『幕が上がる』

TOHOシネマズ西新井、施設外壁に掲示されたポスター。

原作:平田オリザ(講談社文庫・刊) / 監督:本広克行 / 脚本:喜安浩平 / 製作:石原隆、遠藤茂行、加太孝明、中村理一郎、鈴木伸育、山崎浩一 / 撮影:佐光朗(JSC) / 照明:加瀬弘行 / 美術:禪洲幸久 / 装飾:鈴木仁 / 編集:岸野由佳子 / スタイリスト:新崎みのり / ヘアメイク:楮山理恵 / 録音:加来昭彦 / 音楽:菅野祐悟 / 主題歌:ももいろクローバーZ『青春賦』 / 出演:百田夏菜子玉井詩織高城れに有安杏果佐々木彩夏黒木華ムロツヨシ志賀廣太郎清水ミチコ天龍源一郎内田春菊辛島美登里松崎しげる笑福亭鶴瓶 / 制作プロダクション:ROBOT / 配給:T-JOY

2014年日本作品 / 上映時間:1時間59分

2015年2月28日日本公開

公式サイト : http://www.makuga-agaru.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2015/03/02)



[粗筋]

 冬。高橋さおり(百田夏菜子)たち富士宮高校演劇部の1年は、地区予選敗退であっさりと幕を下ろした。

 この敗退で3年生は引退となり、さおりたち2年生が部の中心となる。新たな部長に選ばれたのは、さおりだった。

 もともとさおりは、幼馴染みのユッコ(玉井詩織)の付き添いで演劇部を見学し、成り行きで入部している。負けず嫌いだが芝居が好きで入ったわけではなく、何の展望もない。だがユッコや同級生のがるる(高城れに)、1年後輩の明美(佐々木彩夏)たちはあっさりとさおりに判断を任せてきた。毎日、何の稽古をすればいいのかさえ解らず、ひとまずは『ロミオとジュリエット』を採り上げる。

 やがてやって来た春、新入生相手のオリエンテーションに、演劇部は『ロミオとジュリエット』からの抜粋をかけたが、反応は悲惨なものだった。

 弱小部である演劇部は特定の部室を持っていない。新入部員がいなくとも、稽古場を確保する必要があった。間借りするために訪れた美術室で、だが思わぬ出逢いがさおりたちを待っていた。信任の吉岡先生(黒木華)はさおりたちに、練習の材料として、自分自身の経歴や思いを語る『肖像画』という題材を提案したのだ。

 思いがけない話に、負けず嫌いの性格と、不本意な出来事の連続に鬱屈していたさおりは、「先生がやってみて下さい」と八つ当たりする。だが、そんなさおりの前で、吉岡先生は見事な“演技”を披露する。

 ネットの情報によれば、吉岡先生はかつて“学生演劇の女王”と呼ばれた、立志伝中の人だった。演劇部には既に顧問がいるが、さおりたちは吉岡先生に指導を願い出る――



[感想]

 ももいろクローバーZには、本格的に活躍を始める直前、まだ6人編成で“Z”がついていなかった時期に、『シロメ』という主演映画がある。白石晃士監督がフェイク・ドキュメンタリーの手法を援用し、脚本を演じさせるのではなく本当に心霊スポットを訪問するのだ、という状況を信じ込ませることで、彼女たちの自然なリアクションを汲み取り、観ている側が怖いか、はさておき、表情に説得力のあるホラーに仕上げられていた。このフェイク・ドキュメンタリーの手法を徹底的に掘り下げ、今や特異な地位を確立した感のある白石監督のフィルモグラフィでも異彩を放つ1本となっている。

 だが、あの作品の魅力は彼女らの素に近く、演技を見せる、という趣向ではなかった。まだ世間的な知名度も低かった当時は、その趣向のユニークさを含めて注目を集める好材料となっただろうが、2015年のいま、彼女たちは間違いなく日本のトップアイドルに位置している。新たに映画を撮るとするなら、趣向だけで関心を惹くことは出来ないだろう。或いは彼女たち自身、“『シロメ』で見せたのは演技ではない”という未練を残していたのかも知れない。だからこそ、舞台に精通した人物の原作を得、丹念なワークショップを経て撮影に臨む、という手間を費やしてまで本篇に挑んだのではなかろうか。

