『NY心霊捜査官』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン1の前に掲示されたポスター。

原題:“Deliver Us from Evil” / 原作:ラルフ・サーキ&リサ・コリアー・クール『エクソシスト・コップ NY心霊事件ファイル』(講談社・刊) / 監督:スコット・デリクソン / 脚本:スコット・デリクソン、ポール・ハリス・ボードマン / 製作:ジェリー・ブラッカイマー / 製作総指揮:マイク・ステンソン、チャド・オマン、ポール・ハリス・ボードマン、グレン・S・ゲイナー、ベン・ウェイスブレン / 撮影監督:スコット・キーヴァン / プロダクション・デザイナー:ボブ・ショウ / 編集:ジェイソン・ヘルマン / 衣装:クリストファー・ピーターソン / 音楽:クリストファー・ヤング / 出演:エリック・バナエドガー・ラミレスオリヴィア・マンショーン・ハリス、ジョエル・マクヘイル、クリス・コイ、ドリアン・ミシック、マイク・ヒューストン、オリヴィア・ホートン、ダニエル・サウリ / 配給:Sony Pictures Entertainment

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:伊原奈津子 / R18+

2014年9月20日日本公開

2015年2月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.invocamus.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2014/10/16)



[粗筋]

 ニューヨーク市警で刑事として奉職するラルフ・サーキ(エリック・バナ)には変わった能力があった。巡回しているときに、事件を嗅ぎつける直感に優れており、彼が怪しんだ場合はたいてい何らかのトラブルが発生している。

 その晩、サーキと相棒のバトラー(ジョエル・マクヘイル)が遭遇した事態は特に異様だった。若い母親ジェーン(オリヴィア・ホートン)が突然、赤ん坊をライオンの柵に放り込んだというのだ。錯乱したジェーンを確保する一方、サーキは現場にいた男に着目する。あの非常事態にも拘わらず、平然と壁のペンキ塗りをしており、追ったサーキに対して、ライオンをけしかけるかのような振る舞いをした男。しかも男はサンティノ(ショーン・ハリス)と言い、ジェーンとは旧知の間柄だった。何故サンティノは、ジェーンの凶行を傍観していたのか?

 だが、サーキが遭遇した異常は他にもあった。状況を確認するために、サンティノの姿が映った監視カメラ映像を確認していたとき、異様な映像が紛れ込んだ。だが、相棒のバトラーらは気づく様子がない。

 サーキたちはサンティノらの周囲を探るが、彼らの周囲では怪事が相次いでいた。サンティノと共に塗装業を営んでいたパートナーは、仕事先の地下室の天井裏で謎の死を遂げており、塗装したペンキの下には謎の文面が書き連ねてあった。

 いったいサンティノたちの周りでは何が起きているのか? 言いようのない不安を覚えるサーキに接触してきたのは、ジェーンの身元を確認した神父のジョー・メンドーサ(エドガー・ラミレス)だった――



[感想]

 この物語、驚くべきことに実話らしい。元警察官の実体験をまとめた書籍がベースとなっているそうだ。

 とは言うものの、しかし本篇を鑑賞するうえで、これが実際の出来事か否か、というのは正直どうでもいい。評価すべきは過程のリアリティであり、ホラー映画においても稀なインパクトを誇る“悪魔祓い”のシークエンスであり、それらが現実をなぞっているか、どの程度原作に忠実か、なんてことは、恐らくよほど原作に心酔しているひとでもなければ気にならないはずだ。

 そもそもスコット・デリクソン監督は注目されるきっかけとなったのが、やはり実際に行われた、といわれる“悪魔祓い”に関連した裁判をモチーフにした『エミリー・ローズ』という作品だった。本篇に先駆けて発表した『フッテージ』は日本産のホラー映画にオマージュを捧げた完全オリジナルだった。つまり、実話を題材にしようが、実話に一切触れまいが、変わることなく優れたホラー作品を撮れることは証明済、と言っていい監督である。

 この2作品を通して、その技術を研ぎ澄ませたであろう監督は、その蓄積を充分に本篇で活かしている。

 序盤はオーソドックスな警察ものの趣だが、そこにところどころ、現実離れした要素が介入する。段階的に、人智の及ばない領域のものを主人公が認識し、それと対峙することを余儀なくされる。なまじ、序盤の語り口が堂々たるだけに、常識では如何ともし難いものがある、というのが伝わりやすい。超現実を観客に浸透させるには、足場になる現実をきちんと見せなければならない、という基本をしっかり押さえている。そこに、さながらサイコ・スリラーのような要素が紛れ込み、いつの間にか超現実の世界導かれてしまう。既に堂々たる手管だ。

 ホラーと言い条、本篇は異様な雰囲気をたたえつつも、それがオカルトなのか、現実の狂気なのか、という点についてあえて疑問符を残しながら描いている。明確でないからこそ異様さが引き立ち、直接的に“怪異”が立ち現れるよりもひしひしと迫る怖さがある。もしかしたら実際の出来事に依拠しているお陰なのかも知れないが、旧作の質の高さを併せて考えれば、恐らく効果を承知の上でそうして演出しているのだろう。

 段階的に不可解さを帯びてきた事件は、視点人物たるサーキの過去をも掘り返しながら、終盤にかけて異様さと凄惨さを募らせていく。日本でもR18+指定を受けた描写は慣れていないひとにはきついだろう――とは言い条、私を含め、こういうのを頻繁に観ている層にはどってことのないレベルだが、“悪魔の所行”を、レーティングを恐れずに盛り込んでいった精神は天晴とたたえたくなる。やはり現代ホラー映画の優れた作り手ジェームズ・ワンは本篇同様に実話とベースとした作品『死霊館』で全年齢指定を受ける、という作り方をあえて選択して成功したが、本篇のように潔くマーケティングに制約を受ける、というのもまた道である。

 そして、制約を受け入れてまで作り出したクライマックスの壮絶たる“悪魔祓い”のシークエンスには一見の価値がある。モチーフ自体は『エクソシスト』以来の伝統的なスタイルに則っているが、CGや特殊メイク、特殊効果を用いて描き出される悪魔と人間との戦いは、私の知る限り屈指の迫力である。悪魔と対峙する側の者たちが感じているはずのプレッシャーまで伝わるヴィジュアルは、同種の作品を撮ろうとする作り手の指標となると同時に、大きな壁になりそうな仕上がりだ。

 ちなみにスコット・デリクソン監督は、一連の作品のクオリティが買われたのか、『アベンジャーズ』に連なるマーヴェル・ユニヴァースの1篇『Doctor Strange』の監督としてアナウンスされているが、他方で予定が出ている新作はやはりホラーらしい。本篇のクオリティを思うと、今後も是非ともホラーには関わり続けて欲しい才能である。



関連作品:

エミリー・ローズ』/『フッテージ』/『地球が静止する日

ハンナ』/『ローン・サバイバー』/『ゼロ・ダーク・サーティ』/『悪の法則』/『アイアンマン2』/『プロメテウス』/『テッド』/『ラッキーナンバー7

たたり』/『悪魔の棲む家』/『死霊館