『万引き家族』

TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口に掲示されたチラシ。

英題:“Shoplifters” / 原案、監督、脚本&編集:是枝裕和 / 製作:石原隆、依田巽、中江康人 / 撮影:近藤龍人 / 美術:三ツ松けいこ / 装飾:松葉明子 / 衣装:黒澤和子 / キャスティング:田端利江 / 音響効果:岡瀬晶彦 / 音楽:細野晴臣 / 出演:リリー・フランキー安藤サクラ松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ、樹木希林柄本明池松壮亮緒形直人森口瑤子山田裕貴片山萌美高良健吾池脇千鶴 / 配給:GAGA

2018年日本作品 / 上映時間:2時間 / PG12

2018年6月8日日本公開

公式サイト : http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/06/02) ※先行上映



[粗筋]

 治(リリー・フランキー)と祥太(城桧吏)はスーパーでひと仕事済ませた帰り、ふたりはアパートの廊下で遊ぶ女の子(佐々木みゆ)を見つけた。いつも部屋の外で遊んでいる彼女が、治は気になっていたのだ。買ってきたコロッケで誘うと、女の子は素直についてきた。

“ゆり”と名乗った女の子は、コロッケをたくさん食べたあとで寝入ってしまった。治と信代(安藤サクラ)は“ゆり”を抱えてアパートに送り届けようとしたが、部屋の中から聞こえてくる諍いの声に、その足を止める。

 帰りたがる素振りも見せない“ゆり”を、治たちはそのまま家に留めた。初枝(樹木希林)も亜紀(松岡茉優)も“ゆり”を自然と受け入れ、治は時として“仕事”の簡単な手伝いをさせて、“ゆり”が心置きなく“家族”に溶けこめるよう気遣う。

 だが、ある日、テレビに“ゆり”の姿が映しだされる。本当の名を“じゅり”という女の子の失踪が、ニュース番組で採り上げられていたのだ……



[感想]

 私がこれまでに鑑賞した是枝裕和監督作品は3作品。『誰も知らない Nobody Knows』と『そして父になる』、『三度目の殺人』だけである。だから、断言するのには少々躊躇いがあるのだが、少なくともこれらと、私の把握している情報をもとにする限り、本篇は是枝監督の現時点における“集大成”と呼んでいいのではないかと思う。

 ポイントは幾つも挙げられるが、やはり顕著なのは、“家族”があり、子供の存在があり、そこに犯罪が関わってくる点だろう。

 是枝監督が子役を活かす技に長けているのは、演技未経験だった柳楽優弥カンヌ映画祭の主演男優賞をもたらした『誰も知らない』で証明済だが、そこには恐らく是枝監督独特の、通常の現場と異なる演技の引き出し方が奏功しているのだろう。用意されたシチュエーションのなかでより自然な表情、演技を引き出すことにに注力したスタイルは、経験値の多い大人のキャストを悩ませる場合がある一方で、経験値の乏しい子役にこそ有効にはかなり有効に働くのではなかろうか。それは本篇における城桧吏や佐々木みゆの、大袈裟なところがない所作からも窺える。

 そしてもうひとつ特徴的なのは、やや常識を逸脱しながらも、その言葉に相応しい、と思える“家族”像を築いている点である。『誰も知らない』は、大人の存在が欠如した状態になり、生活を維持していく上では既に危機に瀕しながらも、家族としての関係性は濃密だった。『そして父になる』においては、異なるふたつの家族像を対比させる趣向を採り、観る者に“父親になるということ”を問いかけながら、家族のあり方についても一考を促している。

 この点において、本篇のメッセージ性は前述2作よりも深い。なにせ、メインとなる家族の姿は、ある意味で理想的にも映るのだ。確かにその暮らしぶりは貧しいが、全員の協力関係が確立している。治が急にいとけない少女を連れこんでも受け入れ、それぞれの考え方で少女と触れ合う。はじめからポジションが決まっていて、揺るがないのだ。だから、揃って遠出もするし、非常事態にはみな律儀に行動する。物語が終わってみれば、それがもともと非常に危ういバランスで成り立っていた、と悟るものの、そこに至るまではむしろ、日本人が理想とする家族像のひとつだ、とさえ言えそうだ。

 ここで重要な鍵を握るのが“犯罪”だ――終盤において訪れる衝撃とも深く関わるところなので詳述は控えねばならないが、観終わって振り返ったとき、“万引き”を題材に採り上げた巧妙さに唸るはずだ。この家族を支える要素として、これほどしっくり来る“犯罪”はほかにはなかった。

 それを鎹として利用しながらも、本篇は決して“犯罪”を美化していない。習慣的に盗みを働くが、それだけを教えられていた祥太はやがて疑問を抱くようになるし、報いはちゃんと訪れる。しかし、そうでもしなければ成り立たなかった家族の姿は哀しい。その過程が優しく暖かく、雑然としながら美しく描かれているからこそ、終盤の寂寥は深い。

 実は本篇において描かれる過程は、リリー・フランキー安藤サクラが演じる一家だけではない。あまり掘り下げて描いている印象のない別の家族は、だが随所に描かれる片鱗は慄然とさせるものだ。近年、折に触れ報道を賑わせる社会問題を彷彿とさせるこれらの描写があることで、観る者のなかにはこう思ってしまうひともいるはずだ――主人公たちの家庭のほうが、ずっと理想的だ、と。

 本篇の結末は、あまりに物悲しい。個人的には、せめてあの子だけは救って欲しかった、と思わずにはいられなかった。しかし、そんな風に感じること自体が、たぶん監督の術中に嵌まっている。

 治たちの家族をどのように捉えようと、本篇を観たひとは否応なく、“家族”について想いを馳せずにいられない。自分なりの家族の捉え方、我が身に置き換えたときの考え方などについて、思索を巡らせずにはいられない。これほど重く深く食い込んでくる“問いかけ”は、そうそうない。

 これまでの作品で採り上げてきた題材、メッセージを深化させ、最も大きなテーマについて観客の思考を促す。言うのは簡単だが、これを完璧にやってのけることは難しい。そのうえで更に、軒先から花火を覗き見るくだりや、治と祥太が雪の降る中で遊ぶシーンなど、美しくも心に沁み込む、忘れがたいシーンがちりばめられている。映画としての香気までが濃密に沸き返っている。間違いなく是枝監督の集大成であり、リアルタイムで鑑賞出来たことを喜びたくなるほどの傑作である。



関連作品:

誰も知らない Nobody Knows』/『そして父になる

盲獣VS一寸法師』/『ぐるりのこと。』/『クヒオ大佐』/『春を背負って』/『聲の形』/『借りぐらしのアリエッティ』/『シン・ゴジラ』/『SPACE BATTLESHIP ヤマト』/『鍵泥棒のメソッド』/『かぐや姫の物語』/『必死剣鳥刺し

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』/『放送禁止2 ある呪われた大家族』/『ニッポンの大家族 Saiko! The Large Family 放送禁止 劇場版』/『リトル・ミス・サンシャイン』/『トイレット』/『家族の灯り』/『別離』/『6才のボクが、大人になるまで。』/『サバイバルファミリー』/『家族はつらいよ2』/『サバービコン 仮面を被った街