『ブラック・シー』

新宿武蔵野館、エレベーター前に掲示されたポスター。

原題:“Black Sea” / 監督:ケヴィン・マクドナルド / 脚本:デニス・ケリー / 製作:チャールズ・スティール、ケヴィン・マクドナルド / 製作総指揮:テッサ・ロス、テレサ・モネオ、メルヴェ・ハルザディン、ジム・コクラン / 撮影監督:クリストファー・ロス,BSC / プロダクション・デザイナー:ニック・パルマー / 編集:ジャスティン・ライト / 衣装:ナタリー・ウォード / ヘア&メイクアップ:マレーズ・ランガン / キャスティング:ニナ・ゴールド / 音響編集&デザイン監修:グレン・フリーマントル / 音楽:イラン・エシュケリ / 出演:ジュード・ロウスクート・マクネイリーベン・メンデルソーン、デヴィッド・スレルフォールコンスタンチン・ハベンスキー、セルゲイ・プスケパリス、マイケル・スマイリー、グリゴリー・ドブリギン、セルゲイ・ヴェクスラー、セルゲイ・コレスニコフ、ボビー・スコフィールド、ジョディー・ウィットテイカー、トビアス・メンジース、カール・デイヴィース、ダニエル・ライアン、ブランウェル・ドナヒー / 配給:Presidio

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:神田直美

2015年8月15日日本公開

公式サイト : http://blacksea-movie.net/

新宿武蔵野館にて初見(2015/08/15)



[粗筋]

 ロビンソン(ジュード・ロウ)は11年にわたって勤務した会社から解雇を言い渡された。軍に所属していた頃から海洋サルベージの専門家として働いてきたが、既に会社は彼の存在を必要としなくなっている。ずっと海を職場としてきた男は、陸では転職の目処も立たない。

 そんな彼に、かつての仕事仲間であるカーストン(ダニエル・ライアン)が一攫千金の話を持ちかけてくる。第二次世界大戦中、ドイツは資金の隠匿のために、ロシアから莫大な金塊を購入する。だが、その金塊を乗せたUボートは、黒海グルジア沖に沈没した。近年になって、ロビンソンの勤務していた会社が引き上げの計画を立てたが、認可の問題により、現在棚上げとなっている。この隙に、財宝をかすめ取ることが出来ないか……?

 仕事に没頭するあまり妻と息子に去られ、いまや職も失ってしまった。カーストンだけでなく、ブラッキー(コンスタンチン・ハベンスキー)ら他の同業者たちも食うに困り、不向きな仕事で日銭を稼いでいる。もしこの金塊を手に入れることが出来れば、落ちぶれるだけの人生から脱出できる。

 ロビンソンはカーストンから紹介されたダニエルズ(スコット・マクネイリー)という男を介して、引き揚げに必要な潜水艦や資金の調達を行うと、かつての仲間や、伝手を頼って見つけたロシア系の航海士を雇い、現地へと赴く。

 出発間際になって、話を持ち込んだカーストンが自殺し、人手が足りなくなって、カーストンの自宅で出会ったトビン(ボビー・スコフィールド)を急遽迎え入れたことに加え、調達された潜水艦の老朽ぶりに、仲間たちは顔をしかめたが、潜水艦は問題なく潜航した。

 しかし、出航間もなく、はぐれ者の寄せ集めであるが故の問題が噴出し始める。既に後戻りは出来ない。男達は一攫千金の夢を託し、深海へと進む――



[感想]

“潜水艦映画にハズレなし”とは本篇の売り文句の一部である。私自身は数えるほどしか“潜水艦映画”と呼べるものは観ていないが、しかし咄嗟に名前を挙げられる『クリムゾン・タイド』や『ビロウ』は確かに良作だった。

 大きなポイントは、こうした作品がまず密室ドラマの要素を持っていることにある。周りを大量の水に囲まれ、脱出する術は極めて限られる。任務のあいだ、好むと好まざるとに拘わらず、同じ人間と顔を突き合わせ、共同生活をしなければならない。そこには否応なしに緊張が生まれ、場合によっては生命のやり取りに発展することだってあり得る。

