『ラ・ラ・ランド(字幕・IMAX)』

TOHOシネマズ新宿、5階ロビーに掲示された、サイン入りポスター。

原題:“La La Land” / 監督&脚本:デイミアン・チャゼル / 製作:フレッド・パーカー、ジョーダン・ホロウィッツ、ゲイリー・ギルバート、マーク・プラット / 製作総指揮:マイケル・ビューグ / 撮影監督:リヌス・サンドグレン / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ワスコ / 編集:トム・クロス / 衣装:メアリー・ゾフレス / キャスティング:デボラ・アクィラ&トリシア・ウッド / 振付:マンディ・ムーア / 作詞:ベンジ・パセック、ジャスティン・ポール / 作曲&音楽:ジャスティン・ハーウィッツ / 音楽監修:スティーヴン・ギシッキ / 出演:ライアン・ゴズリングエマ・ストーンジョン・レジェンドローズマリー・デウィット、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ、フィン・ウィットロック、ジェシカ・ローズ、キャリー・ヘルナンデス、トム・エヴェレット・スコット、ミーガン・フェイ、デイモン・カプトン、ジェイソン・フュークス、ジョシュ・ペンス、トレヴァー・リサウアー / マーク・プラット/インポスター・ピクチャーズ/ギルバート・フィルム製作 / 配給:GAGA×Pony Canyon

2016年アメリカ作品 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:石田泰子

第89回アカデミー賞監督、主演女優、撮影、美術、音楽、歌曲部門受賞(作品、オリジナル脚本、主演男優、編集、衣裳、音響編集、録音果部門候補)作品

2017年2月24日日本公開

公式サイト : http://gaga.ne.jp/lalaland/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2017/2/24)



[粗筋]

 ミア(エマ・ストーン)が女優を夢みてハリウッドに移り住み、早くも5年が過ぎた。様々なオーディションに挑んでいるが、一向に芽が出る気配はない。

 ルームメイトたちに誘われてパーティに赴くが、却って気分は鬱ぎ、ひとり早引けしてしまった。乗ってきた車がレッカー移動されてしまい、やむなく徒歩で帰る途中、ミアはピアノの旋律に誘われて、バーに入る。演奏していたピアニストは、直後にバーのオーナーらしき男と揉め、話しかけようとするミアを無視して店を出て行った。

 そのピアニストは、セブ(ライアン・ゴズリング)という。ジャズをこよなく愛し、その復興を心から願っていた。かつて多くのミュージシャンを輩出したクラブの凋落ぶりを嘆き、いつかその店を買い取って自分が理想のジャズを演奏できる店を持つのが夢だった。

 しかし、周りからは理解されず、たびたび指定された曲を無視して勝手な演奏をしていたために、クリスマスを前に勤めていたバーをクビになってしまう。やむなくセブは、まったく趣味に合わないジャンルのバンドに加わり、いやいや演奏していた。

 バンドとして演奏に招かれたパーティで、セブはミアと再会する。クリスマスの晩にわずかに顔を合わせただけだったが、お互い妙に記憶に残っていた。ふたりともパーティにうんざりして早々に退席しようとしていたので、行きがかり上、初めて言葉を交わす。

 趣味もまるで一致せず、恋に発展しそうもない、と感じたミアだったが、勤め先であるカフェに現れたセブとふたたび話をするうちに、彼のジャズに対する情熱に魅せられるのを感じる。このときミアには付き合っている男がいたが、ミアの気持ちは一気にセブへと傾いていくのだった……。



[感想]

 冒頭で心を鷲掴みにされる、という感覚に陥ったのは久しぶりだ。それこそミュージカル映画から引用するなら、本篇の冒頭は『ウエスト・サイド物語』のインパクトにも匹敵する。

