『地獄の黙示録 劇場公開版<デジタルリマスター>』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町の地下、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) 地獄の黙示録 [Blu-ray]

原題:“Apocalypse Now” / 原作:ジョセフ・コンラッド『闇の奥』 / 監督&製作:フランシス・フォード・コッポラ / 脚本:ジョン・ミリアスフランシス・フォード・コッポラマイケル・ハー / 撮影監督:ヴィットリオ・ストラーロ / プロダクション・デザイナー:ディーン・タヴォラリス / 美術監督:アンジェロ・P・グラハム / 編集:リチャード・マークス、リサ・ブラックマン、ジェラルド・B・グリーンバーグウォルター・マーチ / キャスティング:テリー・リーブリング、ヴィク・ラモンズ / 音楽:カーマイン・コッポラ、フランシス・フォード・コッポラ / 出演:マーロン・ブランドロバート・デュヴァルマーティン・シーンフレデリック・フォレスト、サム・ボトムズローレンス・フィッシュバーンアルバート・ホール、ハリソン・フォード、G・D・スプラドリン、デニス・ホッパー、クリスチャン・マルカン、オーロール・クレマン、ジェリー・ジーズマー、トム・メイソン、シンシア・ウッド、コリーン・キャンプ、ジェリー・ロス、ハーブ・ライス、ロン・マックイーン、スコット・グレン / 初公開時配給:日本ヘラルド / 映像ソフト発売元:KADOKAWA

1979年アメリカ作品 / 上映時間:2時間33分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1980年2月23日日本公開

午前十時の映画祭9(2017/04/01〜2018/03/23開催)上映作品

2017年6月30日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2017/5/15)



[粗筋]

 1969年。いちどはアメリカに帰国しながらも、ふたたびベトナムに戻っていたウィラード大尉(マーティン・シーン)はアメリカ軍上層部から呼び出される。待望であった新たな任務は、指揮系統を離れて暴走する人物の暗殺であった。

 かつて極めて高潔な人物であったカーツ大佐(マーロン・ブランド)は、ベトナム従軍以降、次第に過激な行動が目立つようになったという。ベトコンに潜入させたスパイ4名を二重スパイと断じて勝手に処刑したあと、連絡は途絶え、ジャングルで現地の人々を従え、いまやベトコンのみならず現地のアメリカ軍の脅威ともなっていた。

 通称“チーフ”(アルバート・ホール)が舵を取る哨戒艇に乗り、ウィラードは現地に赴いた。キルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)の指揮する部隊の誘導で、銃弾の飛び交う最前線からカーツ大佐の潜むジャングルの奥地への旅路を始める。

 そこで展開される戦いは、だがウィラードが知っているよりもはるかに異常で、狂気に彩られたものだった――



[感想]

 政治的にも多くの課題を残したベトナム戦争は、あまりにも悽愴な推移故、皮肉にも映画の世界に多くの傑作をもたらした。戦場を舞台とした作品はもちろんのこと、PTSDを背景とする『タクシードライバー』、『ランボー』のような作品も誕生している。

 本篇は、戦場を舞台としながら、この過酷な状況を前に神経を狂わせていく人々の姿を描き出すことで、映画において描かれたベトナム戦争、引いては戦争のもたらす悲劇というテーマを1篇にしてほぼ網羅している、と感じる。劇場公開版の上映時間は約2時間半だが、それこそ数日分くらいの物語が凝縮されたような趣さえあるのだ。

 そして更に特筆すべきは、圧倒的な映像のクオリティの高さだ。壮絶で酸鼻を極める戦場の有様を克明に汲み取りながら、その説得力はもとより、ヴィジュアルとして非常に整っている。ヘリコプターの編隊が空襲するくだりや、最前線の橋の上での応酬の鮮やかな描写、そして川を遡行する際の情景の数々。登場人物が「美しい」と口走り、別の人物に否定されるというひと幕があるが、象徴的なやり取りだろう――この光景が、見ようによっては美しく、あまりにも蠱惑的でさえあるのだ。

 そして、こうしたヴィジュアルの圧倒的な完成度が、カーツ大佐のみならず、多くの者たちを逸脱させていく“戦争”というものを観る側にも実感させる。本篇は史実に基づいたものではないはずなのに、まるで本物の戦争を疑似体験したかのような感覚を観るものに留める。

 本篇を観たあとなら――いや、観ている途中から、極めて高潔な人物として知られたカーツ大佐がなぜ“闇”に落ちていったのか、理解できたような気分になるはずだ。あくまでフィクションであるにも拘らず、そして恐らくはカーツ大佐どころか、本篇の視点人物であるウィラード大尉が目撃したであろう出来事や事実の、ごく一部しか見せられていないはず、と承知していても、似たような感想を抱くはずである。そう思わせる物語の奥行き、説得力にひたすら驚嘆するほかない。

 この作品は、それぞれの出来事を描く上で、何らかの教訓を示したり、解決の手立てを打ち出したりはしない。あまりにも過酷で無慈悲な出来事を、映画としてそのまま提示してくる。故に、受け止め方は観客ひとりひとり違ってくるだろう。ひたすらに嫌悪感を催すひともいるかも知れない。また前述したように、その破壊的ながらも蠱惑的な映像に魅せられるだけで終わってしまうかも知れない。視座を変えると作品の見方も変わってくる、などというのは説明するまでもない常識なのだが、ただ、この作品ほど振り幅の大きい作品はそうそうないだろう。極めてパワフルな反戦のメッセージとも受け取れるが、人間の“破壊”という行為の危険な美しさを汲み取った本篇は、ある意味で好戦的とも取れるのだ――そういうところまで、まったく容赦なく、“戦争”というものを克明に切り取っている、と言えよう。

 リアルな戦争映画というのはたくさん作られてきた。本篇とは違うかたちで、戦争というものの醜悪さを描きだした作品も無数にある。だが本篇は、そうした作品群のひとつの頂点として、恐らくは映画という表現が守られる限り残っていくに違いない。そう言い切りたくなるほどの作品である。



関連作品:

ゴッドファーザー』/『ゴッドファーザー PART II』/『Virginia/ヴァージニア』/『ダーティハリー2

ウォール街』/『アメイジング・スパイダーマン』/『スコア』/『シノーラ』/『アウトロー』/『アウトロー(2012)』/『理由(1995)』/『シグナル』/『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『奴らを高く吊るせ!』/『エレジー』/『最後の猿の惑星』/『アメリカン・ハッスル』/『目撃』/『ボーン・レガシー

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