 アイドル映画っぽい華やかさ、遊びを留めつつも、本篇の“演技”は非常に本格的だ。それは作品そのものも然りながら、作中で描かれる、登場人物たちの“演技”も同様なのである。語られる演技の“個性”が舞台、というより稽古のなかで再現され、彼女たちの悩みや出来事に結びつき、説得力をもたらす。だからこそ、“慣れない演技に苦心するアイドル”ではなく、それぞれのスタンスで学生演劇に向き合う少女たち、というドラマが成り立つ。作品の求めるものに、しっかりと演技で応えている、と言えるのだ。

 アイドル映画を“アイドルとしての魅力を充分に引き出す映画”と解釈するなら、本篇は決して満足のいく内容ではないだろう。ももいろクローバーZの楽曲がいいところで使われ、百田夏菜子を主人公にしつつもメンバーそれぞれに見せ場を与えているが、恐らく充分とは言いがたい。最終的に彼女たち5人が中心になっているものの、5人での絡みと呼べる部分が少ないのも物足りなさに繋がりそうだ。

 しかし、本篇にはももいろクローバーZの5人が現在の地位を築き上げるに至ったひたむきさがしっかり詰まっている。それぞれによく練られた芝居で完成度を高めたキャラクターたちの表情ひとつひとつに努力が偲ばれ、そのキャラクターたちの努力や苦悩もまた当人たちを彷彿とさせる。アイドルとしての姿を強調しすぎていないが、中心5人の行動、表情ひとつひとつに“ももいろクローバーZ”がちらつく。演じているのは、演劇に打ち込む高校生たちだが、その造形、演技の性質がはっきりと“ももクロ”としての彼女たちを感じさせるのだ。穿った見方をすれば、黒木華が演じる、演劇部を導いた吉岡先生のキャラクターや彼女が辿る経緯でさえ、往年のファンにとって感慨深いものがあるのではなかろうか。

 そうした“ももクロ”の使い方、活かし方も巧いが、そのうえで青春ドラマとして実に丁寧にツボを押さえた構成になっていることも本篇の美点だ。もともと演技に熱心でなかったのに、気づけば部長として部活を仕切らねばならなくなったさおり。生来の責任感ゆえに自力で何とか部をもり立てようとするがままならず味わう無力感。吉岡先生の登場によりようやく軌道に乗せるが、そんな中でも才能に恵まれた幼馴染みや、いちどは演劇を離れようとした転校生らに対する複雑な想いが交錯したりする。一連の流れがスポーツものドラマの定石に倣っている、という指摘があるようだが、確かにそういう趣がある。

 違うのは、勝ち負けに拘るだけの描き方をせず、芝居というものに真摯に向かい合う喜びをうまく抽出していることだろう。もしもっと勝ち負けに拘った内容にしていたら、本篇の印象はもっとギスギスとしたものになっただろうし、芝居に対する要求がいたずらに大きくなり、不充分であれば間違いなく批判を受けただろうし、完璧であったとしても窮屈な仕上がりになっていたと思われる。だが、演じること、自己表現へのひたむきさをこそ主題にしたから、本篇は清々しい。題名通り、本番の舞台の幕が上がった瞬間のカタルシスが素晴らしいのだ。

 純粋にアイドル映画として鑑賞すると、もうちょっと華が欲しい、という印象を受けるかも知れないし、芝居を扱うなら更に完璧な仕上がりが欲しかった、という意見もあるだろう。だが、完璧ではなくても真っ向から向かい合う姿の爽やかさ、美しさを切り出した本篇は、インディーズから地道に努力を重ねてきた“ももいろクローバーZ”というアイドルの魅力を存分に詰め込んだ作品であり、勝ち負けを超えた快さを描き出した優れた青春映画である。今後も彼女たちが揃って主演を務める映画は作られるかも知れないが、本篇は青春映画の秀作として、彼女たちの名前と共に記憶される、と私は信じて疑わない。



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