 しかも、潜水艦のような物々しい構代物を稼働させるからには、乗員は必ず何らかの任務を帯びている。潜水艦という性質上、概ね極秘裡に運ぶことが求められる使命は、その実行自体にもサスペンスの要素が加わるわけだ。むろんシナリオや演出の不手際により効果を上げないことも考えうるが、よほどの凡手でなければ失敗の可能性は低い。

 その点、本篇を手懸けたケヴィン・マクドナルド監督は、実話をベースにした『ラストキング・オブ・スコットランド』を重厚感に富んだサスペンスに仕立て、フォレスト・ウィテカーの役柄にオスカーをもたらしたほどだ。観る前からアタリくじが期待できる作品だった。

 注目すべき点として、本篇が潜水艦を題材とした映画としては珍しく、戦争を背景としていないことが挙げられる。大戦中にドイツが失った金塊が狙いであり、男たちが目をつけた理由には国家間の綱引きが関わっていたりもするが、舞台となる潜水艦が戦いに身を投じるわけではない。そもそも戦闘能力の所在さえ怪しい。

 早い話が本篇の主眼は“宝探し”だ。緊張の続く国境の海に潜行し、財宝を見つけ出す。しかし、こうした制約が、戦争をモチーフとした潜水艦映画に劣らぬ緊迫感を生み出す。艦内でどれほどいざこざが起きたとしても、近海を航行する戦艦などに狙われぬためには、揃って息を潜めねばならない。これは戦時下の物語でも一緒だが、対抗手段を持たない潜水艦では尚更に警戒が必要となる。

 この作品では更に、民間人が何とか得た資金をもとに遂行する計画であるが故の制約もある。資材は限られ、問題が発覚したとしても、手持ちの物資や乗員の能力で補わねばならない。非常事態が発生しようと、助けを呼べば全てが破綻する。まさに背水の陣である――この慣用句が生易しく響くくらいに。

 本篇の場合、「どうしてそこまでするのか?」という当たり前の疑問からしっかり裏打ちすることで、潜水艦内でのサスペンスを醸成すると同時に、登場人物のドラマをも上乗せしている。焦点はほぼ主人公であるロビンソンに合わせられているが、彼のみならず、参加した乗員はみな、それぞれの事情により食うや食わずや、という状況に追い込まれている。だからこその必死さであり、剣呑な雰囲気になっても妥協点を探ろうとし、ギリギリまで踏み留まろうとするのだ。密室だから、というのもあるが、そればかりではないからこその奇妙な軋轢や駆け引きもあって、地上で繰り広げられるドラマとは異質な面白さが横溢している。

 けっきょく最後まで悲惨なまま、とも言えるし、誰もが私利私欲で動いているが故に、印象は醜い。それ故に、観終わっても爽快感が得られない、と否定的な評価を下す人もあるかも知れない。だが、これほど壮絶な状況に陥ってもまだ辛うじて留めていた人間性と矜持がもたらすラストは、ある意味では清々しいとも言える。

 作中、極限状態で登場人物たちが示す“狂気”に少しでも共感できるか否かがポイントだろうが、自分の人生に多少なりとも行き詰まりを感じているひとなら、本篇で描かれる緊張状態に振り回されるに違いない。そして、その果てに辿り着いた境地には何かを感じるはずだ。

 物語そのものに教訓じみたものはないが、それでも確かに観ている者の心を揺さぶらずにおかない、重厚感に富んだエンタテインメントである。



関連作品:

ラストキング・オブ・スコットランド』/『消されたヘッドライン』/『LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』/『アンナ・カレーニナ』/『サイド・エフェクト』/『フライト・ゲーム』/『ジャッキー・コーガン』/『デスドール』/『ウォンテッド

戦略大作戦』/『ゴーストシップ』/『ビロウ』/『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密