『ズートピア(吹替・2D)』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、エントランス前の階段下に掲示されたポスター。

原題:“Zootopia” / 監督:バイロン・ハワード、リッチ・ムーア / 共同監督:ジャレド・ブッシュ / 原案:バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ、リッチ・ムーア、ジョシー・トリニダード、ジム・リアドン、フィル・ジョンストン、ジェニファー・リー / 脚本:ジャレド・ブッシュ、フィル・ジョンストン / 製作:クラーク・スペンサー,p.g.a. / 製作総指揮:ジョン・ラセター / アソシエイト・プロデューサー:ブラッドフォード・S・シモンセン、モニカ・ラーゴ=ケイティス / ヴィジュアル・エフェクト・スーパーヴァイザー:スコット・カーサヴェイジ / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ゴーツ / 編集:ファビアンヌ・ローリー、ジェレミー・ミルトン / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 声の出演:ジニファー・グッドウィン、ジェイソン・ベイトマンイドリス・エルバ、ジェニー・スレイト、ネイト・トレンス、ボニー・ハント、ドン・レイク、トミー・チョン、J・K・シモンズ、オクタヴィア・スペンサー、アラン・テュディック、シャキーラ、レイモンド・S・パーシ / 声の出演(日本語吹替版):上戸彩森川智之三宅健太竹内順子高橋茂雄(サバンナ)、佐々木優子大川透丸山壮史玄田哲章根本圭子、多田野曜平、山路和弘芋洗坂係長厚切りジェイソン、Dream Ami / 配給:Walt Disney Studios Japan

2016年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:石田泰子

2016年4月23日日本公開

公式サイト : http://Disney.jp/Zootopia

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2016/6/06)



[粗筋]

 動物たちが本能の赴くまま生きていた時代は既に過去のものとなった。いまや動物たちは肉食も草食も共存し、文明社会を築いている。

 ウサギのジュディ・ホップス(ジニファー・グッドウィン/上戸彩)の夢は、動物たちが一緒に生活するようになった最初の都市であるズートピアで警察官となって、よりよい未来に貢献することだった。意地悪なキツネにはからかわれ、平穏に暮らすことを望む両親からも止められたが、ジュディは諦めることなく警察学校を主席で卒業、見事にウサギとしては初めての警察官となり、ズートピアの第一分署に着任する。

 希望に胸を高鳴らせていたジュディだったが、勤務初日にしてその幻想はあっさりと打ち砕かれる。

 ジュディの配属はズートピアの副市長ドーン・ベルウェザー(ジェニー・スレイト/竹内順子)が積極的に勧めたもので、第一分署署長である水牛のボゴ(イドリス・エルバ三宅健太)はまったくジュディに期待をかけていなかった。肉食動物ばかり14人が失踪する、という謎の事件の捜査に追われているというのに、ジュディに与えられた任務は交通整理だった。

 持ち前の負けん気を発揮して、多数の駐車違反を取り締まるジュディだったが、親切心で手助けしたキツネの2人組に騙されショックを受ける。更に、スリを捕まえたというのに「持ち場を離れた」と叱責され、勤務2日目にしてジュディはクビを宣告されるのだった。

 しかし、そこへ失踪事件で行方不明となったカワウソのエミット・オッタートンの夫人(オクタヴィア・スペンサー根本圭子)が、捜査の陳情に訪れた。みんな手が空かない、と適当にあしらおうとするボゴ署長に対し、ジュディが捜査を担当したい、と申し出る。折良くベルウェザー副市長がその場に居合わせていたために、ジュディの主張をはねつけることが出来なくなったボゴ署長は、“48時間以内に解決できなければクビ”という条件をつけて認めるのだった。

 とはいえ、オッタートン氏の失踪については大した捜査資料がない。唯一の手がかりである、失踪直前の様子を捉えた監視カメラの映像に、自分を騙したキツネの詐欺師ニック・ワイルド(ジェイソン・ベイトマン森川智之)の姿があることに気づいたジュディは、ニックに接触した――



[感想]

 公開されたあとで、“実は奥が深い”ということを売りの1つに掲げるようになった作品だが、確かに、ただの動物擬人化アニメと同じような意識で接すると、怪我をしかねないくらい手応えがある。

 そもそもこの物語に登場する動物たちは、単純に擬人化したものではない。弱肉強食、食うものと食われるものとの区別がかつては存在し、理性の獲得でそれを克服した、という自己認識が動物たちのなかにある世界だ。冒頭でそれを解りやすく明示することで、本篇は独自性とともに、現実社会を象徴する要素を獲得した。

 この趣向が何よりも鮮やかな効果を上げるのが、差別の描写である。

 比喩などという生易しさではなく、本篇は最初からあからさまに差別を突きつける。望めば何にでもなれる、という理想を信じて警察官を志願したジュディに向けられる、露骨な“階級意識”。肉食獣の子孫である狐は大っぴらに彼女を侮辱し、家族でさえ無謀な夢を見るジュディに、農業に従事するよう諭すのだ。彼女が理想を託したズートピアでも、ウサギは小さく非力であることを理由に侮られ、キツネは十把一絡げにズルい生き物として悪意を勘ぐられる。動物であるが故にどこかユーモラスに描かれているようにも思えるが、その実、差別を導き出す偏見や悪意が剥き身のままに描かれているのだ。

 だがそうすることにより本篇は、種の違いが生み出す“個性”に対しても積極的に触れる。ネズミのような小動物には、仕事に向かうときに専用の通路のようなものが設けられており、道路も建物も彼らのサイズに最適化された街さえもある。大型の肉食動物がパワフルに振る舞う一方で、ジュディのような小柄だが跳躍力がある、という特徴も際立っている。そしてまた、この辺は物語の重要な鍵となることなので詳述は避けるが、こうした“際立った個性”が、諷刺としても機能する鮮烈なサプライズを作り出しているのだ。

 そのうえで本篇は、まるで理想のようなエンタテインメントの文法を実践している。困難への挑戦と挫折、希望が覗いた直後の失望。それらが決して無理矢理でなく、納得のいく手際でちりばめられているから、クライマックスでの興奮に結実する。

 しかもそこに、“バディムーヴィー”の要素まで織り込まれている。努力家で真面目なジュディと、世間ズレしてずる賢いニック。ジュディは必要に迫られて、ニックは弱味を握られて嫌々協力していたはずが、いつしか種を超えた友情を築いていく。欠点を補い合う関係に発展していくプロセスは、実写の刑事もの映画にも似たカタルシスをもたらす。事件の謎そのものが魅力的なので、特異な世界観で繰り広げられるポリス・アクションと捉えて鑑賞してもまったく文句のない仕上がりだ。

 設定がリアル、ジュディが経験する苦難も生々しいので、印象もシリアス一辺倒になりそうだが、ファンタジー世界の魅力、楽しさを描くことも怠らず、しかもラストの余韻は清々しい。子供向けなどと侮ってはいけない、しかし夢も勇気もしっかり盛り込まれた、極上のエンタテインメントである。なまじっかの実写映画を観るよりも、遙かに濃厚な充実感を得られるはずだ。



関連作品:

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