『雪女(2016)』

EX THEATER ROPPONGI、地下1階に展示されたキーヴィジュアル。

小泉八雲『怪談』より / 監督:杉野希妃 / 脚本:杉野希妃、重田光雄 / プロデューサー:小野光輔、門田大地 / 共同プロデューサー:福島珠理 / 撮影監督:上野彰吾 / 美術:田中真紗美 / 音楽:sow jow / 出演:杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎水野久美宮崎美子、山本剛史、松岡広大 / 配給:和エンタテインメント

2016年日本作品 / 上映時間:1時間35分

第29回東京国際映画祭コンペティション部門参加作品

2017年3月4日日本公開

公式サイト : http://snowwomanfilm.com/

EX THEATER ROPPONGIにて初見(2016/10/28)



[粗筋]

 茂作(佐野史郎)と共に踏み込んだ雪山で遭難した巳之吉(青木崇高)は、避難のために逃げ込んだ小屋で、気息奄々の茂作に覆いかぶさる美しい女を目撃する。茂作が息絶えると、女は巳之吉にも近づいて来たが、「お前は若いから見逃してやろう。その代わり、私のことを決して口外するな」と警告して、小屋を去っていった。

 雪が消え、茂作の弔いが済んだころ、巳之吉はひとりの女と出会う。ゆき(杉野希妃)と名乗った女は成り行きで巳之吉の家に身を寄せることになった。集落の人々はよそ者であるゆきに不審の目を向けるが、巳之吉はいつしかゆきと惹かれ合い、やがてふたりは所帯を持つことになった。

 時は巡り、ゆきはいちど流産を経験したあと、娘を授かる。うめ(山口まゆ)と名付けられた娘は、母親によく似た美しい少女に成長した。

 中学生になったうめは、茂作の甥にあたる幹生(松岡広大)という少年の唯一の話し相手となっていた。生まれつき病弱だった幹生は通学も出来ない身体だが、ある日、山に行きたがり、うめは彼に同行する。そして幹生は、山中で息を引き取った。そこは他でもない、茂作が死んだ小屋であった。

 茂作の奇怪な死は依然として集落の人々の記憶に残っている。茂作と共に一夜を過ごしながら生き長らえた巳之吉の娘が、その茂作の縁者を同じ場所で看取った、という出来事は、集落に不穏な噂話を蔓延させるのだった……。



[感想]

 本篇は、小泉八雲によって“再話”がなされた“雪女”をベースに、現代的な解釈と肉付けとを加えて映画化したものである。

 ただ、時代設定は現代ではない。だいたい大正か、行っても昭和初期位を念頭に置いた話作りをしているように思われる……が、そのあたりが本篇はあまり明瞭ではない。作中に登場する技術はもう少しあとの時代でないと成立しないようにも思われるのだ。あえて明示しないことで現代と過去とのあわいを描きたかったのかも知れないが、少々ぼんやりとしすぎていて困惑してしまうきらいもある。

 とはいえ、そうすることにより、時代に囚われることのない、人間の執着心や劣情、情愛といったものが強く匂ってくる作りになっているのも確かだ。最初の犠牲者、茂作に雪女が迫るくだりの、冷たい恐ろしさに滲む淫靡さ。時代が移り、うめと共に山中で一夜を明かした少年が死ぬくだりの妖しくも切ない余韻。ゆきと生活するために巳之吉が山を下り、工場での仕事を得る、という表現にも、生々しさと現実的な幸福への執着が窺える。時代考証をあえて曖昧にしたがゆえに、こうした現実への対処がいまの観客にも共感しやすくなった、と捉えられよう。

 日本の独立系映画らしく、あまり多くの予算は投じられていないと察せられるが、しかしその枠内で独特の佇まいのある映像が美しい。雪の降りしきる野山の光景もさることながら、現代と過去、文明と自然とが混在する構図に不思議な色香がある。

 そういう意味で特に印象的なのは、本来の中心人物であるゆきを捉えた映像よりも、娘・うめを中心に据えた場面の数々だ、というのが興味深い。彼女の立ち居振る舞いを追った映像には瑞々しい艶めかしさが匂い立ち、ハッとさせられる。それは単純に性的な関心を惹く狙いも多少はあるのだろうが、それ以上に、女性がかつて備えていたはずの、そして次第に失っていく魅力を辿っているようにも映る。ゆきの登場とともに起きた出来事の数々が、うめの成長に添って再現されていく様からも、そんな風に読み解くことが出来そうだ。

 しかし、ゆきの場合とうめの場合とでは、決定的に異なる点がある。ゆきには家族の姿は見当たらないが、うめには存在している、ということだ。そのことが、母親の体験を辿るように成長していくうめの心に確実に影を落としている。ラストシーン、父と歩くうめの瞳に何が映り、何を思っていたのか。それを想像するとき、本篇が積み重ねてきたものがゆっくりと胸に沁みてくるような心地がする。

 こうして振り返ってみると、本篇は“雪女”というモチーフが持つ悲劇性を軸に、女性というジェンダーを掘り下げる試みであったのかも知れない。時代考証にふらつきがあり、どこかぎこちなくなっていることが惜しまれるが、単純に雪女を現代に移植しただけでは醸しだすことのない情感を表現した秀作と言えよう。



関連作品:

一命』/『るろうに剣心 伝説の最期編』/『20世紀少年<最終章>ぼくらの旗』/『大誘拐 RAINBOW KIDS』/『シャッター』/『超能力研究部の3人

日本橋』/『異人たちとの夏』/『スターフィッシュホテル』/『白蛇伝説〜ホワイト・スネーク〜』/『画皮 あやかしの恋