーンズ)を見る。

 その奇妙だが神々しくさえある姿に心を奪われたイライザは、監視の目を盗んでふたたび研究室に潜入した。“彼”はイライザを警戒している様子だったが、イライザが好きな玉子を水槽の縁に置くと、恐る恐る食べた。

 以来、イライザはたびたび“彼”のもとを訪れた。レコードプレーヤーを持ち込んで好きな音楽を聴かせたり、手話で語りかけたり、明確な意思の疎通は難しかったが、次第に心を通わせていくのだった。

 だが、心安らぐ時間は長くは続かなかった。ある日、研究室に忍びこむと、鎖に繋がれた“彼”が血を流して倒れていた――



[感想]

 ギレルモ・デル・トロ監督はほぼ一貫して、虐げられるものを慈しむような映画ばかり撮り続けている。戦争により身寄りを失った子供たち、その外見や個性ゆえに社会からよく思われていない人々を主役にし、彼らの過酷な現実を描く一方で、時には彼らを活躍させ、時にはせめてもの救いを与える結末を用意する。

 本篇はその趣向が特に顕著だ。研究所に調査対象として担ぎ込まれる異形の“彼”という際立った存在だけでなく、声を発することが出来ないという障害を持ったヒロイン・イライザだけでなく、その隣人ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)も同僚ゼルダも、マイノリティであり、偏見ゆえに不遇を託っている。

 奇妙な研究所と謎の“生命体”という、好奇心を誘う題材を中心に物語を進めつつも、本篇ではそうした、イライザたちの置かれた現実を細かに織り込んでいく。映画館の上に暮らす、という設定は映画的なロマンに過ぎないが、普通の感覚からすれば決して暮らしやすい環境とは言えない。それでもこういう場所で暮らすほかない彼らの実情を、本篇では随所で描きだす。

 そのことは、異形の“彼”を巡るイライザたちの言動に説得力をもたらす役割を果たしている。恐らく、ひとによってはイライザや“彼”に対する周囲の人々の感情や配慮がいまひとつ納得しがたいかも知れない。しかし、それぞれに種類は違えど、マイノリティである彼らには、特異であるがゆえに受け入れられず迫害される者への共感がある。急速に“彼”に心を寄せていくイライザに、本心はさておき、理解を示し、かなり危険な行動に助力するのも自然と感じられる心理的伏線をしっかりと張り巡らせている。

 他方で本篇は“彼”が、人類の文化に接することのなかった存在であることも、決して覆い隠さずに描いている。粗筋のあと、“彼”はイライザの部屋に匿われるが、そこでの行動が特に象徴的だろう。ひとによっては“彼”に嫌悪感を抱いても不思議のない描写だが、しかし“彼”という存在のバックボーンを明確にする、という意味では非常に重要なくだりなのだ。

 そして、そういう相容れない部分も描いているからこそ、手探りで交流を重ね、感情を募らせていくさまが、ロマンティックに映る。グロテスクにも思えるが、その印象があればこそ、繊細なやり取りが味わい深く、情感に富んだものになっている。

 また、こうして常識や価値観を超越したところで繰り広げられる物語だからこそ、終盤の驚くべき展開が裏打ちされる。種を超えたロマンスにおいて、これほどある意味理想的で、尊くさえある結末はあまりない――その趣向についてだけ語れば前例はあるが、その違和感や衝撃、それでいて確かな情愛に富んだ表現は類が浮かばない。

 本篇の結末を、あまりに呆気ない、と感じる向きもあるかも知れない。いささかムシが良すぎるように思う人もあるだろう。しかし、これがおとぎ話でしかないことは、恐らく監督自身がよく知っている。途中で織り込まれるイライザの、現実の枠を飛び越えたイメージと、そして本篇の語りがイライザではなく、良き隣人であるジャイルズの声であることが最もよく象徴している。本篇は困難な現実を織り込みつつも、“そうあって欲しい”と願う、美しく優しいも物語であることを志し、見事に結実させているのだ。

 個人的に『パンズ・ラビリンス』は全篇のグロテスクな美しさと物悲しいラストに愛着があるが、本篇がそれを踏まえ、更に“虐げられるもの”を慈しみ、優しく癒す物語として昇華させることを願い、見事に成し遂げた作品であることは疑わない。ギレルモ・デル・トロ監督がこれまでテーマに選び、描き続けてきたものをより研ぎ澄ませた、最高傑作の名に相応しい作品である――そしてそれがアカデミー賞作品賞という映画界最高の栄誉に輝いたことで、この幸福なファンタジーが余計に完璧なものになってしまったように思う。



関連作品:

デビルズ・バックボーン』/『パンズ・ラビリンス』/『クリムゾン・ピーク

ヘルボーイ』/『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』/『パシフィック・リム

17歳の肖像』/『GODZILLA ゴジラ(2014)』/『マン・オブ・スティール』『ラビング 愛という名前のふたり』/『扉をたたく人』/『ジャッキー・コーガン』/『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』/『ヒッチコック』/『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』/『ハウンター』/『カンパニー・マン』/『ブライアン・シンガーのトリック・オア・トリート

半魚人の逆襲』/『バベル』/『モールス』/『聲の形』/『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち