『ある優しき殺人者の記録』

アップリンク、カウンター脇に掲示されたチラシ。

監督、脚本、撮影&出演:白石晃士 / 製作:紀嘉久 / 製作総指揮:杉原晃史 / 撮影:ソン・サンジェ / 照明:イ・ソンファン / VFX:株式会社アイズ / 出演:ヨン・ジェウク、キム・コッピ、葵つかさ米村亮太朗、パク・ジョンユン / 配給:テイ・ジョイ×日活

2014年日本、韓国合作 / 上映時間:1時間16分 / R15+

2014年9月6日日本公開

2015年5月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://satsujinsha-kiroku.jp/

アップリンクXにて初見(2014/12/26)



[粗筋]

 ジャーナリストのキム・ソヨン(キム・コッピ)は、韓国語を解する日本人カメラマン田代(白石晃士)を伴い、ある廃ビルへと赴く。

 そこで彼女を待っていたのは、障害者施設から逃亡していた連続殺人犯パク・サンジュン(ヨン・ジェウク)であった。ナイフを片手に「カメラを止めたら殺す」と脅しながら、パクは殺人の動機を語り始める。

 パクは何故、18人ものひとびとを手にかけたのか。そして何故、わざわざ幼馴染みのキムを招いたのか。彼が語った“真実”はあまりに異様なものであり、これから為そうとしていたことは、更に壮絶なものだった……。



[感想]

 白石晃士は間違いなく、世界的に見ても唯一無二の個性を持つ監督、と言っていいだろう。これほどまでにフェイク・ドキュメンタリーの手法にこだわり、突き詰めている人物を、寡聞にして私は知らない。

 古くは『食人族』に端を発する、とも言われるこのスタイルは、『ブレアウィッチ・プロジェクト』から『パラノーマル・アクティビティ』を経て定着したが、基本的にはホラーで用いられることが多い。中には『クローバーフィールド/HAKAISHA』、『クロニクル』のように別ジャンルでの快作も存在するが、しかしいずれも他の手法でも撮る監督が作品のためにあえて選択した手法、というだけで、決してP.O.V.のみに拘っているわけでもない。

 白石監督もまた、決してこのスタイルのみで撮っているわけではないが、その趣向の掘り下げ方、拡張ぶりは他の映像作家の比ではない。未だにフェイク・ドキュメンタリーのホラーとして世界的に見ても稀有な傑作として君臨する『ノロイ』のあと、のちに一世を風靡するアイドルを活かすための方法としてフェイク・ドキュメンタリーを敷衍した『シロメ』、ヴァイオレンスやエロスの表現として応用した『バチアタリ暴力人間』や『超・悪人』など、起点はホラーにあることを匂わせつつ徹底的に追求してきた。

 近年はDVDとしてリリースされた『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズにおいて、ホラーとしてのフェイク・ドキュメンタリーの極北を目指している感のあった白石監督だが、2014年に発表した本篇は、その反対側の極を目指した作品、といえるのではなかろうか。

 冒頭から、本篇は異様な緊張感が持続する。18人もの人間を殺害した男と、わずかふたりで対峙する。ちょっとでも刺激すれば、次の被害者は撮影者たちになるのかも知れない。しかも、犯人の語る内容は常軌を逸しており、とうてい承服しがたいものだ。インタビュアーは、かつての友人として犯人を止めるのか、或いは巻き込まれていくのか。

 だが、物語はどんどん、おそらくはほとんどの観客が体験したことのない領域に踏み込んでいく。心を病んだ者の妄言としか思えなかった犯人の言葉が次第に重みを帯びていき、従うのか従わないのか、という揺さぶりが繰り返される。更に、粗筋で記した出来事のあとで登場する日本人のカップルがより激しい波紋を生むのである。

 ここで描かれるのは単なる暴力だけではない。にわかに生々しいエロスまでが閃く。一見、俗っぽい受け狙いにも思えるこの要素は、しかし物語が宿す熱量、圧倒的な生命力とでも言うべきものを増幅している。どちらに傾くか解らない緊張感のなかだからこそ迸る衝動が、暴力やエロスとして象徴的に発露している感がある。実のところ、暴力描写としてもエロティックな表現にしても、白石監督としてはまだ控えめな印象はある――それは本作が韓国との合作であり、他の作品と比べてメジャーな配給会社からリリースされていることと無縁でないかも知れない。表現に容赦のない監督といえども、ある程度の配慮は余儀なくされている、というところだろうか。

 だが、そうして少しだけ(あくまで白石監督の作品としては、だが)表現を柔らかくしても、牽引力を損なっていない。それは監督が自らのスタイルを完成させている証だ。多少、描き方を柔らかくしても、狂気の表現や特徴ある“異形”など、監督の作品を魅力的にしているモチーフを絶妙に鏤めていくことで、効果を高め作品としての完成度に繋げている。

 そして恐るべきは、この凶暴な物語が最後には本当に殺人者の“優しさ”を感じさせる、心揺さぶる着地を見せてしまうのだ。すべてが彼の思い込みだったら、という恐怖が、作品を鑑賞している観客のみならず、当人にもあったはずで、それが却って歯止めを効かなくした、とも考えられるが、随所で殺人者が見せた“狂気”が、美しい“覚悟”へと反転してしまう終焉は忘れ難い。その行動の是非を問うのとはまるで別次元の衝撃、感動的が待ち受けている。

 いわゆるフェイク・ドキュメンタリーの手法で描かれる本篇だが、同様の趣向のなかでも特に厄介なワンカットで描かれていることも重要だ。あらゆる出来事を地続きにするにはうってつけだが、撮影に携わるひとびとの緊張は半端ではない。無論、編集や加工によってある程度の誤魔化しはあるのだろうが、そのぶん、長回しであっても変に筋がだれない工夫、物語の緊密さが求められる。本篇がまったく中弛みすることなく力強さを維持しているのは、驚くべきことなのだ。

 白石監督が本篇を発表した2014年度、アカデミー賞作品賞に輝いたのは奇しくも、様々な工夫を用いて全篇通してほぼワンカットという長尺の長回しに擬する手法を用いた作品だった。あちらもその意欲は素晴らしいが、しかしより低予算、限られたキャラクターと舞台で、更にストイックに突き詰めていった本篇は、そんな今だからこそ注目されて然るべき作品だろう。



関連作品:

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版

ノロイ』/『裏ホラー』/『オカルト』/『シロメ

ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』/『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE2』/『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』/『グロテスク

食人族』/『邪願霊』/『クローバーフィールド/HAKAISHA』/『85ミニッツ PVC-1 余命85分』/『パラノーマル・アクティビティ』/『第9地区』/『トロール・ハンター』/『容疑者、ホアキン・フェニックス』/『グレイヴ・エンカウンターズ』/『バーニー/みんなが愛した殺人者』/『クロニクル』/『劇場版 稲川怪談 かたりべ』/『超能力研究部の3人

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