『残穢 −住んではいけない部屋−』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、エントランスの階段下に掲示されたポスター。

原作:小野不由美(新潮社・刊) / 監督:中村義洋 / 脚本:鈴木謙一 / 企画&プロデュース:永田芳弘 / プロデューサー:池田史嗣 / 撮影:沖村志宏 / 美術:丸尾知行 / 照明:岡田佳樹 / 助監督:片桐健滋 / 音楽:安川午朗 / 出演:竹内結子橋本愛佐々木蔵之介、坂口健太郎滝藤賢一山下容莉枝成田凌、吉澤健、不破万作上田耕一 / 制作プロダクション:ザフール / 企画&製作幹事:Happinet / 共同幹事&配給:松竹

2015年日本作品 / 上映時間:1時間47分

第28回東京国際映画祭コンペティション参加作品

2016年01月30日日本公開

公式サイト : http://zang-e.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2015/10/25) ※第28回東京国際映画祭舞台挨拶付上映



[粗筋]

 小説家の私(竹内結子)は、怪談専門誌の連載のために、読者から体験談を募っていた。そんな中に、気懸かりな投稿が混ざっていた。

 投稿者の名は仮に久保さん(橋本愛)としておこう。大学で建築を学び、ミステリー研究サークルに所属する彼女は、マンションの単身者用の部屋を借りているが、そこで最近、奇妙な物音に悩まされているという。和室で、畳を箒で掃くような、サッ、サッ、という物音がしばしば聞こえてくる。和室のほうに視線を向けるとその物音はやみ、目を逸らすと、忘れた頃にふたたび聞こえだす。

 しばらくして、久保さんから届いた続報には、物音とともに、着物の帯らしきものが視界を過ぎるのを見た、とあった。そこから導き出されたイメージは、晴れ着姿の女性が首を吊り、その帯が床を擦る、というものだった。

 それだけならよくある怪談とも言える。だが、合理主義者である私には引っかかることがあった。久保さんによれば、彼女が暮らす岡谷マンションには、自殺はおろか、不動産業界で言う“事故物件”になるような事件の前歴は何もないのだという。つまり、怪談を成立させる要件に欠いているのだ。もし、いまの岡谷マンションに原因がないのだとすれば、マンションが建つ前――土地の前歴に、自殺を遂げた者がいたのか?

 私と久保さんは、因果関係を探るべく、土地の経歴について探り始めた。それが、どれほど根の深いものであったのか、このときの私たちには知るよしもなかった――



[感想]

 ホラー映画の理想型とは何か、と問われても、たぶん大抵の人は答えを持ち合わせていないはずだ。強いて言うなら、自身がいちばん好きなホラー映画を挙げるくらいしか方法はない。

 かくいう私も、「これこそ誰もを戦慄させる至上のホラー」と言える作品はさすがに挙げられないが、しかし私自身の理想なら説明できる。観ている者が、作中で描かれる恐怖を自らの身に迫りつつある、と感じさせれば、それが私の理想とするホラーだ。

 しばらく前までなら躊躇なく『ノロイ』という作品をいちばんに掲げていただろうが、本篇を観て以降は、このいちばんが怪しくなった――本篇こそ、私の理想と言えるかも知れない。

 本篇の語り口はまさに王道の“怪談文芸”を踏襲している趣だ。出所の不確かな伝聞ではなく、当事者から語り手に伝えられた、恐怖の体験を語る。それ自体はとてもささやかで、共存して生活することも出来なくはないが、まるで意識の襞をくすぐるような恐怖をもたらしてくるエピソードが点綴される。

 はじめは本当に些細な体験談が、しかし語り手の理知的な眼差しに照らされて、違和感を膨らませていく。通常の怪談話ならそれで終わりになるであろうものが、因縁を掘り下げていくことで、思わぬ展開を見せていく。その手管は謎解きのようだが、しかし辿れば辿るごとに事態は混迷に陥り、異様な気配を滲ませるのだ。

 怪奇現象自体はごく軽く思えるものばかりだが、積み重なることで、その奥にある闇の深さが恐怖をじわじわと掻き立てていく。闇から突如、異形の者が顔を覗かせて驚かされるようなことはほとんどないが、その分、本篇の恐怖はまとわりついてくる。しかもこれが、だんだんと他人事には思えなくなってくるから、尚更に怖い。

 本篇の凄みはまさに、この恐怖の近さにある。語られている異変のなかには、本篇の文脈に入っていなければ怪奇現象と捉えないような出来事も少なくないのだ。こういう家は近所にもある、こんなお年寄りは親戚にもいた、というくらい有り体の出来事に潜んでいるかも知れない闇。そのイメージが、物語を追うごとに観る側に迫ってくる。

 今となってはあまり顧みる人も少なくなっているように思うが、本篇の中村義洋監督は『ほんとにあった!呪いのビデオ』というシリーズの立ち上げに関わり、その基本を築くと共に、シリーズが65巻を数えたいまもナレーターの役割を務めている。つまりは、ホラーに対して造詣があり、ドキュメンタリータッチの描写の技術を備えているのだ。

 本篇は『〜呪いのビデオ』のようなスタイルこそ取っていないものの、取材で得られたエピソードを映像で再現しつつナレーションで情報を補う、という、やはりドキュメンタリーに近しいスタイルで進行する。どこで語るべきか、どこは映像だけで提示するのか、取材者が顔を出していいのはどこか――というのをしっかり計算して組み立てているので、物語構造自体が持つ論理的な面白さをより際立たせる。ジャンル的にはホラーだが、生半可なミステリ映画などよりもずっと謎解きの興趣を持ち合わせている――そして、だからこそ、紐解かれる背景が怖い。

 正直なところ、これ以上下手なことをくどくどと述べ立てるよりは、実際に観ていただいたほうがいいだろう。あまり深く想像しないひとにとっては、或いは「なにが怖い?」と不満を覚えるかも知れないが、ちょっとでも想像を逞しくすれば、これが極めて恐ろしい話だと気づくはずだ。

 本篇は作中の年代、綴られている期間、一部登場人物の設定など、恐らくは撮影上の都合から脚色が施されているが、ほぼ原作に沿っている、と言っていい。映像であるが故の語り口の違いはあれど、映像化としても理想的な仕上がりであり、あの恐怖に違うかたちで接したい、という奇特な方の願望にこの上なくしっかりと応えてくれるはずだ。



 ちなみに、本篇の原作には、怪談作家が実名で登場している。物語の進行に関わってくる重要人物であるため、映画にも登場しているが、いずれも名前や人物像は変わっている。原作を読んだうえで、なおかつそれぞれの作家の作風や人柄を思い浮かべて鑑賞すると、思わぬところで笑い出したくなる可能性はあるが、そこはまあ寛容に捉えたほうがいいだろう……平山夢明氏はあれより格段に毒があるし、福澤徹三氏など「どうしてこうなった?!」と言いたくなるくらいだけど。



関連作品:

Booth ブース』/『アヒルと鴨のコインロッカー』/『白ゆき姫殺人事件』/『ラストシーン

ステキな金縛り』/『アナザー Another』/『超高速!参勤交代』/『捨てがたき人々』/『キャタピラー』/『まぼろしの邪馬台国』/『12人の優しい日本人

呪怨』/『ノロイ』/『怪談新耳袋 異形』/『ほんとにあった!呪いのビデオ55』/『劇場版 稲川怪談 かたりべ