『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』

TOHOシネマズシャンテの入っているビル外壁に掲げられた看板。

原題:“Winchester” / 監督:マイケル&ピーター・スピエリッグ / 脚本:トム・ヴォーンマイケル・スピエリッグピーター・スピエリッグ / 製作:ティム・マクガハン、ブレット・トンバーリン / 製作総指揮:トビン・アームブラスト、マイケル・バートン、ベネディクト・カーヴァー、ダニエル・ダイアモンド、ブライアン・J・ギルバート、アントニア・ライアノス、ブライス・メンジース、サイモン・オークス、マーク・シッパー、アンドリュー・トラパニ / 撮影監督:ベン・ノット / プロダクション・デザイナー:マシュー・プットランド / 編集:マット・ヴィラ / 衣装:ウェンディ・コーク / キャスティング:リー・ピックフォード / 音楽:ピーター・スピエリッグ / 出演:ヘレン・ミレンサラ・スヌーク、フィン・シクルーナ=オプレイ、ジェイソン・クラーク、エム・ワイズマン、アラーナ・フェイガン、レベッカ・メーカー、タイラー・コッピン、マイケル・カーマン、アンガス・サンプソン / ブラックラボ・エンタテインメント/イマジネーション・デザイン・ワークス製作 / 配給:REGENTS×Pony Canyon

2018年オーストラリア、アメリカ合作 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:栗原とみ子

2018年6月29日日本公開

公式サイト : http://winchesterhouse.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2018/07/03)



[粗筋]

 南北戦争を契機に爆発的に普及したウィンチェスター・ライフルは、それを開発したウィンチェスター社に莫大な利益をもたらす。しかし、その銃弾が作り出した数多の悲劇が、さながら呪いとなったかのようにウィンチェスター社の創業者一族は次々と亡くなり、現在ウィンチェスター社の株式の過半数は創業者の妻であるサラ・ウィンチェスター(ヘレン・ミレン)が継いでいる。

 しかし、サラは連日絶え間なく懐に入る利益を用い、サンノゼにある邸宅の増築に費やしていた。夫のみならず生後僅かの息子までも失ったことを嘆いたサラが霊能者に相談したところ、ウィンチェスターの銃によって命を奪われた者たちの怨念が邸宅に集まってきている、というのである。邸宅に溢れた死霊たちを迷わせ、閉じ込めるために、サラはそれまでの家を売却してサンノゼに転居、助言通りに24時間不休で増改築を繰り返していたのだ。

 この奇怪な屋敷に引きこもりがちになっていたサラの経営能力に不安を抱いたウィンチェスター社の重役たちは、精神科医に鑑定を依頼することを決めた。サラが部外者の立ち入りを認めないため人選は困難だったが、ただひとり、サラのお眼鏡に適い、サンノゼの屋敷での滞在が許された。

 エリック・プライス医師(ジェイソン・クラーク)は当初、診療所を空ける長期間の鑑定に難色を示したが、自身の問題で借金が重なっており、提示された高額の報酬はあまりに魅力的だった。

 当初、エリックもサラが精神的に問題を来している、と考えていた。しかし、サンノゼの屋敷ではじめて明かしたその夜から、エリックを奇妙な出来事が襲いはじめるのだった……。



[感想]

 多少なりともオカルトを囓ったひとなら、ウィンチェスター邸の話は耳にしたことがあるはずだ。上の粗筋で記した建築までの経緯は実話であり、いまもサンノゼに存在している。さすがに増築は行われていないが、一般公開もされており、怪奇現象を目撃する見学者もあるという、未だいわくつきのミステリースポットである。

 他方で、この増築を主導したサラ・ウィンチェスターが手記やインタビューなど、その意思や自らの体験を明確にする資料を残していないので、いったいどんな心境で増築を続けていたのか、本当のところは解らない。それが不気味なところであると同時に、事実に添った物語は作りづらく、しかし作り手の想像力を活かしやすい一面でもある。

 本篇は背景こそほぼ事実に添い、一部は本物のウィンチェスター邸の映像を使いつつも、ほとんどフィクションとして構築している。ただし、中心人物が実在していたからこそだろう、その係累に配慮した描写を施していることも窺える。創作に携わる者として繊細かつ賢明な対処ではあるのだが、しかしそれ故に、設定や展開がいささか遠慮がちになってしまった感は否めない。

 作り手がもう少し意地悪に、実在の人々に無頓着になっていれば、更に大胆で意外性に富んだ物語になっていたのではなかろうか。なまじ実在の、経緯が本当に怖気を誘い、真偽はさておき怪奇現象の報告もあるような舞台を使っているだけに、観る方としてはもっと迫ってくるような恐怖や衝撃を期待したくなるものだが、充分応えているとは言いがたい。

 しかし、そうして思慮深く製作していたからこそだろう、本篇のホラー映画としてのクオリティは高い。

 建築中の時代背景をきちんとリサーチしたうえで、セットも活用して緻密な再現したヴィジュアルは、画面に風格をもたらしている。

 風格、と言えば、ほぼタイトルロールと呼んでも差し支えなさそうなサラ・ウィンチェスターを、ヘレン・ミレンが演じていることもこの風格に寄与している。前述したようにサラ・ウィンチェスターは自ら記録を残していないので、その人物像は明確ではないのだが、エリザベス女王役でオスカーにも輝いたヘレン・ミレンはその貫禄もそのままに、怪しさと凛々しさを加味して、見事に作品世界を牽引するキャラクターを体現している。本篇のホラーとしての香気は、間違いなく彼女の存在が大きく貢献している。

 また、いわゆるジャンル映画、それもゾンビや吸血鬼、そしてスリラーと、ずっと恐怖寄りの作品を撮り続けてきた監督だけあって、恐怖感の演出は巧みだ。実のところ劇中、それほど多くの奇妙な現象は発生していなかったりするのだが、音楽や音響、間の取り方やカット割りに工夫を凝らし、随所で緊張感、恐怖感を膨らませる。肩透かしや、不意をついて出現する類の趣向も随所で用いているが、本当に恐るべきものの出現とうまく織り交ぜているので、恐怖映画としての効果は上げている。過程や終盤の展開にもっと派手なひねりがあっても良かったように思うが、そのためには劇中に登場する実在の人物たちに不本意な汚名を被せねばならなくなるので、本篇はこれでもかなりギリギリの線だろう。結末に触れるので詳しくは記さないが、物語を締めくくるために用いたアイディアは、実在する屋敷を舞台にした作品としてはうまい発想だと思う――それでも、監督らの旧作に接してきた身としては、もっと出来たのではないか、ともったいなく感じてしまうのだが。

 本篇を手懸けたスピエリッグ兄弟はこれまで、ジャンルを研究したうえでひねりを加えた、創造性に富んだ作品ばかり発表してきた。それだけに、本篇でもシャープな衝撃を期待していたのだが、そういう意味では物足りない。とはいえ、ジャンルやモチーフへの誠実さははっきりと窺える、端整なホラー映画である。ジェームズ・ワン監督の『インシディアス』あたりからの潮流に従い、全年齢対象というレーティングに抑えながらこのクオリティを成し遂げていることも評価したい。



関連作品:

アンデッド』/『デイブレイカー』/『プリデスティネーション』/『ジグソウ:ソウ・レガシー

クイーン』/『ヒッチコック』/『RED/レッド リターンズ』/『猿の惑星:新世紀(ライジング)

悪魔の棲む家(2005)』/『死霊館』/『NY心霊捜査官』/『インシディアス