怪し会 白 於もっとい不動密蔵院。

密蔵院の門前に設置された案内板。 いまごろ書いてますが、これは2月19日夕方のことです。

 2010の参2011の肆2012の伍2013の陸同年秋の茜2014の漆2015の八雲2016の黒、そして同年秋の八雲in松江――まあ思えばずいぶんと通い詰めました怪し会。

 今年はこの年初とも言える時期に、これまでサポートとして参加して来た若手をフィーチャーした、いわば“怪し会ジュニア”による回を催す、というのは予めトークライブで聞いていたので、当然のことながら何とかチケットを確保して観るつもりでいたのですが、不覚にもチケット発売当日、朝になってその事実をすっかり失念してしまい、思い出したときにはもう夕方、とっくにチケットは完売していたのでした。ツイッターの公式アカウントからは、「当日券は出ないかも」というアナウンスまである始末。

 それ故、前夜まではほぼほぼ諦めていたのですけれど、トークライブの会場で関係者の方にお訊きしてみたところ、まったく可能性がないわけではないらしい。ならば駄目元で、最悪様子を見てくるだけでもいいや、というつもりで、寝不足の身体に鞭を打って現地まで赴きました。

 結果、どうにかわずかに出た当日券の枠に滑り込むことが出来ました。出席率も高いイベントですが、それでも何らかの事情で、ギリギリになって断念される方も何人かはいらっしゃるらしい。もちろんいちばん最後のほうの入場になる故、かなーり端っこのほうですが、入れるだけでも有り難いというもの。

 今回は、というか昨年の“黒”に続いて今回も、上演はお清め場で行われました。企画・演出の茶風林氏は当初、窓を開け放して炬燵で暖まりながら〜、という目論見だったそうですが、電圧の都合とか諸々現実的な配慮によって却下された模様。飲み放題スタイルでないのにお清め場を用いたのも、たぶん“本堂だと寒すぎる”という事情があったのでは、と思われます。今回も茶風林氏厳選の日本酒が提供されますが、私はそのお酒の酒粕をもとに、出演者件総務担当の肘岡拓朗氏謹製の甘酒のほうを選択しました。癖が少なくていい味わいでございました。今回は限定商品やお土産に出来る瓶の販売などもないので、休憩時間におつまみのミックスナッツともどもおかわりを購入……1杯だけね。もう1杯飲んだらたぶん途中で寝てました。

 それはともかく、本番です。既に公演は終了している(っていうか私の鑑賞した回が千秋楽だった)ので、伏せずにそのまま続けて記します。

 冒頭は軽めのエピソード『こたつ』2作品。同じタイトル、同じ炬燵を題材としたエピソードを並べるのは冬場に催す怪談会ならでは……それくらい茶風林氏が炬燵にこだわっていた、という証左かも知れません。

 続いては『大雪』。北国ならではの風除室がある玄関構造でこそ成立する、シンプルながら慄然とするエピソードです。過程でやっていることはちょっと笑える部分もあるのですが、トータルではぞっとする、設定的にも冬場にかけるにはいいエピソードです。

 続いては小泉八雲の怪談より『鳥取の布団』。開業したばかりの宿で、宿泊客が「布団から子供の話し声が聞こえる」と訴えて逃げ出すことが連続する、というところから発展する話。状況は怖いものの、着地点は心暖まる人情噺です。ずーっと同じ台詞ばかり読まされる子供役ふたりが終盤に効かせる変化が心地好い。

 休憩前最後の演目は、これも小泉八雲原作『雪女』。これは昨年秋に松江で催された怪し会での演目の再演。当然ながら配役は異なっていますが、それで微妙にカラーが変わった印象になるのが面白い。このスタイルならではの楽しみ方と言えます。雪女を演じた児玉ゆきの氏の、冷たく妖しい雪女から可愛らしいゆきに変わり、最後には両者のない混ざった感情を表現する、という変化が秀逸でした。

 ここで休憩時間。観客がひととおり用足しを済ませたあたりで、座長・茶風林氏と雪女を熱演した児玉ゆきの氏、そして怪し会の数少ないレギュラー・伊藤美紀氏が登壇して、幕間のトークへ。今回のお酒の紹介からプレゼントの抽選会、というこれも恒例の流れ……今回、私は入場できただけで運は使い切った、と割り切ってましたが、案の定プレゼントには引っかかりませんでした。

 そしていよいよ最後の演目、『白い息』です。こちらは木原氏の著作でも流浪続きだったシリーズ『隣之怪』に収録されたエピソード。娘が失踪したあと、両親の身に起きた怪異を綴ったもの。これも冬ならではの話ですが、親だからこその想いがもたらす暖かさ、というのが、こういう場で披露するには相応しい。この怪し会は基本、数本のマイクを舞台に立て、演者がその都度入れ替わりながら自らの役を演じていく、それこそアニメのアフレコに似たスタイルで上演されるのですが、役者がどのタイミングでマイクの前に立ち、どこでしりぞくか、という点にも注意を払っているのがけっこう見所だったりします。特にこの演目については、娘を演じた方の登場するタイミングがとてもよく計算されてました。先をある程度まで読ませつつ、台詞が終わったあとも余韻を残すようにしばしマイクの前に留まる佇まいがとても良かった。

 今回も朗読、お酒ともに楽しかったんですが、個人的にひとつ引っかかったのは、朗読会とは言い条、脚本の組み立てが説明部分を地の文に頼りすぎている傾向があったこと。省略していい場面はそれでも構わないのですが、せっかく生で演技が出来るのですから、もうちょっと会話で状況を理解させるよう仕向けるか、演技で情感を籠めやすい地の文を考慮して欲しかったところ。地の文でちょっと冷める場面が少なくなかったのが残念でした……あくまで個人的な感想として。

 最後の挨拶で茶風林氏は「次の10回目がファイナル」と言い切っておられましたが、やっぱりもったいない気がします。キャストをその都度入れ換えるスタイルだからこそ、夏の開催、密蔵院や松江・洞光寺での上演にこだわらず、柔軟に続けていただけると嬉しい。