『いぬやしき』

一ツ橋ホールのロビーに展示されたポスター。

原作:奥浩哉(集英社・刊) / 監督:佐藤信介 / 脚本:橋本裕志 / 撮影監督:河津太郎 / 美術監督:斎藤岩男 / CGプロデューサー:豊嶋勇作 / VFXスーパーヴァイザー:神谷誠 / VFXプロデューサー:道木伸輶 / 特殊メイクデザイン&特殊造形:藤原カクセイ / コンセプトデザイン:田島光二 / 衣裳:宮本まさ江 / 編集:今井剛 / アクションコーディネーター:下村勇二 / 音楽:やまだ豊 / 主題歌:MAN WITH A MISSION『Take Me Under』 / 出演:木梨憲武(とんねるず)、佐藤健三吉彩花二階堂ふみ本郷奏多濱田マリ、福崎那由他伊勢谷友介斉藤由貴 / 配給:東宝

2018年日本作品 / 上映時間:2時間7分

2018年4月20日日本公開

公式サイト : http://inuyashiki-movie.com/

日本教育会館・一ツ橋ホールにて初見(2018/04/18) ※試写会



[粗筋]

 犬屋敷壱郎(木梨憲武)の心は沈んでいた。家族のために必死に働き、ようやくマイホームを手に入れたが、家族は立地の悪さに不平を漏らし、犬屋敷に感謝もしない。会社ではミスを重ね、上司から毎日のように嫌味を言われている。

 迷い込んできた犬を飼う決心をしたものの、妻に頑強に拒まれ、やむなく捨てに出た犬屋敷は、辿り着いた公園で突如、謎の強烈な光線を浴びた。

 気づいたときには朝になっていた。何故か改善した視力に戸惑い家に帰るが、食事のあとで更なる異変を知る――犬屋敷の全身は何者かの手でサイボーグに変えられていたのだ。

 己の身に訪れた変化の意味が解らず戸惑う犬屋敷だったが、あるとき、自らの身体に生体の治癒を促進する機能があることを知ると、その日常は一変する。会社勤めもそこそこに、犬屋敷は難病に苦しむ人々を密かに救い始めた。

 ――だが、犬屋敷と同じように、機械に身体を変えられた男はもうひとりいた。犬屋敷の娘・真理(三吉彩花)の同級生である獅子神皓(佐藤健)は、犬屋敷とはまったく違うかたちで、己の新たな肉体を利用していた――



[感想]

 この作品で何よりも注目すべきは、タイトルロールに扮した木梨憲武だろう。もともと芸達者であるし、俳優としての経歴もあるにはあるが、本篇での演技は驚異的だ。

 冒頭の主人公・犬屋敷壱郎は序盤、風采の上がらない普通の男に過ぎない。職場でも家でも冷たくあしらわれ、すっかり老け込んでいる。マイホームのために借金を抱え込んだというのに、その矢先に余命宣告を受ける始末で、物語冒頭から不幸のどん底に突き落とされてしまう。だが、直後に奇妙な事故に遭遇すると、自らの身体の変化に戸惑い、そして新たな“使命”を得たことで急速に生命力を取り戻していく。

 この非常に起伏に富んだキャラクターを、木梨は終始、見事な説得力で演じきっている。バラエティ番組で見せる、予測不能の破壊力を封印し、序盤ではすっかりくたびれきった老人に扮したかと思うと、サイボーグ化したあとはその戸惑いを豊かな表情を駆使してユーモラスに体現する。いわばヒーローとして開眼した終盤には、その役目に不慣れであるがゆえの初々しさを滲ませつつも、強敵に挑んでいく様が凜々しくさえある。中盤以降はほとんどCG加工が施されているため、“CG男優”と自らを揶揄するような発言もしていたようだが、その好演ぶりはタイトルロールに相応しい。

 相対する獅子神皓を演じた佐藤健の功績も大きい。もともとは、いじめられっ子である友人に、庇うことは出来ないまでも寄り添い、親しい人間を大切にする好青年であったことが窺えるが、犬屋敷と同じ力を得ながらも、まったく異なる変化を遂げていく。人々の救済に赴いた犬屋敷に対し、獅子神は自らの欲望の充足に力を利用するようになるわけだが、能力の使い方が正反対であるのに呼応するかのように、表情や振る舞いも犬屋敷とは対照的に表現されている。すなわち、表情は乏しく感情は伝わりづらく、それでいて戸惑いはほぼなく衝動的にものごとに接する。少年らしい欲望から“モンスター”へと発展していく、佐藤健はどちらかと言えばヒーロー役、好青年のイメージが強い俳優だが、今回はこの厚みのあるヒールを見事に演じきり、主役の木梨をも引き立てている。

 それにしてもこの作品、老いぼれた男が主人公、というのが風変わりではあるが、物語の手触りはマーヴェルやDCのヒーロー作品の第1作に近い。能力を得、使命感に目醒めていくまでのプロセスがまさに、ヒーロー誕生のそれなのだ。近年、ハリウッドでこの類の大作が多く撮られているために、あちらの専売特許めいた印象があるが、本邦にも数多の特撮モノやアニメーションにおいて掘り下げてきたジャンルでもある。本篇は主人公の風体こそ少々みすぼらしいが、だからこそクライマックスがいっそう痛快なのだ。

 アクションシーンはほぼ新宿界隈で展開される。このヒーローと悪役との組み合わせならもっと広範囲に発展させることも可能だろうが、新宿は日本人はおろか世界的にも存在を認知された土地だ。そこに舞台を限定することで、観る側が戦闘の展開をイメージしやすくなっている。

 イメージしやすい、という点は、実のところ本篇のいちばんの肝となっている、と思う。ろくに取り柄のない犬屋敷はもちろん、全般に表情を乱すことのない獅子神にしても、その境遇は比較的理解しやすい。だからこそ、特殊な力を持ったあと、対照的に発現する逸脱ぶりも理解しやすい。もしもこんな力を与えられれば、誰であっても犬屋敷になる可能性があり、同時に獅子神になる可能性もある。それが解るから本編は関心を惹くし、興奮もさせる。ひとによっては、恐怖さえ抱くのではなかろうか。

 贅沢を言えば、ドラマ的にもアクション的にももうひと山欲しかった――が、それは高望みしすぎかも知れない。木梨憲武佐藤健というふたりのメインを軸に俳優のポテンシャルを存分に活かし、親しみの持てる視点から、非日常に至る感覚を味わわせる物語に昇華した、良質のエンタテインメント作品である。



関連作品:

ホッタラケの島 遥と魔法の鏡』/『テルマエ・ロマエII

竜馬の妻とその夫と愛人』/『るろうに剣心 伝説の最期編』/『HINOKIO』/『K−20 怪人二十面相・伝』/『渇き。』/『血と骨』/『雪の断章−情熱−

ロボジー』/『未来警察 Future X-Cops』/『ロボコップ(2014)