 実際、あの冒頭のシークエンスに、スタッフは本篇への想いをまず凝縮させることに努めたのではなかろうか。映る人物すべてがミュージカルに奉仕する迫力、日常的に馴染みのある空間が華やかな舞台に変貌する昂揚感、そしてそこに居る者たちが高らかに歌いあげる、ハリウッドを目指す人々の夢、希望。高速道路を封鎖し、限られた時間内で撮影した、という事実もさりながら、クレーンやハンディカムを用いた自由自在なカメラワークで立体的に演者たちを追う趣向は、華やかなりしころのミュージカル映画では困難だった、現代の技術あってこそ可能な映像で作りだそう、という意欲がひしひしと感じられる。

 このことは、少し置いて、ミアがパーティに出席するシーンにも言える。よく聴くと解るが、ここは普通に喋っているように思える台詞が既にメロディに乗っている。いつの間にかそこに旋律が加わり、振付を交えながらパーティの会場になだれ込むと、やはりカメラは自由自在に動き回る。その狂乱ぶりを捉えたショットなど、観ていて目がくらむような感覚さえ共有させる。そして、この演出が傑出しているほどに、直後にミアが味わう虚しさも際立っているのだから、ただただ唸るしかない。

 物語としての構造はむしろシンプルだ。それぞれに異なる夢を持ったふたりが惹かれ合い、挫折を味わいながらも、改めて夢へと挑む。しかしシンプルだからこそ、その過程に現れる感情は複雑であり、本篇はそれを歌のかたちで昇華している。状況が飲みこみやすいからこそ、そこで表出する感情を歌に託すミュージカルという手法が活きてくる。ロマンス以前の段階ながら妙に馬の合う様子を描いた場面、セブの歯痒い想いを託した夕暮れのシーン、そしてミアにとって運命を左右するオーディションのくだりで披露する楽曲がそれぞれに響くのは、取って付けた印象がなく、物語が求めて生まれて来たかのような仕上がりになっていればこそだ。

 シンプルで、要所要所の演出は極めて華やかだが、あえて過度に飾らないシーンも多く、随所で挫折や思い通りにいかない出来事を織り込んでいるのも巧い。それらが全体の華やかでスイートな舌触りに、豊潤な苦みを添えている。

 こうした全体に行き届いた配慮、大胆さと繊細さの入り混じった描写が見事に活きてくるのがクライマックスである。あの場面に至る前の展開は恐らく、多くの観客にとってかなり意外なものであり、そこにぼんやりとした不満を抱かせる危惧もあったのだが、直後に訪れるこのクライマックスの素晴らしさが吹き飛ばしてしまうはずである。

 あのシーンが描き出したものこそ、まさに本篇の象徴だろう。計算され尽くした歌と踊りで描き出す、あまりにも快い夢。鏤めてきた要素を緻密に汲み取り、美しく華やかに彩るこのひと幕は、まさにミュージカルの本領であり、往年のハリウッド映画が描き出そうとしてきた理想に他ならない。

 これはミュージカルであることで成立する映画だ。そして他のどこでもない、ハリウッドだからこそ、否、ハリウッドでなければ描けない夢だ。個人的な印象ではあるが、『アーティスト』によっていちどフランスに横取りされてしまった美しい夢を、改めてハリウッドなりに形作ろうと志し、見事に成功させた作品なのである。

 大本命と謳われた第89回アカデミー賞では残念ながら(前代未聞の椿事つきで)逃してしまったが、監督はじめ若きスタッフとキャストが丹誠籠めて作りあげた本篇が、往年の伝説的ミュージカルと肩を並べて語り継がれるであろうことを、私は信じて疑わない。



関連作品:

セッション

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雨に唄えば』/『バンド・ワゴン』/『ショウほど素敵な商売はない』/『ウエスト・サイド物語』/『ザッツ・エンタテインメント』/『ムーランルージュ!』/『レ・ミゼラブル』/『アーティスト』/『ジャージー・ボーイズ』/『アナと雪の女王』/『舞妓はレディ』/『心が叫びたがってるんだ。