『サバイバルファミリー』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン3入口に掲示されたチラシ。

原案、脚本&監督:矢口史靖 / 脚本協力:矢口純子 / 撮影:葛西誉仁(JSC) / 照明:豊見山明長 / 美術:中澤克巳 / 装飾:西渕浩祐 / 編集:宮島竜治(JSE) / VFXスーパーヴァイザー:石井教雄 / 音響効果:岡渕昌彦 / 音楽:野村卓史 / 主題歌:SHANTI『Hard Times Come Again No More』 / 出演:小日向文世深津絵里泉澤祐希葵わかな大地康雄柄本明時任三郎藤原紀香大野拓朗、志尊淳、宅麻伸、菅原大吉、徳井優桂雀々森下能幸田中要次、有福正志、左時枝ミッキー・カーチス渡辺えり / 企画&製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ / 配給:東宝

2017年日本作品 / 上映時間:1時間57分

2017年2月11日日本公開

公式サイト : http://www.survivalfamily.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2017/3/8)



[粗筋]

 それは本当に、ある日突然起こった。

 起床した鈴木義之(小日向文世)は、既に高くなった陽射しに気づいて動揺する。目覚まし時計ばかりか、家中の電気がすべて止まっていたのだ。

 だが、家を出てみると、鈴木家だけではなかった。彼らの家があるマンションはおろか、電車も動かず信号も点灯していない。義之はふた駅の道程を歩いて出社するが、すべてのデータ入っているサーバも落ちていて、ろくに仕事にならず、上層部は早々に自宅待機の指示を出す。

 明日には元通りだろ、と軽く考えていた義之だが、翌日もその翌日も状況は変わらなかった。洗濯やトイレを流すのに使っていた浴槽の水も尽き、備蓄食料はもとより、スーパーの棚からも食材は尽きつつあった。

 いったいいつまで無電力状態が続くのか解らないいま、東京にいても埒があかない。義之は家族に、妻・光恵(深津絵里)の実家がある鹿児島に移ることを提案する。電車も乗用車も使えないが、飛行機ぐらいは飛んでいるかも知れない、と一縷の望みを託し、一家4人、自転車を漕いで成田空港へと赴いた。

 しかし(当然だけど)飛行機もまったく動いていない。長女の結衣(葵わかな)は東京へ帰ればいい、と言うが、ふたたび東京に戻ったところで生活出来る保証はない。義之は自転車で、鹿児島へと向かう決断を下す。

 そして、鈴木一家の長い長い旅が始まるのだった……。



[感想]

 先に言ってしまうと、「どうして電気が使えなくなったのか?」という疑問に対して、明瞭な答は出してくれない。エピローグ部分でそれらしき点に言及はしているが、真相と言うにはあまりに覚束無い。

 本篇の狙いはあくまで、電力への依存が強いこの現代社会で、電力がまったく供給されなくなったとしたら、というifをシミュレーションし、そこから生まれる笑いやドラマを描くことに主眼を置いている。そのリアリティと、匙加減の絶妙さが実に見事だ。

 世の中にある様々なものが、意外なところで電力に依存している、という点に着目し、細かなイベントを作りあげているが、本篇はそれぞれの場面でひとびとの反応にリアリティが備わっている。あらゆる電化製品が停止し、電車さえ動かなくなってもとりあえず出社し、自動ドアも施錠されたままだからガラスを割って中に入る。しかし業務に用いるデータはぜんぶハードディスクの中なので結局仕事にならず帰宅する、という間の抜けたプロセスも人間的だ。

 本篇の場合、こうした出来事の目撃者として用意した鈴木家のひとびとの設定も巧い。態度は大きいが口ばっかりでいまいち頼りにならない父、密かにけっこうな額のへそくりをしていたり取引で思わぬ逞しさを発揮する母、口数は少ないが若いがゆえの順応性の高さを次第に示すようになる長男、誰よりも不便に対して愚痴っぽいが渋々状況に合わせ始める長女。それぞれ、いかにも現代的な肉付けを施しているが、全員が絶妙にこの事態への対応力が低いのが巧い。そのお陰で、少し目端の利く人なら気づきそうなポイントを見落としていたり、ぽつぽつと登場する、事態に適応したひとびとの存在、それぞれの対処法が際立って印象づけられる。物々交換でしたたかさを発揮する女性、まるでスポーツのようにサバイバルを楽しむ一家などは、登場シーンはわずかだが、生存能力の低い鈴木一家との対比でかなりのインパクトを残す。

 その一方で、こういう事態に陥った場合、想定できるであろう深刻な影響を描くのを控えることで、作品をコメディに留めている点にも注目していただきたい。

 劇中、鈴木家が持っていた飲料が盗まれる場面があるが、実際にこういう事態に遭遇すると、より血腥い展開に至ることもあり得る。火を熾すのにも困難が伴い、衛生環境が悪化するこの状況では、感染症も蔓延しやすい。本篇における“冒険”の時間はそれほど長くないが、組織的な救済措置を施すのも難しくなるこの設定では、事態が深刻化することは避けがたいだろう。

 そうした凄惨な現実を示さなかったことを“逃避”と捉えると、本篇は噴飯物には違いない。だが、こうしたifの物語を、容赦なくリアルに描き出し、恐怖を与えることばかりがフィクションの役割ではない。大した能力がなくても、なんとか生きていかなければならない現実を、なるべく正確にシミュレートしつつも、あえてコミカルに描き出すスタンスを選択し、ここまできっちりと構築した点は賞賛に値する。

 もし私たちの生活から突如として電力が奪われたら? というifに誠実に向き合い、理解しているひとは唸らせ、創造が及ばなかったひとたちを驚かせる一方で、そうなりそう、きっとある、という要素で笑いを積み重ねていく。そしてその先に、思いがけず暖かなクライマックスに至る伏線も怠っていない。

 本篇の組み立ての巧さは、プロローグの時点で既に顕著だ。電力が当たり前に存在する社会におけるごく普通の家庭のお手本を見せただけにも映るが、しかしその狙いの巧さはエピローグで明確になる。出来れば、オープニングの描写をしっかりと頭に入れた上で本篇を鑑賞していただきたい。その変化がおかしくも、快く思えるはずである。

 恐らく、同じような事態の変遷を辿ったとしても、この結末のような状況にはならない可能性も高く、回避した面の多さを否定材料として捉える向きはこの幕引きにも納得がいかないはずだろう。しかし、どこにでもいそうな平凡な家庭が、電力の失われた世界で生き残っていく様をコメディとして描いた作品である以上、最後まで彼らが主役を外されることのないこの結末こそ唯一の理想と言える。

 これまで一貫してコメディを撮り続ける矢口史靖監督ならではの誠意で肉付けされた、芯の通った作品である。



関連作品:

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