『15時17分、パリ行き』

TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口に掲示されたチラシ。

原題:“The 15:17 to Paris” / 原作:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェフリー・E・スターン / 監督:クリント・イーストウッド / 脚本:ドロシー・ブリスカル / 製作:クリント・イーストウッドジェシカ・メイヤー、ティム・ムーア、クリスティーナ・リヴェラ / 製作総指揮:ブルース・バーマン / 撮影監督:トム・スターン / プロダクション・デザイナー:ケヴィン・イシオカ / 編集:ブルー・マーレイ / 衣装:デボラ・ホッパー / キャスティング:シェイ・グリフィン、ジェフリー・ミクラ、ブルース・H・ニューバーグ / 音楽:クリスティアン・ジェイコブ / 出演:スペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラー、ジュディ・グリア、ジェナ・フィッシャー、トーマス・レノン、P・J・パーン、トニー・ヘイル、マーク・ムーガリアン、クリストファー・ノーラン、レイ・コラサニ、ウィリアム・ジェニングス、ブライス・ガイザー、ポール=マイケル・ウィリアムズ、イザベル・リサガー・ムーガリアン / マルパソ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:松浦美奈

2018年3月1日日本公開

2018年7月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD&ブルーレイセット:amazon]

公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/1517toparis/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/03/01)



[粗筋]

 2015年の夏、アムステルダムからパリに向かう列車に、スペンサー・ストーン(本人)、アレク・スカラトス(本人)、アンソニー・サドラー(本人)という3人のアメリカの青年がいた。

 キリスト教系の私立学校で知り合った3人は、だが幼稚園から一貫教育を施す校風に馴染めず、みな注意欠陥多動性障害の持ち主として治療を勧められるような問題児だった。サバイバルゲームなどで3人は友情を育んだが、最初にアンソニーが公立校に移り、やがてアレクも家庭の事情から転校し、離ればなれとなる。

 だが、その後も友情は続いた。生活圏が近かったスペンサーとアンソニーはしばしば一緒に遊び、アレクとも頻繁に連絡を取りあった。やがて成長したスペンサーはファストフードの店に勤めはじめるが、サバイバルゲームを通して芽生えていたハイパーレスキューへの憧れが抑えられず、従軍を決意する。

 柔術を学んではいたが、幼少の頃から肥満気味だったスペンサーには無理だ、とアンソニーにはからかわれたが、そのためにスペンサーは奮起、身体を鍛え上げ、見事に入隊テストに合格する――しかし、適性の問題で、志願していたハイパーレスキューへの配属は適わなかった。

 スペンサー同様に軍に入ったアレクも、中東に派遣されたものの、戦闘も重要な任務もなく、退屈な日々を過ごしている。恋人の郷里であるドイツを訪ねる休暇を、首を長くして待ち焦がれていた。

 スペンサーと、民間に勤めているアンソニーは休暇を合わせ、恋人との逢瀬を済ませたアレクと合流してのヨーロッパ旅行を計画する。ドイツからイタリア、そしてフランスへ――当初、彼らの旅のルートにアムステルダムは含まれていなかった。だが、彼らはアムステルダムに赴き、そこから最終目的地であるパリを目指した――そこで何が起こるのか、想像することもなく。



[感想]

 本篇の制作された2017年、監督のクリント・イーストウッドは87歳である。キャリア的にも実績の上でも、もはや泰斗と呼んでも差し支えのない存在となったにも拘わらず、未だ創作意欲に衰えはないらしい。

 驚くべきは、若者たちの描写の自然さと瑞々しさである。そこには、本篇が実話をベースにしており、しかも当事者達を俳優として起用したことも大きく寄与しているが、監督がオーソドックスな犯罪ドラマの定石に頼らず、事件に至るまでの旅路をあまり飾ることなく、素直に描き出していることも大きい。

 この作品は、テロを起こした側の心情や決行に至る背景よりも、何故、青年たちが率先して行動したのか、その感情的プロセスに焦点を置いている。うち2名は特殊訓練を受けているとは言い条、最前線に就いていたわけでも、実戦経験があるわけでもない。にも拘らず、ああした果敢な行為に及んだ背景を、本篇は重視して描いている。

 事件に至るまでの人生、旅の途中の振る舞いに、決して英雄めいた印象はない。むしろ、優秀な軍人を志しながらも挫折し、本人の理想通りの仕事にも就けていない。どちらかと言えば、なりたい自分になることの出来なかった、平凡な若者であることが描かれる。

 そんななかで、久々に集まった友人たちと、ヨーロッパを巡る長旅を、特に目的意識もなくのんびりと楽しんでいる。途中で夢や理想を語ったりするが、それも気負いはなく、凡庸な印象を与える。

 しかし、そこに確かに、事件に遭遇した際の果敢な行動に至る布石が見られる。彼らがどういう人物であったのか、それまでの人生や直前の旅路から適切にエピソードを抽出し、自らに再現させることで、観客に自然に理解させる。

 本篇の“メインキャスト”たちは演技の素人とは思えないほど表情や台詞回しが自然だ。自分の言ったことを反復しているだけだから簡単だろう――というのはだいぶ素人考えで、自分の言ったことであっても、繰り返してしまうと芝居臭さやわざとらしさが滲む。実際、本篇でもそういう場面はちらほらあるのだが、全体としては気負いを感じさせず、無理がない。この若者たちの資質がたまたま合っていた、という可能性もあるが、やはり、そういう演技を巧みに引きだしたスタッフの功績だろう。

 ほとんど“ありのまま”を映しだしているからこそ、本篇の描写は瑞々しい。若者たちの風俗もさほどてらいなく盛り込んでいるので、そうすることの難しさを意識させず、若々しささえ感じるヴィジュアルとなっている。

 他方で、短めの尺にも拘わらず丁寧に間を押さえた編集には貫禄が漂っている。映像の瑞々しさとはいっそアンバランスなはずなのだが、それがまたこの作品に独特の味わいを生み出しているように思う。まるで、何処か危うくも頼もしい若者たちを優しく見守っているような、そんな眼差しを注いでいるようにも感じられる。

 本篇において、当事者を俳優として起用した妙は、ラストでこそ明白となる。それほど仕掛けとして重要でもないように思うので、書いてしまっても構わないように思うが、それでも詳細は知らずに接していただきたい。その瞬間、本篇はまるで、その出来事に出来するまで、本当に間近に追っていたかのような感覚をもたらすはずである。

 意思があれば、ひとは誰でもヒーローになれる。そういう、あまりにも青臭いけれど、そのことを如実に証明している現実を、本篇はこの上なくストレートに描き出した。齢87にして、こういうテーマを臆面もなく、しかし高い純度でまとめてくるあたり、改めてこのクリント・イーストウッドという監督はとんでもない。



関連作品:

アメリカン・スナイパー』/『ハドソン川の奇跡

猿の惑星:新世紀(ライジング)』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『ワンダー 君は太陽

ブラック・サンデー』/『ユナイテッド93』/『キングダム―見えざる敵―』/『ゼロ・ダーク・サーティ