電気がもったいなかったから。

 はなから今日は映画を観るつもりだったのです。行きつけの蕎麦屋で食べたかったので、あとの移動が容易な西新井で。

 ただ、なにを観るのかは決めかねていた。観たい作品は色々あっても、こちらの都合にちょうどいい時間にかかっていないものが多い。あれこれ思案して、とりあえずはMX4Dの作品にしようか、と思ったのですが、ネット経由でチケットを押さえようとして、手が止まった。

 1席も、埋まってない。

 ほかの場合ならあんまり気にはしません。ひとりっきりで鑑賞した経験も一度や二度でなく、若干の居心地の悪さは感じますけど、支障はその程度です。

 しかし、MX4Dの場合は、と考えたとき、気がかりなことがある。

 ……もしかして、観ているのが私ひとりでも、ぜんぶの座席が動くの?

 客観的にシュールな光景に自分が混ざる、というのも心理的抵抗の一因ですが、もっと引っかかるのは、電気が無駄になる可能性です。たったひとりの観客のために、座席を揺すって稲光迸らせて場内に雨粒や煙を散らして……もちろん、そんなこたぁ客が気にする必要もないんですけど、やっぱりちょっと罪悪感は拭えない。

 躊躇い続けて数時間、深夜2時の段階で未だすべて空席の状態が続いていたので、少し早い時間から始まる別作品を探し、ひとまずこちらを選ぶことに。

 MX4D対応作品よりも家を出る時間が早くなってしまうので、出遅れたらひとりで座席に揺られる覚悟を決めよう、とも思ったのですが、幸いに間に合ったため、選びなおした作品のほうを鑑賞しました。

 紆余曲折の末に鑑賞した本日の作品は、『ウォーターボーイズ』の矢口史靖監督最新作、何故かあらゆる電気が使えなくなった世界で、生き抜くために自転車で大移動を試みる家族の姿を描いた冒険タッチのコメディサバイバルファミリー』(東宝配給)

 コメディを得意とする監督がこういうSF的な趣向をうまく扱えるのかしら、と危惧してたんですが、完全に杞憂でした。堂々たる冒険もので、しっかりと家族主題のコメディになっている。原因はさておき、あらゆる電気が使えなくなったら、というifの描写にしっかりとリアリティがありますし、そのなかでの登場人物たちの反応も自然。シビアな部分も適度に織り込みつつ、節度を保つことでコメディとしての面白さも随所に鏤めてます。映画的な構成、盛り上げ方も見事で、思っていた以上に質の高い1本でした。

 なお、チケット購入の際、念のために係員のかたに確認してみたところ……やっぱり、観客がたったひとりでも、全部の座席が動くそうです。電気がもったいないから〜、という私の呟きには「いえいえ」と否定されてましたけど、やはり気が引けます。

 ……出かける前にネットで座席状況を確認したところ、当初鑑賞するつもりだった回、1席だけ売れてたんですが、買った人は私が怖れていた孤独と罪悪感を味わっていたのでしょうか。上映までにもう何席かは埋まった、と信じたい。

 鑑賞後は予定通り、行きつけの蕎麦屋に赴いて、食事を堪能してきました。まだメニューは少ないままですが、いいの開いてれば。