『ピアノ・ブルース』

ピアノ・ブルース [DVD]

原題:“Piano Blues” / 監督:クリント・イーストウッド / 製作:クリント・イーストウッド、ブルース・リッカー / 製作総指揮:ジョディ・アレン、ポール・G・アレン、マーティン・スコセッシ / 撮影監督:ヴィク・ロシック / 編集:ジョエル・コックス、ゲイリー・ローチ / 出演:レイ・チャールズデイヴ・ブルーベックドクター・ジョン、マーシャ・ボール、パイントップ・パーキンス、ジェイ・マクシェン、ピート・ジョリー、クリント・イーストウッド / 映像ソフト発売元:日活

2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:石田泰子

日本劇場未公開

2005年3月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|ブルース・ムーヴィ・プロジェクト・コンプリートBOX:amazon]

公式サイト : http://www.blues-movie.com/ ※閉鎖済

DVD Videoにて初見(2015/06/04)



[粗筋]

 スタジオでクリント・イーストウッドが出迎えたのは、伝説のレイ・チャールズ。ピアノに向かい腰掛けた伝説の男に、イーストウッドは音楽に触れた原点を問いかける。

 このアメリカのみならず、世界中に影響を与えたミュージシャンの始まりも、ごく単純だった。まだピアノを学び始めたばかりの隣人が弾く音色に魅せられ、指1本での演奏から学んでいったのだという。イーストウッドも共感する。多くの優れたブルースのピアニストにインタビューを行ったが、みな音楽との出逢いは家族や隣人がきっかけになっていた。

 デイヴ・ブルーベックにマーシャ・ボールらと接し、そして自らのスタジオにはドクター・ジョンを始め3人のブルース奏者を招き、音楽体験の原点を訊ねる。往時の大スター、名演奏者の名前を掲げ、そのフレーズを再現する彼らの眼差しは、一様に活き活きとするのだった……



[感想]

 2003年、マーティン・スコセッシの監修により製作された、ブルースをテーマとしたドキュメンタリー連作の1本である。それぞれに異なる監督が、別の切り口で音楽について検証するスタイルで製作されたが、ジャズに造詣が深く、映画のスコアを自ら手懸けているクリント・イーストウッドは、ピアニストを中心に据えて語っている。

 ドキュメンタリーと言い条、本篇にあまり堅苦しさはない。イーストウッド自身のナレーションで幕を開ける本篇は、まずレイ・チャールズの来訪と、レイの音楽との出逢いを問いかけるところから始まる。巨人に似つかわしくないほどの素朴な“音楽との邂逅”のエピソードに、そこで登場する往年のミュージシャン達の演奏風景を織り込み、テンポ良く綴っていく。

 それぞれの演奏家達が刺激し合う様子や、それぞれが影響を受けたミュージシャンの共通項を辿る形にすれば、ブルースというものの歴史を俯瞰することも出来たかも知れないが、本篇ではそうしていない。スター同士の壮大な交遊録にしてしまわず、皆が素朴な出逢いから音楽に接し、家庭の事情にちょっと悩まされつつも、当たり前のように音楽にどっぷりと浸かっていったことを汲み取っていく。

 ドキュメンタリー、というくくりから、もっと真面目な検証を期待していると非常に物足りない作りだし、イーストウッド監督の映画としても、音楽を用いているだけにテンポはいいが、内容的に起伏は乏しいのでインパクトも薄い。しかし本篇は、どれほど優れた演奏家であろうと始まりはシンプルであり、素朴な憧れから始まっていることが実感できる。大成するまでには苦労があり、スターダムにのし上がった人々にも多くの悩みはあったはずだが、本篇にはそんなこととは無縁の、音楽を始めたときの喜び、演奏することの楽しさだけが横溢している。

 イーストウッド監督には珍しい(私の知る限り唯一の)ドキュメンタリーだが、そこであえて身構えることなく、音楽の喜びだけを切り取ったのは、イーストウッド自身が心底音楽を愛しているからこそだろう。恐らくイーストウッドにとってブルース以上に馴染み深いジャズとも繋げる最後の語り口がちょっと強引に思えるが、それもまたご愛敬の、快い“音楽談義”である。イーストウッドと共に、歴戦のミュージシャンの演奏に接している気分を味わえる。



関連作品:

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