『スペシャルID 特殊身分』

新宿武蔵野館、奥の喫煙スペース脇に展示された等身大ポップと木人。 スペシャルID 特殊身分 [Blu-ray]

原題:“特殊身分” / 監督:クラレンス・フォク / 脚本:セット・カムイェン / 製作:ピーター・パウ、ドニー・イェン / 製作総指揮:ルー・チェン、ハン・サンピン / 撮影監督:ピーター・パウ(HKSC) / 美術:リン・ムー / 編集:チャン・カーファイ / スタント・コーディネーター:谷垣健治、ヤン・ホア、ジョン・サルヴィッティ / 音楽:ドウ・ポン / 出演:ドニー・イェン、アンディ・オン、ジン・ティエン、ロナルド・チェン、コリン・チョウ、テレンス・イン、パウ・ヘイチン、チャン・ハンユー、イン・チーガン、ケネス・ロー、ン・チーホン、マク・チョンチン / 配給:彩プロ

2013年中国、香港合作 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:加藤正純

2015年2月21日日本公開

2015年6月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.specialid.ayapro.ne.jp/

新宿武蔵野館にて初見(2015/02/28)



[粗筋]

 ロン(ドニー・イェン)は雀荘で、一触即発のゲームに臨んでいた。捕らわれた舎弟達を連れ戻すためだったが、結果として大きな揉め事に発展し、ロンはボスのホン(コリン・チョウ)から叱責される。

 実はロンは、香港警察の警官である――喧嘩っ早い性分故に正式な起用はされず、潜入捜査官としてホンの部下になったのだ。以来8年、いまではホンの信頼をかなり獲得しているが、それ故に危険も多く、そして本来の職務に対する羨望をも募らせている。

 そんな矢先、ロンはホンから、人捜しを命じられる。ロンにとっても義兄弟にあたるサニー(アンディ・オン)がホンの部下クン(マク・チョンチン)と共に薬物の取引に携わっていたのだが、クンが殺害され、肝心のブツも行方不明となっていた。ホンはロンに、サニーを探し出し、連れてくるように命じたのだ。

 一方で、クンの死は警察でも殺人事件として扱っており、他にも恐喝事件の容疑がかかっているサニーを追っていた。ロンと警察とのパイプ役を務めているチャン警部(ロナルド・チェン)は、ロンにサニーを確保させるために、ホンの命に従い中国本土に飛ぶよう要請する。

 かくしてロンは、潜入捜査官として組織に潜りこみながら、中国公安の助力を得られるように、“特殊身分”を与えられて、事件の舞台である広東省南海市に赴く。現地の女性刑事ジン(ジン・ティエン)と共に、サニーが身を寄せるレストランに向かうが、そこでいきなり彼らはトラブルに遭遇する……



[感想]

 先に言っておくが、面白い作品なのだ。香港映画人たちのソウルが漲る、重みと熱さのあるアクション映画には違いない。

 ただ、最近の作品としては、思いのほかシナリオが粗い。いちおうは筋を通してあるが、エピソードのひとつひとつが綺麗に繋がっていない気がする。主人公の背景などはしっかりしているし、複数の思惑が入り乱れることでアクションとドラマが緊密に絡んでいくように仕組んでいるのだが、事態が交錯するごとにその目的が解りにくくなり、動きは激しいが、悪い意味で目的が見えなくなってしまう。そのために、アクションの凄まじさのわりには、決着が印象に残らず、個々の場面でのカタルシスが不充分になっている。

 どうしてなのか、は鑑賞後、プログラムを読んで得心がいった。本篇は完成までに辿った紆余曲折が入り組んでいるのである。

 もともとはドニー・イェンジャッキー・チェンの本格的共演作として企画されたが、ジャッキーが参加不能となり、当初予定されていた監督もプロジェクトを離脱、内容の変更などを経てようやくこのスタッフと内容に落ち着いたが、その後も制作が捗らず、契約終了で離脱した監督に代わってドニーや、『るろうに剣心』のアクション監督を手懸けたことで日本でも名を知られるようになった谷垣健治らが自らカメラを回してアクションシーンを追加していたという。

 恐らく、全体を完璧にコントロール出来た人物はいなかったのではなかろうか。ドニー・イェンを軸としたアクション、という部分があり、本人のこだわりもあってそこに芯を通すことは出来たが、如何せん物語として焦点がブレているのは、こうした点に起因しているのだろう――脚本を担当しているセット・カムイェンはジョニー・トー監督の名作『エグザイル/絆』のほか、ドニー・イェンの代表作といえる『導火線 FLASH POINT』も手懸けており、アクションとドラマのバランスを取る技術はあるはずだが、それもこれもやはり監督の舵取りが明確であることが条件なのかも知れない。

 とはいえ、そこはさすがに現在、最も精力的に活動するアクション俳優ドニー・イェンとそのチームの作品なだけあって、カタルシスが乏しいとは言い条、アクションそのもののアイディアと迫力については申し分ない。一対多の悪条件を克服するために、建物の構造を利用してひとりひとり孤立させて倒していくくだりや、激しくぶつかり合う乗用車のなかで繰り広げるアクションはその発想自体にも唸らされるし、こうした過程を経て始まる最後の剥き出しの殴り合いは、映像的な見映えを追求しながらも、生々しいインパクトに満ちている。正直なところ、物語の展開など無視して、こうしたアクションシーンだけ羅列されたほうがいい、と思うくらいクオリティは高い。

 全体の舵取りがうまく行われなくなった結果、アクションの濃度が高まり、また同時にもともと強いドニー・イェンナルシシズムがより直接的に盛り込まれてしまったため、ドニーの“オレオレ感”とでもいうべき雰囲気が横溢してしまったが、それ故に却って、彼のアクションに魅せられた人間には楽しい1本であるには違いない。プロット自体には企みがあっただけに、ストーリーとしての味わいもきっちり活かしてくれれば、と惜しまれるが、ドニーと彼のスタッフの才能を窺い知るには充分な出来映えだろう。



関連作品:

SPL/狼よ静かに死ね』/『導火線 FLASH POINT』/『ヒーロー・ネバー・ダイ』/『エグザイル/絆』/『アクシデント

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