『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口に掲示されたチラシ。

原作&監督:山田洋次 / 脚本:山田洋次平松恵美子 / 製作:大角正 / 製作総指揮:迫本淳一 / プロデューサー:福澤宏 / 撮影:近森眞史 / 美術:倉田智子 / 照明:渡邊孝一 / 装飾:湯澤幸夫 / 衣裳:松田和夫 / 編集:石井巌 / 音楽:久石譲 / イメージポスター&タイトルデザイン:横尾忠則 / 出演:橋爪功吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣中嶋朋子林家正蔵妻夫木聡蒼井優、大沼柚希、小林颯、小林稔侍、風吹ジュン立川志らく木場勝己笹野高史笑福亭鶴瓶藤山扇治郎広岡由里子、北山雅康、小川絵莉、徳永ゆうき / 制作&配給:松竹

2018年日本作品 / 上映時間:2時間3分

2018年5月25日日本公開

公式サイト : http://kazoku-tsuraiyo.jp/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/05/26)



[粗筋]

 家長であった平田周造(橋爪功)のリタイヤ以降、平田家の中心は長男の幸之助(西村まさ彦)に移った。

 夫の幸之助は年がら年中、出張で家を空けている。リタイヤ以降、それぞれに趣味を満喫するようになった周造と妻の富子(吉行和子)も昼間は出かけていることが多い。子供たちは学校や塾があり、事実上、家を守っているのは専業主夫の史枝(夏川結衣)であった。

 ときおり訪ねてくる長女の金井茂子(中嶋朋子)夫婦と次男の庄太(妻夫木聡)夫婦は、いっときも休まず動き回っている史枝に感心しきりだが、幸之助はそのことをあまり意識していない。ずっと主婦をしてきて、外の世界に触れたい欲求に駆られてきた史枝が、以前学んでいたフラメンコをもういちど始めたい、とそれとなく頼んでも、まったく聞く耳を持たない。

 その日、周造と富子は故郷である広島の大崎上島への墓参に出ていた。幸之助はクレーム処理のために香港へ出張している。周造夫婦の部屋の掃除をしていた史枝は、うっかりとうたた寝をしてしまった。その隙に、付近を荒らしていた泥棒(笹野高史)に侵入されてしまう。

 史枝がちょうど起きてきたところとはち合わせたために被害は軽微だったが、史枝が長年貯めていたへそくり40万円ほどを持ち去られてしまった。連絡を受けて駆けつけた茂子の夫・泰蔵(林家正蔵)らは史枝に怪我がなかったことに安堵するが、夜になって帰ってきた幸之助は、史枝が密かにへそくりしていた事実と、それを盗まれたことに激昂し、史枝を責める。

「俺があくせく働いてるときにお前は昼寝とは、いい身分だな!」

 ――そして史枝は、平田家を飛び出した。



[感想]

 山田洋次監督久々の喜劇映画であった『家族はつらいよ』の、シリーズ3作目である。

 もともと、小津安二郎監督『東京物語』の現代版リメイク、という位置づけで製作された『東京家族』という作品があり、ここで家族を演じた俳優たちを同じ役柄で起用してコメディを作る、という意図で『家族はつらいよ』が生まれた。スタッフ、キャストが優秀だ、というのももちろんあるだろうが、そうした前提があるから、もともとキャラクターの完成度は高かった。それが、好評により第2作が撮られ、この3作目まで来ているのだから、もはやキャラクターの存在感は桁が違う。

 恐らくはスタッフも、闇雲に凝った筋回しをするよりも、キャラクターを活かすべきだ、と考えたのだろう、個々の描写や、それぞれが絡みあう場面がことごとく際立っている。こういう状況に、この人ならこうするだろう、という流れがとても自然だし、笑いを誘う言動であっても無理がない。まるで、親戚の家での騒動を眺めているような気分で、心地好い安心感さえある。

 旧作から追っていた観客にとって、本篇で描かれる騒動はかなり必然的なものだ。もともと気質が父親によく似ていて、妻への態度も似通っていた幸之助なのだから、第1作の成り行きを思えばこうなることも予想できた。そういう意味ではほぼほぼ予定調和で出来ているのだが、しかしそうした価値観の相克、それを象徴する平田家の関係性が非常にリアルなので、登場人物たちのやり取りに随所で笑いを取りつつも、そこには妙な緊張感がある。

 平田家を巡る状況のほとんどは、観ている者にとってまるっきり無縁ではない。史枝が提起する主婦の労働の問題はもちろん、富子が触れる墓の問題、庄太の妻・憲子(蒼井優)とその母が抱える老人介護の問題。劇中では具体的なところまで発展しないが、両親の結婚生活の危機に、“どちらについていくのか”ということで煩悶する子供たちの姿にも、胸を痛める人は少なくないだろう。

 そうした深刻なテーマを、本篇は家族同士の笑いを誘うやり取りのなかに収めることで、優しく包みこむ。軽視していい問題ではないし、劇中でもあえて深く追求するのを避けているところも多いのだが、安易には解決しないものを無理矢理ハッピーエンドに持ち込まず、軟着陸させている。その程よい匙加減が、作品世界を現実に寄り添いながらも快いものにしている。

 登場人物の造形や、彼らを巡る問題の描写はリアルで繊細だが、しかし今回、ストーリーの構成については少々雑然とした印象が強い。映画として秀逸な見せ場はあるし、うまくいい収まり処を見つけてはいるが、少々唐突なきらいがあり、全体を眺めると歪だ。しかし、本篇のように描写が際立っていると、多少流れが妙でも納得してしまう――少なくとも、人々の言動とこの流れ、着地点は決して矛盾していない。

 既に3作、前身となった作品も含めれば4作にわたって紡ぎあげられた“家族像”の完成度の高さと、携わるスタッフ、キャストらの質の高さが生み出す安定感こそ、本篇の魅力だろう。シリーズであればこそ可能なこのクオリティの作品を、出来ることならもうしばらくは繋いで欲しいものだが――



関連作品:

家族はつらいよ』/『家族はつらいよ2

砂の器』/『幸福の黄色いハンカチ』/『たそがれ清兵衛』/『隠し剣 鬼の爪』/『武士の一分

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