『FOUND ファウンド』

ヒューマントラストシネマ渋谷、チケットカウンター正面に展示されたチラシと観客のコメント。 FOUND ファウンド [DVD]

原題:“Found” / 原作:トッド・リグニー / 監督&編集:スコット・シャーマー / 脚本:トッド・リグニー&スコット・シャーマー / 製作:レイヤ・テイラー、ダミアン・ウェズナー / 撮影監督:レイヤ・テイラー / キャスティング:シェイラ・バトラー / 作曲:マジック・ジョンソン、リト・ヴェラスコ、グレッグ・ライト / 出演:ギャヴィン・ブラウン、イーサン・フィルベック、フィリス・ムンロー、ルーイ・ローレス、アレックス・コギン、アンディ・アルフォンス、シェーン・ビースリー / 配給:AMGエンタテインメント / 映像ソフト発売元:アメイジングD.C.

2012年カナダ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:? / R15+(自主規制)

2017年1月10日日本公開

2017年2月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

ヒューマントラストシネマ渋谷にて初見(2017/2/3)



[粗筋]

 ぼく、マーティ(ギャヴィン・ブラウン)の兄は、殺人鬼だ。

 友達とボウリングをしに行くとき、球を借りるために兄・スティーヴ(イーサン・フィルベック)の部屋に入ったぼくは、バッグの中に人の生首が入っているのを発見する。以来、ときどき兄の部屋に侵入して確かめると、毎回のように違う誰かの生首が詰まっていた。

 スティーヴはぼくにとっては優しいお兄ちゃんだ。ホラーが好きすぎて、周りからは孤立気味のぼくだけど、同じようにホラー映画を愛好するお兄ちゃんは理解を示してくれる。でも、そんなお兄ちゃんが、ガスマスクを被り、人間を狩っている――まるで、ホラー映画を地で行くような現実だ。

 最近ぼくは学校でますます孤立していた。同級生のマーカスは居残りの罰を受けても懲りずにぼくにちょっかいをかけてきて、とうとう殴られてしまう。ママ(フィリス・ムンロー)はぼくに気遣って、翌日は学校を休んでいい、と言ってくれたけれど、お兄ちゃんの見解は違った。殴り返すべきだった、と言ったあと、お兄ちゃんはぼくに、いじめた生徒の名前を訊ねてきた――



[感想]

 ホラー愛が生んだ、ホラーにまつわる文芸作品――というと少々語弊がありそうだが、しかし実際、そのくらいの感覚で接しないと戸惑うか、不満に感じるひともたぶん多いはずだ。

 慣れきっているひとにとって本篇は恐らく、まったく怖くない。一部グロテスクな描写はあるし、そのあたりの生々しさはなかなかなのだが、全体に占める割合は低く、インパクトも強くない。ホラー映画に親しんでいなくとも、もともと耐性のあるひとなら、本篇を“怖い映画”とは認識しない可能性は充分にある。

 ただ、間違いなく“ホラー映画への愛”は感じるはずだ。語り手であるマーティ少年の特徴、彼が愛好するカルチャーや接し方にはまさに幼くして成熟してしまったマニアのサガが溢れているし、随所に挿入されるオリジナルのホラー映画のパッケージや映像は、実在していても不思議ではないB級感が濃厚に匂っている。

 そして、そういう人物だからこそ、“兄が殺人鬼らしい”という事実に対する妄想や想像の仕方がリアルであり、そこから滲み出す恐怖に説得力がある。

 仮に主人公がホラーにも何にも興味のない一般人であれば、殺人鬼であるかも知れない兄の本性を探ることに躍起になっただろうし、その過程ももっとサスペンスに富んだものになったはずだ。

 だが、語り手がホラー好きの少年であったからこそ、兄という殺人鬼のもたらす恐怖にある意味で親しんでしまう、奇妙な状況が生まれている。結果として訪れる、ホラーとして退屈な結末をも想像して、安易に告発することも出来ない。何より、自分にとっては変わらず優しい兄を訴えることなど出来ない。

 こういう関係性だからこそ、中盤以降、どんどん異様な方向へと話が転がっていく。粗筋で記した直後くらいまでは想像に難くないが、そこから先の意外性と、しかしこの設定だからこそ起きうる光景の異様さは、アイディアとしてかなり秀逸だ――誰もが衝撃を受けるわけではなく、多くの人は「え? ここで終わり?」と首を傾げるかも知れないけれど、歪なその顛末は、ホラーに恐怖だけを求めているわけではない愛好家を唸らせる凄絶な美と、言いようのない情感が漂っている。

 見るからに低予算の映画である。キャストはほぼみんな余所で見たことがないし、演技のクオリティもさほど高くない。スタッフロールでは同じ人物が複数の役割を掛け持ちしているのが窺えるし、舞台も極端に限られている。ただ、そんななかで、マーティの部屋や彼が友達と頻繁に訪れる私設博物館、そしてレンタルビデオ店の棚を埋めつくすお手製と思しき様々なB級ホラー映画のパッケージに劇中劇として挿入されるホラー映画などなど、大量に詰めこまれたガジェットに迸る、B級ホラー映画への愛情とオマージュが、妙に快く微笑ましい。そしてそれを凝縮したところに起きるクライマックスがああいう展開であればこそ、本篇はあの非常に稀な情感、余韻を演出することに成功したのだろう。

 繰り返すが、怖い映画ではない――想像の仕方、捉え方にもよるが、「つまらない」「退屈」と評するひとがいるのも致し方ないと思う。ただ、ホラー映画というものへの愛着と憧憬、そして敬意があればこそ生み出しうる、滅多にないタイプの佳作であることは間違いない。ホラー映画をこよなく愛し、その面白さが安易な“怖さ”だけにあるのではない、と考えているなら、必見の1本だろう。



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